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ラヴェル「ダフニスとクロエ」あらすじと解説、名盤

2021年5月30日

まずはダイジェストで聴いてみよう!

オーケストラが壮大に描きだすのは、朝もやに包まれたかのような幻想的な夜明けの情景です。

そのスコア(総譜)は大変精緻で、まるで幾何学模様のようです。

まずは「夜明け」をダイジェストで聴いてみましょう。

サイモン・ラトル指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

作曲の背景

「ダフニスとクロエ」(仏:Daphnis et Chloé)はフランスの作曲家、モーリス・ラヴェル(1875-1937)が作曲したバレエ音楽です。

1909年、後にパリの芸術界を席巻するバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)の実質的な旗揚げ公演を成功させた高名な芸術プロデューサー、セルゲイ・ディアギレフ(1872-1929)は新作バレエの音楽をラヴェルに依頼します。

この年34歳を迎えるラヴェルは、まだまだ新進気鋭の若手と言って良い作曲家で、この前年の1908年には「スペイン狂詩曲」「夜のガスパール」などの作品を書いています。

バレエの台本は2世紀末から3世紀初め頃に書かれたロンゴスの作とされる古代ギリシアの物語が元となっています。

ジャン=ピエール・コルトー(1787–1843)作『ダフニスとクロエ』

全4巻からなるこの物語の第1巻と第2巻に収められているエピソードを中心にバレエ・リュスの振付師でもあったミハイル・フォーキン(1880-1942)が台本を担当しています。

ディアギレフは依頼した翌年の1910年にはパリで公演するつもりだったようですが、ラヴェルはこの作品の作曲にかなり苦心したようで、結局初演されたのは1912年のことでした。

そしてその間にディアギレフの依頼により作曲され、バレエ・リュスにより初演されたのがストラヴィンスキー「火の鳥」(1910年)、「ペトルーシュカ」(1911年)です。

1912年、「ダフニスとクロエ」バレエ・リュスのパリ公演で初演されますが、当初4日間予定されていた公演は、実際には2日間しか行われませんでした。

これは「ダフニスとクロエ」の公演の前のプログラムで取り上げられた、同じギリシア神話をモチーフとしたドビュッシー作曲の「牧神の午後への前奏曲」に振付を行った「牧神の午後」の追加公演のために公演予定が繰り下げられたからで、プロデューサーのディアギレフは既に「ダフニスとクロエ」に対する熱が冷めてしまっていたとも伝えられています。

また「牧神の午後」で振付を行ったヴァーツラフ・ニジンスキー(1890-1950)はディアギレフの同性愛の相手であり、そのためにディアギレフはこの作品の成功に注力していたとも言われています。

ニジンスキーによる「牧神の午後」はかなり性的な表現も含んでおり、当時のパリでは相当スキャンダラスに受け取られましたが、反面、話題を呼ぶことにもなり、そちらに注目が集まったことで「ダフニスとクロエ」に対する世間の印象は影の薄いものになってしまったようです。

1909年の作曲依頼より、プロデューサーのディアギレフ、作曲者のラヴェル、台本と振付を担当したフォーキンなど関係者それぞれの思惑の違いもあり、紆余曲折を経た上での初演でしたが、その後は再演される機会にも恵まれませんでした。

ラヴェルはこのバレエ作品が初演される前年の1911年、第1場と第2場の音楽から抜粋し「ダフニスとクロエ第1組曲のタイトルで管弦楽作品として発表した後、初演の翌年の1913年には第3場の音楽から抜粋した「ダフニスとクロエ第2組曲を出版しました。

作曲の遅れから初演が延び延びになったにも関わらず、バレエの初演の前に「第1組曲」として発表したことは関係者からの批判も浴びたようですが、バレエ作品としては大きな成功を収めたとは言えない本作品は、管弦楽作品としてはその後高い評価を得ることが出来、特に「第2組曲」はオーケストラの重要なレパートリーとして演奏される機会の多い作品となっています。

