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E♭管クラリネットはオーケストラのスパイス!

まずはこちらの動画をご覧ください!

次にご紹介する演奏動画は有名なベルリオーズ「幻想交響曲」の終楽章の一部です。

アヘンを飲んで自殺を試みた若い音楽家は奇怪な夢の中で愛する人を殺し、そのために断頭台で首をはねられます。

終楽章では自身の葬儀に集まる亡霊、魔法使い、化け物の類が饗宴を繰り広げます。

そこには殺したはずの愛する人も現れますが、変わり果てた彼女がけたたましく笑うような様子がクラリネットのソロで描かれます。

次の動画ではそんなクラリネットに注目してご覧ください!

ベルリオーズ:「幻想交響曲」より

クリストフ・エッシェンバッハ指揮:南西ドイツ放送交響楽団(SWR Symphonieorchester)
E♭管クラリネット:Lorenzo Russo

魔女がケタケタと笑うようなトリルが印象的なクラリネットのソロですが、いかがでしたか?

この動画ではクラリネットのソロが2回出てきますが、使っている楽器の違いにお気づきになりましたか?

1回目のクラリネットソロ(00:28)に比べると、2回目のクラリネットソロ(00:47)はずいぶん甲高く、少しヒステリックにも聴こえ、よく見ると楽器も少し短くありませんか?

違いに気付かなかった方はもう一度注意してよく見てみて下さいね。

2回目のクラリネットソロに使われているのは、E♭(エス)管クラリネットと呼ばれる通常のクラリネットより高い音域を受け持つクラリネットです。

19世紀後半の大規模な管弦楽作品で用いられることが多く、ご紹介した「幻想交響曲」はこの楽器を印象的に使った先駆け的な作品です。

その甲高く鋭い高音域の音色はとても特徴的で、まるでオーケストラ作品に使われる魔法のスパイスのようです。

今回の記事はそんな「山椒は小粒でもぴりりと辛い」クラリネットの仲間、E♭(エス)管クラリネットについて解説したいと思います。

E♭(エス)管クラリネットとは?

ここで冒頭の動画でご紹介した「幻想交響曲」のクラリネットのソロの部分の楽譜を見てみましょう。

次の楽譜は動画の1回目のクラリネットのソロです。(譜例①)

譜例①:演奏動画(00:28)

スコア(総譜)の左端には「Cl(Ut)」と記されています。「Cl」はクラリネット(仏:clarinette)を示す略語で、(Ut)はフランス語表記の「ド」、つまりハ長調(C管)のクラリネットを意味しています。

オーケストラで使われるクラリネットはイ長調(A管)変ロ長調(B♭管)のものが主ですが、この作品のようにハ長調(C管)のクラリネットが使われることもあります。

クラシックの世界ではドイツ語の音名が使われることが一般的なので、呼び方はそれぞれA管(アー管)B♭管(ベー管)C管(ツェー管)と呼ばれます。

同じ「ド」の運指を用いても次の鍵盤図のように実際に出る音はそれぞれ異なります。

〇=A(イ音)、△=B♭(変ロ音)、□=C(ハ音)

これらのクラリネットはソプラノ・クラリネットと呼ばれ、オーケストラで活躍する最も一般的なクラリネットです。

ハ長調(C管)のクラリネットは登場する作品も多くないので、変ロ長調(B♭管)のクラリネットで代用することも多いようです。

次に2回目のクラリネットソロの部分の楽譜を見てみましょう。(譜例②)

譜例②:演奏動画(00:47)

スコア(総譜)の左端には「P.Cl(Mi♭)」と記されています。「P.Cl」はフランス語「petite clarinette」の略語で、(Mi♭)はその通り「ミ♭」変ホ長調(E♭管)のクラリネットを意味しています。
※その下の段は2番奏者が担当するC管クラリネットのパートです。

