ベートーヴェン|交響曲第5番「運命」【解説と名盤、youtube動画】
目次
まずはダイジェストで聴いてみよう!
クラシック音楽など全く縁のない方も、一度は耳にしたことのある「ジャジャジャジャーン♪」と言う有名な旋律。
まずは劇的な冒頭部分をダイジェストで聴いてみましょう。
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
これほど有名なベートーヴェンの「運命」ですが、冒頭のこの部分以外は聴いたことがないと言う方も結構多いのではないでしょうか?クライマックスの第4楽章も少し聴いてみましょう。
サイモン・ラトル指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
作曲の背景
交響曲第5番 ハ短調 作品67はドイツの作曲家、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)が1808年に書き上げた交響曲です。
「運命」の通称はベートーヴェン自身が命名したものではありませんが、冒頭の4つの音から成る動機を「運命はこのように扉をたたく」と弟子のアントン・シンドラー(1795-1864)に語ったことから後に「運命」と呼ばれるようになったと伝えられています。
弟子のシントラーが語ったこのエピソードには、信憑性に疑義があるようですが、第1楽章のあまりにも印象的な導入部、過酷な運命を克服し勝利するといった雰囲気に包まれた曲全体の持つドラマティックな構成が、いかにもこのエピソードにマッチしていて「運命」の呼称はこの作品にとてもマッチしているように感じます。
1802年、作曲家としては致命的な持病の難聴に苦しみ、「ハイリゲンシュタットの遺書」と呼ばれる手紙を弟たちに書き遺したベートーヴェン でしたが、芸術への強い情熱をもってこの苦悩を克服します。
1804年、「交響曲第3番《英雄》」を書き上げたベートーヴェンはフランスの作家、ロマン・ロラン(1866-1944)をして傑作の森と呼ばせた充実した創作期に入っていきます。
1806年、「交響曲第4番」を完成させたベートーヴェンは翌1807年から1808年にかけて、続く第5番、第6番の作曲に並行して取り組みます。(最初のスケッチは1804年頃までさかのぼると伝えられています。)
1808年12月、ウィーンにあるアン・デア・ウィーン劇場で行われた初演は「交響曲第6番《田園》」の他、「ピアノ協奏曲第4番」「合唱幻想曲」なども含む長大なプログラムで、演奏会としては失敗に終わったようです。
しかし、その後のこの作品に対する評価は誰もが知る通り、交響曲の歴史に燦然と輝く不滅の作品としての評価を得ています。
この作品は同時に初演された「交響曲第6番《田園》」と共に、ベートーヴェンを支援してきたロプコヴィッツ侯爵とラズモフスキー伯爵に献呈されました。
ベートーヴェン|交響曲第5番「運命」解説
第1楽章:Allegro con brio
「ジャジャジャジャーン♪」と言う擬音で表現される、あまりにも有名なこの4つの音からなる第1主題は「運命の動機」と呼ばれ、第1楽章全体を支配し、執拗に繰り返されます。
冒頭から何か熱い音の塊のようなものによって、胸を打たれるかのような印象を受けるこの「運命の動機」ですが、楽譜を見ると最初の8分休符に続き、3つの8分音符とフェルマータの付いた2分音符で書かれています。(※フェルマータ=音を程よく伸ばす)
擬音で表現すると「ジャジャジャジャーン♪」と言うよりは「ン!ジャジャジャジャーン♪」と言った感じでしょうか?(譜例①)
この1拍目の裏から多数のオーケストラ奏者が一つの塊となって強奏する場面では、指揮者やオーケストラによる表現も様々で、いろいろな演奏を聴き比べてみるのも面白いかも知れませんね。
いくつかの指揮者とオーケストラで少し聴き比べてみましょうか?
ニコラウス・アーノンクール指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス指揮:ボストン交響楽団
クラウディオ・アバド指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
フェルマータの長さ、冒頭主題へ回帰する前のテンポの取り方、オーケストラへのきっかけの出し方など、違いがあって面白いですね。
指揮者の中には少し予備動作を取られる指揮者もいますが、大きく振り下ろすだけの指揮者のもとでも一丸となってテンポを出すオーケストラを聴くと流石にプロだなと改めて感じます。
この「運命の動機」ですが、実はベートーヴェンの他の複数の作品で、よく似た音型が見られることで知られています。
その一例を少し見てみましょう。作曲時期も同時期にあたる「熱情」として知られる「ピアノソナタ第23番ヘ短調 作品57」です。(譜例②)
ピアノソナタ第23番「熱情」第1楽章
ピアノ:Anastasia Huppmann
いかがですか?「運命の動機」が聴こえましたか?