ラヴェルの管弦楽曲の中でも傑作と言って良い作品ですので、ぜひ聴いてみてください。

バレエ「ダフニスとクロエ」あらすじ

第1場:神聖な森にある牧草地

序奏と宗教的な踊り

籠をもった若い男女たちがニンフ(ギリシア神話の精霊)への供え物をするために登場します。

若者たちはニンフの祭壇に礼拝し、祭壇を花輪で飾り、輪になって踊ります。

宗教的な踊り

そこへ山羊飼いの青年ダフニスと羊飼いの少女クロエも登場します。

美青年のダフニスに魅かれた若い娘たちは、ダフニスを囲むように踊ります。

それを見たクロエは初めて「嫉妬」と言う感情を感じますが、そのクロエもまた若い男たちの踊りの中に引き込まれていきます。

そこへ牛飼いのドルコンが現れ、クロエに迫っていくと今度はダフニスが嫉妬します。

全員の踊り

ダフニスはクロエを抱き寄せようとするドルコンを突き飛ばすと、二人の恋敵は踊りによって決着をつけることにします。

そして勝った方にはクロエから褒美の口づけをもらう約束をします。

ドルコンのグロテスクな踊り

ドルコンのグロテスクな踊りは周りを囲む若者たちから物笑いにされ、途中で終わらされます。

ダフニスの優雅で軽やかな踊り

今度はダフニスが優雅で軽やかな踊りを披露すると周りを囲む若者たちはダフニスを勝者と決定します。

ダフニスとクロエは抱擁し、口づけの余韻で恍惚としているダフニスを残してクロエは群衆に連れられて立ち去ります。

そこへ好色な年増女リュセイオンが現れ、ダフニスの後ろからそっと目隠しをします。

クロエがふざけているものと勘違いをしたダフニスでしたが、それがリュセイオンだと知ると彼女を離そうとします。

リュセイオンの踊り

ダフニスを誘惑するように身にまとったヴェールをわざと1枚ずつ落としながら悩ましく踊るリュセイオンでしたが、やがて困惑するダフニスをあざ笑うように立ち去っていきます。

その時突然辺りが騒然とし、戦いの叫びが聴こえ、海賊の襲来を告げます。

ダフニスはクロエの身を案じ駆け出しますが、ニンフの祭壇で祈るクロエは海賊たちに見つけられさらわれてしまいます。

一足違いで駆け付けたダフニスは残されたクロエの履物を見つけて、絶望のあまりその場に倒れ込んでしまいます。

夜想曲

この世のものとは思えない不思議な光に辺りが包まれると三体のニンフの彫像から三人のニンフが舞い降り、ゆっくりと神秘的な踊りを始めます。

ニンフらは倒れ伏したダフニスの涙をぬぐい蘇生させるとパン神(ギリシア神話の神)に似た大きな岩の元へダフニスを導きます。

ニンフらはパン神を呼び出し、ダフニスはひれ伏しながらクロエの無事を祈ります。

間奏曲

第2場の舞台を予兆させるかのように遠くで海賊たちの声が聴こえ、それが近づいてくるかのように第1場を終えます。

第2場:切り立つ岩に囲まれた海岸、海賊ブリュアクシスたちの陣地

戦いの踊り

海賊の首領ブリュアクシスの前に連れて来られたクロエは踊るように命ぜられます。

クロエの哀願の踊り

クロエは踊りながらも機を見てその場を逃れようとしますが、すぐにつかまり引き戻されます。

クロエを手籠めにしようとするブリュアクシスはクロエを引き寄せようとしますが、クロエは助けてくれるよう懇願します。

その時辺りは急に怪しい気配に包まれ、無数の精霊が海賊たちを取り囲みます。

大地が割れ、パン神の巨大な影が現れると恐怖にかられた海賊たちは仰天して逃げ出していきます。

第3場:夜明け前の神聖な森にある牧草地。

夜明け

夜が白み始めようとしていますが、ダフニスはニンフの祭壇の前で横たわっています。

徐々に夜が明け、鳥のさえずりが聞こえてくると、遠くを羊飼いと羊の群れが通り過ぎます。

羊飼いたちは倒れ込んだダフニスを見つけると彼を目覚めさせます。

目覚めたダフニスはクロエの姿を探しまわっていると、そこへ別の羊飼いたちに連れられたクロエが姿を現し、再開した二人は熱い抱擁を交わします。

そこへ年老いた羊飼いのラモンが現れ、「クロエを救ってくれたのはパン神であり、昔パン神がニンフのシランクスに恋した時のことを思い出し助けてくれたのだ。」と聞かせます。