先ほどご紹介した一般的なソプラノ・クラリネットより高い音域を担当するこのE♭管クラリネットソプラニーノ・クラリネットピッコロ・クラリネット小クラリネットなどと呼称されますが、先ほどのソプラノ・クラリネット同様に様々な調性の楽器があります。

最も代表的なものが今回ご紹介する変ホ長調(E♭管)のものですが、リヒャルト・シュトラウス、レスピーギなど作曲家によってはニ長調(D管)の楽器が指定されている場合もあります。

〇=D(ニ音)、△=E♭(変ホ音)

呼び方はそれぞれE♭管(エス管)D管(デー管)となりますが、E♭管クラリネットは通常「エス・クラ」の略称で親しまれています。

C管クラリネットと同様にD管で書かれた作品もE♭管クラリネットで代用されることが多いようです。

クラリネットにはこうした同属楽器と呼ばれる仲間が非常に多く、オーケストラ奏者は必要に応じてそれらを吹き分ける必要があります。

この「幻想交響曲」では1番クラリネット奏者は楽章によってA管、B♭管、C管、E♭管の4種類のクラリネットを演奏するように書かれていますが、先ほどご紹介した動画ではパートをチェンジして2番奏者がE♭管クラリネットを演奏しているようです。

この作品ではE♭管クラリネットは1番奏者に割り振られていますが、通常2番奏者、3番奏者に割り振られていることがほとんどなので、普段E♭管クラリネットを演奏する機会の少ない1番担当の首席奏者はE♭管の登場する楽章だけ2番奏者とチェンジすることもあるようです。

ここまでクラリネットにはA管B♭管に代表される一般的なソプラノ・クラリネットがあり、それより高い音域を担当するソプラニーノ・クラリネットの主なものがE♭管クラリネットと言う説明をしてきました。

次の記事では実際にE♭管クラリネットの活躍するオーケストラ作品を動画と共にご紹介したいと思います。

E♭管クラリネットが活躍するオーケストラ作品

ご紹介する動画はいずれもE♭管クラリネットの登場する場面を含んだ数分の短いものです。それぞれの作品についてはリンク先の記事で詳しく解説していますので、関心のある作品がありましたら、ぜひそちらもご覧ください。

ラヴェル:「ダフニスとクロエ」第2組曲より

Stéphane Denève指揮:サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団
E♭管クラリネット:Lorenzo Russo

動画では終曲「全員の踊り」をご紹介していますが、第1曲「夜明け」でも幻想的な雰囲気で、また違う表情の魅力を見せています。(譜例③)

譜例③:演奏動画(01:14)

ラヴェルの作品では「ボレロ」の中でもE♭管クラリネットのソロが登場します。

ラヴェル:「ボレロ」より

ホセ・クーラ指揮:シンフォニア・ヴァルソヴィア
E♭管クラリネット:Krystyna Sakowska

リヒャルト・シュトラウス:「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」より

ダニエル・バレンボイム指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
E♭管クラリネット:Walter Seyfarth

この作品ではD管が指定されていますが、E♭管で代用されることもあります。クラリネットが描写するのは物語の主人公ティルですが、この最後の場面では様々ないたずらが災いし、ついには絞首刑にされることになったティルが、断末魔の金切り声を上げ、こと切れる場面を描写しています。(譜例④)

譜例④:演奏動画(00:50)

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まとめ

今回の記事ではオーケストラ作品に「ピリッ!」とスパイスを効かせるような存在、E♭管クラリネットについて具体的に登場する作品の動画と共に解説してみました。

クラリネットには様々な調性の同属楽器があることは記事中でも触れましたが、今回ご紹介した高音域を担当するものとは逆に低音域を担当する様々なバスクラリネットもあります。

それらについてはまた機会があれば別の記事で触れてみたいと思います。

E♭管クラリネットの活躍するオーケストラ作品は他にもたくさんあります。最後にこれまで書いてきた記事の中からE♭管クラリネットが活躍するおすすめの作品をご紹介して今回の記事を終わりたいと思います。

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