ラヴェル「ボレロ」解説とおすすめの名盤

2021年5月30日

まずはダイジェストで聴いてみよう!

反復されながら高揚していくリズムと異国情緒溢れる旋律、エンディングの部分では高まったエネルギーが爆発するかのように終曲します。

まずはクライマックスの部分をダイジェストで聴いてみましょう。

ワレリー・ゲルギエフ指揮:ヴェルビエ祝祭管弦楽団(Verbier Festival Orchestra)

作曲の背景

「ボレロ」はフランスの作曲家、モーリス・ラヴェル(1875-1937)が1928年、53歳の時に作曲したバレエのための音楽です。

この頃、既に軽度の記憶障害や言語症に悩まされていたラヴェルですが、この1928年には初めてアメリカに渡り、4か月に及ぶ演奏旅行を行っています。

創作活動はかなり低調になっていて、アメリカ帰国後から亡くなる1937年までに完成させた曲はこの「ボレロ」を含めてわずか4曲のみです。

この「ボレロ」はロシア出身のバレリーナ、イダ・ルビンシュタイン(1885-1960)の委嘱により作曲されたもので、1928年11月22日にパリ・オペラ座で行われたイダ・ルビンシュタインの主宰するバレエ団の旗揚げ公演で初演されました。

イダ・ルビンシュタイン(1922)

イダ・ルビンシュタインがバレエを始めたのは20歳の時と非常に遅く、バレリーナとしての技量は決して一流とは言えなかったようですが、写真を見てお分かりの様にそのエキゾチックで妖艶な姿は当時のパリの芸術界にセンセーションを巻き起こしたようです。

ラヴェル以外にもドビュッシー、ストラヴィンスキー、イベール、オネゲルと言った著名な作曲家が彼女に関わる作品を作曲しています。

ボレロ(bolero)はスペインを起源とする舞曲で、ラヴェルはこの作品で、終始同じテンポで繰り返される3拍子のリズムと旋律も最後の部分を除いては2つの旋律が様々な楽器にバトンを渡しながら受け継がれていくと言う、かなり異色な作品構成にチャレンジしています。

ラヴェル自身はこの作品が流行するとは思っていなかったようですが、たちまち人気を博し、今日ではラヴェルを代表する作品として知られています。

モーリス・ベジャール振付のバレエ「ボレロ」

今日ではバレエ作品としてよりも管弦楽曲としてオーケストラの演奏会で取り上げられる機会の方が多く、元来バレエ音楽であったことをご存じでない方も多い「ボレロ」ですが、1981年、あるフランス映画が公開されたのを機にバレエ作品として再び脚光を浴びることになります。

その映画はクロード・ルルーシュ監督「愛と哀しみのボレロ」

この映画に登場する4人の主要な人物にはそれぞれモデルとなった実在の人物がいて、ベルリン、モスクワ、パリ、ニューヨークを舞台に、指揮者のヘルベルト・フォン・カラヤン、バレエダンサーのルドルフ・ヌレエフ、シャンソン歌手のエディット・ピアフ、ジャズミュージシャンのグレン・ミラーらの波瀾の人生を描いています。

クロード・ルルーシュ監督『愛と哀しみのボレロ』予告編

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この映画のクライマックスで、当時20世紀バレエ団を率いていたモーリス・ベジャール(1927-2007)の振付けで、同バレエ団のソリスト、ジョルジュ・ドン(1947-1992)が踊る「ボレロ」が大変な話題となりました。

作曲の背景で触れたように、そもそもこの作品はイダ・ルビンシュタインと言うバレリーナのために書かれた作品で、バレエの内容もスペインの酒場で一人の踊り子が踊っていると次第に周りに男たちが集まりだし、ついには熱狂し一緒に踊りだすと言ったものです。

1928年の初演の振付を担当したのは当時の高名なダンサーで振付師のヴァーツラフ・ニジンスキーの妹、ブロニスラヴァ・ニジンスカです。

イダ・ルビンシュタインは今ではファッションブランドとして知られる「ランバン 」(LANVIN)の創設者、ジャンヌ・ランバンのデザインしたスペイン風のドレスを着て踊ったそうです。

その約30年後、ベジャールがこの「ボレロ」の振付を発表したのは映画の公開より20年以上も前の1960年のことですが、その時は女性ダンサー、ディスカ・シフォニスのために振付けられたそうです。

ベジャールの「ボレロ」の振付は真っ赤な円卓の上でメロディと呼ばれるソリストが静かに踊りだし、楽曲が徐々に高揚していくのに伴い、バレエの動きも徐々に大きくなっていきます。

