ベートーヴェン|ピアノソナタ第23番「熱情」解説と名盤、無料楽譜

2021年5月30日

まずはダイジェストで聴いてみよう!

力強い不協和音の連打に続いて次々と紡ぎ出される16分音符の旋律は、まったくとどまる所を知らず、まるで全てを押し流してしまう奔流のようです。

まずは第3楽章冒頭部分をダイジェストで聴いてみましょう。

ピアノ:ファジル・サイ

ベートーヴェン:「悲愴」「月光」「ワルトシュタイン」「熱情」

ベートーベン:ピアノ・ソナタ全集

作曲の背景

ピアノソナタ第23番ヘ短調 作品57「熱情」はドイツの作曲家、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827) が1805年に書き上げたピアノソナタです。

持病の難聴の悪化に苦しみ、1802年には「ハイリゲンシュタットの遺書」と呼ばれる手紙を弟たちに宛てて書き、自殺まで考えるほどの絶望に追い込まれたベートーヴェン でしたが、この苦悩を芸術に対する強い情熱を持って乗り越えると、1804年には中期の傑作群の皮切りとなる交響曲第3番「英雄」を発表します。

そして、この前年の1803年10月、ベートーヴェンはフランスのエラール社製の新しいピアノを手に入れます。

当時、ピアノは様々な改良が加えられ、まだまだ発展途上の楽器でした。

このエラール社製の新しいピアノは従来のものより音域が広く、機能的にもより力強い響きが得られるピアノに仕上がっていました。

ベートーヴェンはこの新しいピアノに触発されるかのように、ピアノソナタ第21番「ワルトシュタイン」、第22番を作曲し、その次に着手したのが今回ご紹介するピアノソナタ第23番「熱情」なのです。

そしてこの作品では新しいピアノの可能性を試すかのように、新しく拡大された最高音域を駆使し、まるでオーケストラのような力強くダイナミックな響きを存分に堪能することが出来ます。

ベートーヴェンはこの頃、完成した唯一のオペラ作品となる「フィデリオ」の作曲にも取り組んでおり、それと並行して作曲されたものと考えられています。

さらにベートーヴェンはこの頃、交響曲第5番「運命」のスケッチも開始しており、「運命の動機」として知られる冒頭の4つの音からなるモチーフがこの作品の中にも現れます。

今も現存するベートーヴェンの自筆譜には多くの書き直しの後と、雨に濡れたと思われるインクの染みが残っており、ベートーヴェンが作品の完成後も楽譜を持ち歩いて、改訂を加えていたことがうかがえます。

楽譜は1807年に出版され、親しい間柄であったフランツ・フォン・ブルンスヴィック伯爵に献呈されました。

このフランツ・フォン・ブルンスヴィック伯爵は、ベートーヴェンが書いた「不滅の恋人」と呼ばれる手紙の相手として考えられているヨゼフィーネ・ブルンスヴィックの兄です。
※この手紙の相手は他にも複数の女性の名前が候補としてあげられています。

「熱情(appassionata)」の副題は1838年にピアノ連弾用の編曲版が出版された際に出版社が付けたもので、ベートーヴェン 自身によるものではありません。

この作品はピアノソナタ第8番「悲愴」、第14番「月光」と並んでベートーヴェンの三大ピアノソナタと称され親しまれています。

ベートーヴェンが完成後に何度も改訂を加えた渾身の力作、ピアノソナタ第23番「熱情」、ベートーヴェン は力を出し尽くしたかのように、その後4年の間、ピアノソナタを書くことはありませんでした。

ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番「熱情」解説

第1楽章:Allegro assai

冒頭、「熱情」のタイトルとは対極にあるような、深く沈み込むような第1主題が静かに奏でられます。

その第1題はヘ短調の主和音「ファ・ラ♭・ド」を分散した和音で構成されています。(譜例①)

第1楽章:冒頭部分

そしてこの第1主題に静かにささやくように合いの手を入れるのが「ジャ・ジャ・ジャ・ジャーン」の擬音で表現される「運命の動機」です。(譜例②)

交響曲第5番「運命」では冒頭、劇的に現れる「運命の動機」ですが、この作品ではまず遠くでささやくかのように静かに現れますが、どこか不安を感じさせるような雰囲気を漂わせています。

そして、この「運命の動機」がきっかけとなって、冒頭の静かな曲調は一変し、「熱情」のタイトル通り、燃え上がるかのような激しい曲想となって展開されていきます。

次に現れる第2主題はいくぶん明るく穏やかな曲想で、第1主題同様に変イ長調の分散和音「ラ♭・ド・ミ♭」で構成されています。(譜例②)

譜例②:演奏動画(02:01)

はらはらと舞い落ちるかのような美しい下降音型に続いて現れる劇的な旋律もまた分散和音で構成されていて、ここでは右手と左手で、上行と下降が逆行するような音型に工夫しています。

譜例③:演奏動画(02:41)

このようにこの作品では分散和音という非常にシンプルな素材を基に、巧みな作曲技法で音楽を展開することによって、作品に統一感を出しています。

曲中、あちらこちらに「運命の動機」も印象的に現れますので、こちらも耳を澄ませて聴いてみて下さい。

第2楽章:Andante con moto

冒頭に奏でられる第2楽章の主題は、すべてを悟った老人が何かを穏やかに語りかけるような口調です。(譜例④)