「運命の動機」はベートーヴェンがこだわり抜いたモチーフだったのですね。
ホルンが奏でる旋律をブリッジとして現れる第2主題は緊張感に満ちた第1主題「運命の動機」とは対照的に穏やかでおおらかです。(譜例③)
第1楽章では第1主題の音型がこれでもかと言うほど執拗に反復されながら、緊張を増しつつ高揚していき終曲します。
第2楽章:Andante con moto
第1楽章とは対照的に、穏やかな雰囲気に包まれた、弦楽器と木管楽器が奏でる牧歌的にも感じる第1主題。(譜例④)
それに続く第2主題はまず木管楽器に現れ、金管楽器へと引き継がれる力強い堂々とした旋律です。(譜例⑤)
第2楽章はこの2つの主題が時には美しく流麗に、時には勇壮に、そして時にはやや憂いを帯びた表情をみせながら変奏されていきいます。
第3楽章:Allegro
低弦の分散和音による少し不安げな旋律に続き、ホルンがスケルツォの主題を力強く奏でます。(譜例⑥)
3拍子で描かれるスケルツォの主題は第1楽章冒頭の「運命の動機」とも似た音型です。
冒頭の漂うような不安げな旋律と勇壮なスケルツォの主題が繰り返された後、中間部のトリオでは低弦の奏でる8分音符の旋律に導かれ、他の楽器が重なっていくフーガ風の形式で描かれています。(譜例⑦)
その後、再び冒頭のスケルツォに戻りますが、ここでは主題は木管楽器によって少しコミカルなダンス風にも感じられる雰囲気で奏でられます。
冒頭の漂うような旋律が徐々に大きくなると、そのまま「attacca(休みなく続けて演奏)」で第4楽章へ突入します。
第4楽章:Allegro – Presto
冒頭、終楽章の主調であるハ長調の主和音(ド・ミ・ソ)を基にした、華やかな第1主題が力強く奏でられます。(譜例⑧)
第4楽章ではピッコロ、トロンボーン、コントラファゴットが楽器編成に加えられていますが、これらの楽器はこの作品で交響曲に初めて使用された例として有名です。
譜例⑧のスコア(総譜)を見ると冒頭からピッコロ、トロンボーン(3本)とコントラファゴットが加わり、響きに華やかさと厚みが増しているのがわかります。
またハ短調で描かれた劇的で重々しい「運命の動機」が支配する第1楽章に対し、華やかで明るい響きが印象的なハ長調でフィナーレを迎える「暗から明へ」「苦悩から歓喜へ」と言う楽曲構成は、ベートーヴェン以後の作曲家たちの作風にも多大な影響を遺すことになりました。
途中から3連符と4分音符を組み合わせた音型が現れますが、これも「運命の動機」を彷彿とさせ、全曲に統一感を出しています。
楽曲はクライマックスへ向けさらに劇的に展開しますが、一旦小休止を挿むかのように第3楽章を回顧します。
その後、再び第4楽章冒頭部分を再現し、コーダへと突入します。
最後は急速にテンポを上げ、華やかに輝かしく終曲します。
ベートーヴェン|交響曲第5番「運命」youtube動画
ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調 作品67「運命」
第1楽章(00:00)
第2楽章(07:40)
第3楽章(18:00)
第4楽章(23:59)
イヴァン・フィッシャー指揮:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
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ベートーヴェン
交響曲第5番ハ短調 Op.67『運命』
交響曲第7番イ長調 Op.92
カルロス・クライバー指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1974年(第5番)1975年&1976年(第7番)
伝説の巨匠カルロス・クライバーが遺した有名な録音ですが、何とこの録音が交響曲デビュー録音とのこと。
早めのテンポ設定で疾走するドライブ感がたまりません!交響曲第7番も収録されていてこちらも名演です!
こちらのアルバムは「Amazon Music Unlimited」でもお楽しみいただけます。まずは無料体験から!
まとめ
ベートーヴェン作曲の交響曲第5番「運命」、いかがでしたでしょうか?
クラシックと縁のない方でも、誰もが聴いたことのあるであろう冒頭部分。全クラシック作品の中でも最も有名と言っても過言ではないのではないでしょうか。
反面、この有名な冒頭部分以外は聴いたことがない・・・と言う方も多いのでは?
交響曲、全曲は長すぎてまだ聴いたことが・・・と言う方はぜひこの機会に全曲聴いてみませんか?
冒頭の主題がベートーヴェンのしかめっ面をした肖像画と重なり、気難しく神経質そうな性格の音楽のイメージがあるかも知れませんが、聴いてみるとベートーヴェンのまた違うキャラクターを感じるかも知れませんよ?
ご紹介した動画の演奏時間は30分少々です。後の作曲家にも多大な影響を与えた名作です。気軽にお楽しみいただければと思います。
最後までお読みいただきありがとうございます。こちらの作品もぜひ聴いてみてください!
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