やがて円卓をぐるっと囲むリズムと呼ばれる男性ダンサーが少しずつ踊りだし、最後には壮大な群舞へと発展します。

このベジャール振付けによる「ボレロ」ソリスト=メロディ役を男性として1979年に初めて踊ったのがジョルジュ・ドンです。

そしてその舞踊が作中で使われたこの映画が1981年に公開されると一躍バレエ・ファン以外にも名を知られるようになり、彼の代表作となります。

上半身裸のジョルジュ・ドンの鍛え上げられた身体と、そのしなやかな踊り、そして妖艶とも感じられる強い目力に、当時この映画を見て、目が釘付けになったのを覚えています。

ベジャールは2007年に亡くなりますが、彼が創設したベジャール・バレエ・ローザンヌではベジャール振付の「ボレロ」が今も演じられ続けています。

YouTubeにダイジェスト動画がアップされていますので少しご紹介したいと思います。

ベジャールバレエローザンヌ
メロディ:ジュリアン・ファヴロー

ベジャールバレエローザンヌ
メロディ:エリザベット・ロス

ベジャールバレエローザンヌを代表する男性ダンサーと女性ダンサーの「ボレロ」をご覧いただきましたが、個人的にはやはりジョルジュ・ドンの舞踊のイメージが強烈過ぎてどうしても頭から離れません。

ジョルジュ・ドン「ボレロ」の強烈な個性、かなり個人的な意見ですが「妖艶」「煽情的」とも感じられる雰囲気がとても印象深い舞踊です。

1992年、ジョルジュ・ドンはエイズのために45歳の若さで亡くなり、まさしく伝説のダンサーとなります。

※映画もバレエも廃盤になっている映像作品が多く残念です。素晴らしい芸術作品なのでぜひ再発売して欲しいものです。

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ラヴェル「ボレロ」解説

スネア・ドラムが刻む2小節から成る同じリズムが最後の2小節を除いて終始反復されます。全340小節中、338小節もの間、同じリズムを徐々にクレッシェンドしながら演奏しなくてはならない打楽器奏者泣かせの作品です。

旋律も最後を除いては16小節から成る2つのパターンが反復されていきます。各楽器のソロがフォーカスされ腕の見せ所ですが、緊張の一瞬でもあります。

パターンⒶ:フルートソロ①
パターンⒷ:E♭管クラリネットソロ④

以下、旋律を担当する各楽器の登場順をご紹介し、解説に代えたいと思います。

①フルート
「pp」(ピアニッシモ)のスネア・ドラムに続く、「pp」のフルートソロ、フルートの最低音域で書かれていて、プロの奏者の方でも緊張する場面ではないでしょうか?

②クラリネット

③ファゴット
ファゴットにとってはかなり高い音域で柔らかくも独特の音色を味わえます。

④E♭管クラリネット
クラリネットの仲間ですが通常使用されるものより管が短く、より高い音域を担当するクラリネットです。(E♭管=変ホ長菅)

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⑤オーボエ・ダモーレ
これもオーボエの仲間ですが、オーボエよりやや低い音域を持ち、音色も柔らかい楽器です。

⑥フルート、トランペット
トランペットはミュートと呼ばれる弱音器をベルに挿し演奏していて音色の変化が楽しめます。

⑦テナーサクソフォーン
⑧ソプラノサクソフォーン
オーケストラで活躍する機会は少ない楽器ですが、この作品では存在感を示しています。ジャズやポップスで使用される時よりも奏法的に甘美で柔らかい音色が魅力です。

ビブラートも含めて奏者による音色の違いが最も大きく出るソロですので、そこも聴きどころですね。

⑨ピッコロ、ホルン、チェレスタ
かなり異色の組み合わせですが、楽器の組み合わせの妙と、違う調で同じ旋律を同時に奏でることにより、手回しオルガンのような独特の響きを醸し出しています。

⑩オーボエ、オーボエ・ダモーレ、コーラングレ、クラリネット

⑪トロンボーン
トロンボーンならではのグリッサンドを伴う旋律が魅力的ですが、トロンボーンにとってはかなり高い音域で、おまけにそこまで登場の機会がないと言う、トロンボーン奏者泣かせのソロです。

⑫フルート、ピッコロ、オーボエ、コーラングレ、クラリネット、テナーサクソフォーン

⑬フルート、ピッコロ、オーボエ、クラリネット、第1ヴァイオリン

⑭フルート、ピッコロ、オーボエ、コーラングレ、クラリネット、テナーサクソフォーン、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン

⑮フルート、ピッコロ、オーボエ、コーラングレ、トランペット、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン

⑯フルート、ピッコロ、オーボエ、コーラングレ、クラリネット、トロンボーン、ソプラノサクソフォーン、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ

⑰フルート、ピッコロ、トランペット、サクソフォーン、第1ヴァイオリン

⑱フルート、ピッコロ、トランペット、トロンボーン、サクソフォーン、第1ヴァイオリン

楽曲冒頭の「pp」(ピアニッシモ)からゆっくりゆっくりと様々な楽器の組み合わせで巧みな色彩を表現しながら高揚してきた旋律は、最後に転調し、高まりきったエネルギーが爆発するかのように熱狂的に終曲します。

ラヴェル「ボレロ」YouTube動画

ラヴェル:ボレロ

ダニエル・バレンボイム指揮:ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団
BBCプロムス2014より

ラヴェル「ボレロ」おすすめの名盤

管理人おすすめの名盤はこちら!