無言劇

ダフニスとクロエが、パンとシランクスの物語をパントマイムで再現します。

草原でさまようシランクスを演じるクロエにパン神を演じるダフニスが愛の告白をします。

シランクスは拒みますが、さらに迫るパンから逃れようとシランクスは川辺の葦へと姿を変え、パンの前から消えてしまいます。

絶望的したパンは葦の茎を折って笛を作り、憂いにみちた旋律を奏でます。

その旋律にあわせてクロエが踊りながら高揚していくとやがてダフニスの腕の中へと落ちていきます。

ニンフの祭壇の前で信仰を誓いながらダフニスとクロエは抱擁しあいます。

全員の踊り

そこへ若者たちがなだれ込み、熱狂的な踊りを繰り広げ終幕します。

※ラヴェルは第1場終盤の「夜想曲「間奏曲」第2場冒頭の「戦いの踊り」から第1組曲を、第3場の音楽から第2組曲を編纂しています。

※第3場「無言劇」で描かれるパンシランクスの物語はドビュッシーが作曲した「牧神の午後への前奏曲」の記事でも触れていますので、ぜひご覧ください。

ラヴェル「ダフニスとクロエ」第2組曲の解説

夜明け

木管楽器の奏でるとても繊細な細かい音型に乗って弦楽器がゆっくりと白んでゆく幻想的な夜明けを表現します。

ラヴェルの卓越した管弦楽法で描かれるスコア(総譜)は大変精緻で、パート譜を俯瞰するとまるで幾何学模様のようです。(譜例①)

譜例①フルート譜冒頭部分

空が白みはじめるとやがてヴァイオリン、フルートとピッコロによる鳥の声が聴こえてきます。

ヴィオラとクラリネットが夜明けを表現するゆったりとしたフレーズを奏でると、ピッコロのソロが遠くを通り過ぎる羊飼いの笛の音を奏でます。(譜例②)

譜例②演奏動画(01:49)

E♭管クラリネットが奏でる別の羊飼いの笛の音も印象的です。(譜例③)

譜例③(演奏動画02:09)

音楽はゆっくりとクレッシェンドをしながら高まっていき、その頂点を目指します。

高揚しきった旋律がクライマックスを迎えるとオーボエが老いた山羊飼いのラモンを表す新しい旋律を奏でます。(演奏動画05:13)

無言劇

オーボエとコーラングレが新しい旋律を奏でるとダフニスとクロエがパンとシランクスの物語を「無言劇」(パントマイム)で演じます。

フルートの長いソロは大変幻想的で美しく、管弦楽作品に現れるフルートソロの中でも特に有名で、オーケストラ奏者のオーディションなどでも抜粋して使われることが多々あります。(譜例④)

譜例④(演奏動画07:29)

「オンライン・フルートレッスン」より フルート:エマニュエル・パユ

パンの笛の象徴であるフルートには重要なパートが割り振られてあり、この長いソロの後も1番フルートと2番フルートが交代で幅広い音域の音階を急速に駆け巡ります。

最後はピッコロから1番、2番フルートを経て通常より低い音域を奏でるアルトフルートまで音階を転び落ち、ダフニスの腕の中に落ちるクロエを表現します。(譜例⑤)

譜例⑤(演奏動画10:09)

その後に続くアルトフルートのソロは「愛の主題」とも呼ばれる美しく甘美なものです。

音楽は美しい旋律と和音の響きに包まれながら、朝もやの中に溶け込んでいくかのように静かに消えていきます。

全員の踊り

4分の5拍子で描かれる熱狂的な踊りです。ここでもE♭管クラリネットのソロが印象的です。(譜例⑧)

譜例⑨(演奏動画13:17)

このソロはクラリネットとミュート(弱音器)を付けたトランペットに引き継がれ、発展していきます。

木管楽器は半音階的な細かい動きを繰り返しながら徐々にクライマックスへと導いていきます。

最後は蓄積したエネルギーが爆発するかのように熱狂的に終曲します。

精緻なスコア(総譜)から生み出される音楽はとても繊細で美しさに満ち溢れています。次の演奏動画は17分弱ですので、ぜひ最後までお楽しみください。

ラヴェル「ダフニスとクロエ」YouTube動画

ラヴェル「ダフニスとクロエ」第2組曲

1.「夜明け」(00:00)
2.「無言劇」(05:43)
3.「全員の踊り」(12:05)

