ラヴェル「ヴォカリーズーハバネラ形式のエチュード」【解説と無料楽譜】
目次
ラヴェル「ヴォカリーズ」解説
「ヴォカリーズ」とは?
「ヴォカリーズ―ハバネラ形式のエチュード」(仏:Vocalise-étude en forme de habanera)はフランスの作曲家、モーリス・ラヴェル(1875-1937)が1907年、32歳の時に作曲した声楽のための作品です。
「ヴォカリーズ」(仏:vocalise)とは、歌詞を伴わずに母音のみによって歌う歌唱法のことで、この歌唱方法による作品も多数ありますが、中でも有名なのはラフマニノフの作曲した「ヴォカリーズ」ではないでしょうか。
今回ご紹介するラヴェル作曲の「ヴォカリーズ」は「ハバネラ形式のエチュード」と副題が付されています。
そもそも「ヴォカリーズ」と言う歌唱法そのものが、声楽の発声練習や練習曲として用いられる機会が多く、このラヴェル作曲の「ヴォカリーズ」も、ラヴェル自身が学んだパリ音楽院からの依頼で書かれたレッスン用の作品であるため「エチュード」(練習曲)と言う副題が付けられています。
「ハバネラ」とは?
副題にあるもう一つのワード「ハバネラ」(Habanera)とは19世紀に流行したリズムが特徴的な舞曲の種類です。
古くはフランスに起源を持つようですが、フランスが植民地支配をしたハイチを経てキューバで発展すると、今度は逆にキューバを植民地支配していたスペインに伝わり、そこで流行するとやがて欧米各国にも広まっていくことになります。
「ハバネラ」とはキューバの首都である「ハバナ風」と言ったニュアンスの意味です。
スペインに伝わって人気に火が点いたことから、「スペインの舞曲」として認識されることも多く、複数の作曲家たちがスペインをモチーフとした作品の中に「ハバネラ」のリズムを用いています。
「ハバネラ」の特徴は次のようなリズムにあります。擬音で例えると「タンッ!ンタ!、タッ!タッ!」と言う感じでしょうか?(譜例①)
文字で表現するのは難しいので、実際に用いられた楽曲を楽譜を見ながら聴いてみましょうか?メロディに耳が行きがちですが、裏で流れるリズムにも注意して聴いてみて下さいね!
まずは「ハバネラ」の人気に火を点けたと言われる、スペインの作曲家、セバスティアン・イラディエル(1809-1865)が作曲した「ラ・パロマ」( La Paloma)を聴いてみましょう。(譜例②)
指揮・ヴァイオリン:アンドレ・リュウ
ザ・ヨハン・シュトラウス オーケストラ
次にスペインを舞台にしたジョルジュ・ビゼー(1838-1875)作曲のオペラ「カルメン」から、有名なハバネラ「恋は野の鳥」を聴いてみましょう。(譜例③)
指揮・ヴァイオリン:アンドレ・リュウ
ソプラノ:Carmen Monarcha
ザ・ヨハン・シュトラウス オーケストラ
いかがでしたか?思わず足で拍子をとってしまうような特徴的なリズムですね。
さて、本題に戻って、ラヴェル作曲の「ヴォカリーズ」はこの「ハバネラ」のリズムに乗って漂うような気怠い雰囲気の旋律が流れます。(譜例④)
三連符で半音階をひらひらと舞い降りるかのような箇所では旋律としての魅力を感じると共に、エチュード(練習曲)としての意義も垣間見えるような気がします。(譜例⑤)
ハバネラのリズムに乗った大変魅力的な旋律はオリジナルの声楽による演奏以外にも、ヴァイオリン、フルートなど様々な楽器のために編曲されて演奏されることの多い作品です。
その際は「ハバネラ形式の小品」と言うタイトルで紹介されている場合もあります。
次の演奏動画でも、いくつかの楽器で演奏されているのをご紹介しようと思います。
ちなみにラヴェル自身がスペインにほど近いバスク地方の生まれで、母親もバスク地方の出身であったこともあり、この作品以外にも「ボレロ」「スペイン狂詩曲」などスペイン情緒を感じさせる作品を遺しています。
「スペイン狂詩曲」の中にも「ハバネラ」のタイトルの曲が含まれますので、聴き比べてみるのも面白いかも知れませんね。
ラヴェル「ヴォカリーズ」youtube動画
ソプラノ版
ソプラノ:Veronika Dzhioeva
Alim Shakh指揮:St. Petersburg Conservatory Symphony Orchestra
ヴァイオリン版
ヴァイオリン:Maria Milstein
ピアノ:Nathalia Milstein
フルート版
フルート:Joséphine Olech
ピアノ:Sélim Mazari
ラヴェル「ヴォカリーズ」無料楽譜
ラヴェル「ヴォカリーズ―ハバネラ形式のエチュード」無料楽譜(IMSLP)
上記のタイトルをクリックして、リンク先から無料楽譜をダウンロード出来ます。ご利用方法がわからない方は下記の記事を参考にしてください。
まとめ
ラヴェル作曲の「ヴォカリーズ―ハバネラ形式のエチュード」、いかがでしたでしょうか?
声楽のエチュード(練習曲)として書かれたとても短い作品ですが、その中には「ハバネラ」の印象的なリズム、ラヴェル特有の漂うような魅力的な旋律と艶っぽい和音の響きが凝縮された作品です。
youtubeには今回ご紹介した楽器以外にもいろんなアレンジの作品がアップされています。
お気に入りの楽器の演奏を探すのも楽しいかも知れませんね。
最後までお読みいただきありがとうございます。こちらの作品もぜひ聴いてみてください!
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