ベートーヴェン|ピアノ・ソナタ 第14番「月光」【解説と無料楽譜、おすすめの名盤】
目次
まずはダイジェストで聴いてみよう!
心に深く沈み込むような三連符の調べに乗って、静かに語りだすかのような付点のリズムが印象的な旋律が奏でられます。
まずはこの印象的な冒頭部分をダイジェストで聴いてみましょう。
ピアノ:マレイ・ペライア
作曲の背景
ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 作品27-2はドイツの作曲家、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)が1801年に作曲したピアノソナタです。
作品番号が27-2となっているのは、この作品が1802年に出版された際にピアノ・ソナタ第13番と対の作品として発表されたためで、ピアノ・ソナタ第13番が作品27-1、第14番が作品27-2となっています。
この2つの作品にはベートーヴェン自身が「幻想曲風ソナタ」(Sonata quasi una Fantasia)と言うタイトルを付けていますが、この第14番は「月光」もしくは「月光ソナタ」の愛称で広く親しまれています。
「月光」の愛称が広まった経緯としては諸説あり、はっきりとはわかりませんが、一般的にはドイツの詩人で音楽評論家のルートヴィヒ・レルシュタープ(1799-1860)がこの作品を評して「スイスのルツェルン湖の月光の波に揺らぐ小舟のよう」と例えたことに由来していると言われています。
ベートーヴェンが没した1827年にレルシュタープは28歳を迎えたこと、1840年前後の出版物には既に「月光」のタイトルが見られることなどから、この愛称が世に広まっていくのはベートーヴェンの没後しばらくしてからのことと考えられます。
この作品が作曲された1801年、31歳のベートーヴェンは伯爵令嬢ジュリエッタ・グイチャルディ(1782-1856)のピアノの教師を引き受けることになります。
ベートーヴェンはほどなくこの12歳年下の女性に恋愛感情を抱いたようで、この作品はジュリエッタ・グイチャルディに献呈されています。
年齢も身分も違うこの2人の恋愛は成就することはありませんでしたが、持病の難聴の悪化に苦しむベートーヴェンにしばしの心の安穏をもたらし、生活にも変化を与えたであろうことは遺された書簡から伺えます。
この作品を書き上げた翌年の1802年、耳が聴こえないことの苦しみ、悲しみ、そしてその為に人々から遠ざかって行ってしまう孤独感、周囲の人たちの誤解と偏見、それらすべてのことからくる絶望感に苦しむベートーヴェンはハイリゲンシュタットの遺書として有名な手紙を甥のカールと弟ヨハンに宛てて遺すことになります。
ベートーヴェン|ピアノ・ソナタ 第14番「月光」解説
第1楽章 Adagio sostenuto
第1楽章を通じて奏される三連符の調べが心に深く刻み込まれるようでとても印象的です。
ベートーヴェンが楽譜に「可能な限り繊細に」と指示した通り、静かにそして刻々と変化していく和音がとても詩的で厳かな雰囲気を醸し出しています。
三連符に乗って現れる付点のリズムが印象的な旋律は静かな語り口調で決して雄弁ではありませんが、心に残ります。
それまでピアノ・ソナタの第1楽章はテンポの速い楽章を据えるのが一般的でしたが、ベートーヴェンはこの作品ではより自由なアイデアで緩徐楽章を第1楽章に据えています。
自ら「幻想曲風ソナタ」とタイトルを付けている所以でもあるかと思います。
きわめて個人的な感想ですが、この第1楽章を聴くとバッハの作品をシロティが編曲した「前奏曲 第10番 ロ短調」を思い起こします。
第2楽章 Allegretto
静かで深く内省的な第1楽章と激情をも感じさせる第3楽章に挟まれた第2楽章は穏やかで愛らしい雰囲気に包まれた心休まる楽章です。
この作品を献呈したジュリエッタ・グイチャルディへの恋愛感情からベートーヴェンに訪れた束の間の心の安穏が見て取れるかのような曲想です。
第3楽章 Presto agitato
急速なテンポで分散和音を駆け上がり、その頂点で激しい和音を響かせます。
第1楽章と対照的な激情がほとばしる楽章になっています。
冒頭に現れた激情はドラマティックな高揚と変化を見せながら終曲します。
ベートーヴェン|ピアノ・ソナタ 第14番「月光」youtube動画
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第14番「月光」嬰ハ短調 作品27-2
第1楽章(00:00)第2楽章(06:03)第3楽章(08:23)
ピアノ:Anastasia Huppmann
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ベートーヴェン|ピアノ・ソナタ 第14番「月光」おすすめの名盤
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ベートーヴェン
1. ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 作品13 「悲愴」
2. ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 作品27の2 「月光」
3. ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 作品57 「熱情」
ピアノ:エミール・ギレリス
録音:1980年9月(1, 2)、1973年6月(3) ベルリン
エミール・ギレリス(1916-1985)は旧ソ連で生まれた20世紀を代表するピアニストです。
老舗レーベル、ドイツ・グラモフォンで1972年からピアノ・ソナタ全集録音のプロジェクトが始まりましたが、32曲あるピアノ・ソナタの内、27曲を録音して1985年、惜しまれつつこの世を去り、残念ながら未完に終わりました。
今回ご紹介するアルバムではベートーヴェンの三大ピアノソナタとして知られる第8番「悲愴」、第23番「熱情」と共に晩年のギレリスの格調高い演奏を聴くことが出来ます。
骨太で男性的な表現が特徴的とされたギレリスですが、64歳を目前にして録音された第14番「月光」では落ち着いたテンポで抑制された第1楽章と駆け抜けるようなテンポで壮年期の骨太さと激情を感じさせる第3楽章のコントラストが印象的な1枚です。
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参考資料:「月夜にきらめく不滅の響き-ベートーヴェンの月光-」『ららら♪クラシック』URL:https://www.nhk.or.jp/lalala/archive160430.html
「ピアノソナタ第14番 (ベートーヴェン)」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2020年2月25日 (火) 01:26 URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/ピアノソナタ第14番_(ベートーヴェン)
「ベートーヴェン :ピアノ・ソナタ 第14番 「月光」 Op.27-2 嬰ハ短調」『ピティナ・ピアノ曲辞典』URL:https://enc.piano.or.jp/musics/6554