譜例④:第2楽章冒頭部分

第2楽章ではこの主題が次々と変奏されていきます。第1の変奏では左手のシンコペーションのリズムに乗って、穏やかな語り口調に少し動きが加わります。

第2の変奏では右手で奏でられる16分音符がポタポタと滴り落ちる雨粒のようで、何とも言えない情感を感じます。

第3の変奏ではさらに細かい32分音符が紡ぎ出される中を主題は力強い和音によって奏でられます。

最後は再び冒頭主題が静かに奏でられ、アタッカで第3楽章へと突入します。
「アタッカ(attacca)」=切れ目なく次の楽章を演奏

第3楽章:Allegro ma non troppo – Presto

第2楽章の最後の和音が響く余韻の中、途切れることなく演奏される第3楽章は、冒頭、力強いファンファーレ風の不協和音の連打によって始まります。

疾風のように音階を駆け巡る16分音符の序奏に続き、その勢いそのままにへ短調の第1主題が現れます。(譜例⑤)

譜例⑤:演奏動画(18:32)

右手が川の流れのように16分音符を奏でる間、左手は「タ・タァーン」と心に楔(くさび)を打つかのような印象的なリズムを奏でます。

右手の16分音符と左手のリズムがクロスして繰り返された後、今度は両手で16分音符を刻み、次にハ短調の第2主題が現れます。(譜例⑥)

譜例⑥:演奏動画(19:23)

これら2つの主題が展開、再現された後、最後は勢いと力強さを増しながら、冒頭と同じくヘ短調の主和音を分散和音で華やかに演奏して終曲します。

ベートーヴェン はこの最後の箇所を当初の低い音域から、新しいエラールのピアノで奏でることのできる最高音域まで使用して書き換えており、幅広い音域を駆け巡ることで、より華麗できらびやかにクライマックスを飾ることに成功しています。(譜例⑦)

譜例⑦:第3楽章最終部分

※「」はベートーヴェンが新しく得たエラール社のピアノで演奏できる最高音、「8…… 」「記譜より1オクターヴ上の音で演奏」を意味する略記号です。

ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番「熱情」YouTube動画

※こちらの動画は埋め込みが出来ません。下記のタイトルをクリックしていただき、リンク先のyou tubeでご覧ください。

ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番ヘ短調 作品57「熱情」
第1楽章(00:25)
第2楽章(11:09)
第3楽章(18:09)

ピアノ:ダニエル・バレンボイム

ダニエル・バレンボイムは1942年生まれ、アルゼンチン出身の指揮者でピアニストです。

早くしてその才能を開花させたバレンボイムは若い頃からピアニストとしての名声を確立すると共に、指揮者としても華々しい活躍をします。

1991年にショルティの後を受けシカゴ交響楽団の音楽監督に就任したバレンボイムは2006年に退任した後も、世界のメジャーオーケストラを舞台に活躍しつつ、ピアニストとしても活躍する、まさしく現代のカリスマの1人です。

ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番「熱情」無料楽譜

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上記のタイトルをクリックして、リンク先から無料楽譜をダウンロード出来ます。ご利用方法がわからない方はこちらの記事を参考にしてください。

ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番「熱情」おすすめの名盤

管理人piccoloおすすめの名盤はこちら!

ベートーヴェン
1. ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 作品13 「悲愴」
2. ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 作品27の2 「月光」
3. ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 作品57 「熱情」

ピアノ:エミール・ギレリス
録音:1980年9月(1, 2)、1973年6月(3) ベルリン

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エミール・ギレリス(1916-1985)は旧ソ連で生まれた20世紀を代表するピアニストです。

老舗レーベル、ドイツ・グラモフォンで1972年からベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集録音のプロジェクトが始まりましたが、32曲あるピアノ・ソナタの内、27曲を録音して1985年、惜しまれつつこの世を去り、残念ながら未完に終わりました。

今回ご紹介するアルバムではベートーヴェンの三大ピアノソナタとして知られる第8番「悲愴」、第14番「月光」と共に晩年のギレリスの格調高い演奏を聴くことが出来ます。

この作品では力強さや勢いを重んじ、疾風怒濤のような演奏で、クライマックスでは細かい音の粒が聴き取れないような録音も多数見かけますが、ギレリスは硬質なタッチでクライマックスでも細かい音の1つ1つがクッキリと浮かび上がるような鮮明な演奏を聴かせてくれています。

ベートーヴェンの三大ピアノソナタを1枚で楽しめる管理人おすすめの名盤です。

ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番「熱情」より第3楽章
ピアノ:エミール・ギレリス

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まとめ

ベートーヴェン作曲のピアノソナタ第23番「熱情」、いかがでしたでしょうか?

冒頭の静かな雰囲気から一変してドラマティックな展開を見せる第1楽章、劇的な第1楽章と第3楽章にはさまれて静かに語り掛けるかのような第2楽章、絶え間なく紡ぎ出される16分音符の調べが運命の奔流のようにも感じられる第3楽章、ベートーヴェンの魅力が凝縮されたピアノ・ソナタの傑作です。

「作曲の背景」で触れたようにベートーヴェンが新しく手にしたエラール社のピアノが可能にした、拡大された音域と力強い響きを存分に駆使した意欲作でもあります。

「ピアノ曲は小品しか聴いたことがない。」と言う方はこの機会にぜひ一度全曲を通して聴いてみて下さい。

新しい世界が広がるかも知れませんよ?

最後までお読みいただきありがとうございます。こちらの作品もぜひ聴いてみてください!

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