サイモン・ラトル指揮:ロンドン交響楽団

ラヴェル「ダフニスとクロエ」全曲版

1.「序奏と宗教的な踊り」(00:27)
2.「宗教的な踊り」(03:18)
3.「全員の踊り」(08:43)
4.「ドルコンのグロテスクな踊り」(12:14)
5.「ダフニスの優雅で軽やかな踊り」(14:03)
6.「リュセイオンの踊り」(17:42)
7.「夜想曲」(21:34)
8.「間奏曲」(26:32)
9.「戦いの踊り」(29:04)
10.「クロエの哀願の踊り」(33:49)
11.「夜明け」(39:25)
12.「無言劇」(45:11)
13.「全員の踊り」(50:46)

ユッカ=ペッカ・サラステ指揮:ケルンWDR交響楽団(旧ケルン放送交響楽団)

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「ボレロ」ラヴェル管弦楽曲集

【収録曲】
1.ボレロ
2.スペイン狂詩曲
3.「ダフニスとクロエ」第2組曲
4.亡き王女のためのパヴァーヌ
5.ラ・ヴァルス

シャルル・デュトワ指揮
モントリオール交響楽団
モントリオール交響合唱団

収録:1981年(1,2,5)、1980年(3)、1983年(4)

デュトワ&モントリオール交響楽団のコンビによる1980年代の録音、中でもフランス物の録音は本当に素晴らしく、個人的に大のお気に入りです。

美しく繊細な響きと音楽、演出過多で大仰すぎない上品な演奏がフランス音楽の魅力を存分に引き出しているように感じます。

フルートソロは、このコンビの演奏で数々の素晴らしいソロを聴かせている首席フルートのティモシー・ハッチンスです。

カップリングもラヴェルの代表的な管弦楽作品を1枚のアルバムで楽しめる内容になっています。

ちなみに同じ時の録音で全曲版も発売されています。

ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」全曲

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「ブーレーズ指揮:ベルリン・フィル」「カラヤン指揮:ベルリン・フィル」「ビシュコフ指揮:ウィーン・フィル」「アバド指揮:ロンドン響」「ゲルギエフ指揮:ロンドン響」「チョン・ミュンフン指揮:フランス放送フィル」「クリュイタンス指揮:パリ音楽院管」「ミュンシュ指揮:パリ音楽院管」「ミュンシュ指揮:ボストン響」「ハイティンク指揮:ボストン響」「レヴァイン指揮:ボストン響」「ピエール・モントゥー指揮:ロンドン響」「ケント・ナガノ指揮:ロンドン響」「ハイティンク指揮:ロンドン・フィル」「ラトル指揮:バーミンガム市響」「ブーレーズ指揮:ニューヨーク・フィル」「シノーポリ指揮:フィルハーモニア管」「ジョージ・セル指揮:クリーヴランド管」「バレンボイム指揮:パリ管」「アンセルメ指揮:スイス・ロマンド管」「シャイー指揮:コンセルトヘボウ管」他

シャルル・ミュンシュをはじめフランス物を得意とする往年の巨匠の名前がずらりと並びますが、中でも「アンドレ・クリュイタンス&パリ音楽院管弦楽団」の録音は名盤の呼び声の高い1枚です。

1962年の録音で、演奏の完成度と言う点では近年の録音の方が優れているかも知れませんが、今でもその魅力は色あせず、フルートのソロに耳を傾けると現代の奏法とは異なる独特のヴィブラートと音色が何とも言えない艶っぽい詩情を感じさせます。

指揮者に着目して聴き比べるもよし、フルートのソロに着目して聴き比べるのも面白いと思いますよ!

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まとめ

ラヴェル作曲の「ダフニスとクロエ」、いかがでしたでしょうか?

卓越した管弦楽法で有名なラヴェルが、合唱を加えた大編成のオーケストラで描き出す音楽は、実に繊細且つ精緻で幻想的な空間を作り出しています。

バレエ作品としての上演機会は少ないかも知れませんが、管弦楽作品としての「第2組曲」は演奏会でも取り上げられる機会の多い作品です。

個人的にはラヴェルの最高傑作と言っても過言ではない作品だと思います。機会があればぜひ生で聴いてみて下さい。

最後までお読みいただきありがとうございます。こちらの作品もぜひ聴いてみてください!

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