【収録情報】
ラヴェル
1. ボレロ
2. スペイン狂詩曲
3. 『ダフニスとクロエ』第2組曲
4. 亡き王女のためのパヴァーヌ
5. ラ・ヴァルス

シャルル・デュトワ指揮
モントリオール交響楽団
録音:1981年(1,2,5)、1980年(3)、1983年(4)

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「フランスのオーケストラよりフランスらしい」と言われたデュトワとモントリオール交響楽団のコンビによるラヴェル管弦楽作品集です。

ボレロの演奏は非常に整然とした雰囲気の演奏で、冒頭の最弱音のスネアドラムにのって入るフルートの旋律はフルート奏者によっては大きすぎるビブラートで次ぎのクラリネットより目立って聴こえるケースもありますが、とても美しい弱音でも上品かつエレガントです。

後に続く木管楽器も全体的に洗練された演奏で艶っぽい雰囲気はあまり感じない演奏です。最も音色に特徴のあるサクソフォンも抑制されたビブラートでその代わり装飾音のさばきに少し特徴があります。

盛り上がる後半もデュトワのタクトによって巧みにコントロールされ良くも悪くもハメを外さない模範的な演奏です。

熱狂的なクライマックスを期待する人には向いていないかも知れませんが、心地よいリズムと自然な音楽に身をゆだねたい方にはピッタリの録音かと思います。

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「カラヤン&ベルリン・フィル」「ブーレーズ&ベルリン・フィル」「アンドレ・クリュイタンス&パリ音楽院管」「ジャン・マルティノン&パリ管」「エルネスト・アンセルメ&パリ音楽院管」「マニュエル・ロザンタール&パリ国立歌劇場管」「アバド&ロンドン響」「ゲルギエフ&ロンドン響」「キリル・コンドラシン&ロンドン響」「ジョン・バルビローリ&ハレ管弦楽団」「ヒューゴ・リグノルド&ロンドン・フィル」「サイモン・ラトル&バーミング市響」「ジュゼッペ・シノーポリ&フィルハーモニア管」「シャルル・ミュンシュ&ボストン響」「小澤征爾&ボストン響」「ゲオルグ・ショルティ&シカゴ響」「シャルル・デュトワ&モントリオール響」

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おすすめした「シャルル・デュトワ&モントリオール響」以外では名盤の呼び声の高い「アンドレ・クリュイタンス&パリ音楽院管」、若干外す場面も見受けられますが、録音から50年以上たった今でも色あせない色彩感に溢れた演奏です。

パリ音楽院管の流れを組む「ジャン・マルティノン&パリ管」も木管楽器のソロを中心として洗練された美しい演奏です。

ベルリン・フィル盤ではカラヤンの録音もありますが、個人的には「ブーレーズ&ベルリン・フィル」がオススメです。

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まとめ

ラヴェル作曲の「ボレロ」いかがでしたでしょうか?

とても有名な作品なので、クラシック初心者の方もきっとご存知だと思いますが、元はバレエのために書かれた作品だと言うのは知らない方も多いのではないでしょうか。

ボレロがスペインを起源とする舞曲であることは「作曲の背景」でも触れましたが、ラヴェルはこの「ボレロ」以外にも「スペイン狂詩曲」「亡き王女のためのパヴァーヌ」「道化師の朝の歌」「ヴォカリーズーハバネラ形式のエチュード」などスペインにちなんだタイトル、スペインの情緒を感じさせる作品をいくつも書いています。

これはラヴェルの生地がスペイン近くのバスク地方で、母親もバスク人であったことが大きく影響しているようです。

ラヴェルが最初に耳にした音楽は、彼が深く愛した母親が口ずさんだバスクの民謡だったそうです。

既に50歳を過ぎたラヴェルは最愛の母親が子供の頃に教えてくれたスペインの音楽をまだずっと大切にしていたのですね。

管弦楽の魔術師と呼ばれたラヴェルならではの各楽器の特性を知り尽くした卓越したオーケストレーションで、たった2つの旋律の繰り返しと同じリズムで聴く人を虜にする素晴らしい作品です。

最後までお読みいただきありがとうございました。こちらの作品もぜひ聴いてみてください!

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