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ドヴォルザーク|交響曲第9番「新世界より」解説とおすすめの名盤

2021年5月30日

まずはダイジェストで聴いてみよう!

イングリッシュホルンが奏でる郷愁を誘う調べは、クラシックファンならずとも誰もが一度は耳にしたことがあるはずです。

この有名な旋律は日本でも歌詞が付けられ「家路」などのタイトルで、子供のころに習った方も多いのではないでしょうか。私自身も小学校の下校時に毎日この曲が流れていたのを懐かしく思い出します。

まずは第2楽章をダイジェストで聴いてみましょう。

アダム・フィッシャー指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

繰り返す度に緊迫感の増す序奏に続き、ホルンとトランペットが力強くあの有名な旋律を奏でます。

第4楽章の冒頭部分もとても有名な部分です。こちらもダイジェストで聴いてみましょう。

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

作曲の背景

交響曲第9番 ホ短調 作品95「新世界より」はチェコの作曲家、アントニン・ドヴォルザーク(1841-1904)が1893年に作曲した最後の交響曲です。

1892年9月、既に8曲の交響曲をはじめ、「スターバト・マーテル」「スラブ舞曲集」などの代表作で国際的な名声を得ていた51歳になるドヴォルザークは、ニューヨーク・ナショナル音楽院の創立者サーバー夫人からの招きに応じ、音楽院院長の任に就くためにニューヨークに到着します。

ドヴォルザークは当初、この招聘を断っていたようですが、待遇が破格の条件であったこともあり、ついには承諾することになります。

翌1893年、新しい交響曲に着手したドヴォルザークが5月に完成させたのが、今回ご紹介する交響曲第9番「新世界より」です。

標題の「新世界より」はドヴォルザーク自身がスコア(総譜)の表紙にチェコ語(英語)でZ nového světa( From the New World)」と記しています。

交響曲第9番「新世界より」:自筆スコア表紙

ドヴォルザークはニューヨークの繁栄と巨大な街に驚くと同時に、故郷ボヘミアの地を思い出しホームシックにかかったそうです。

この作品は新世界アメリカでインスパイアされた民族音楽からの影響を受けて描かれた作品と言うよりは、それらの民族音楽を通じて感じた故郷ボヘミアへの望郷の念が表れた作品と言う側面の方が強いように感じます。

結局1895年4月にアメリカを去るまでの3年間の間に、ドヴォルザークはチェロ協奏曲弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」などの傑作を遺していますが、中でもこの交響曲第9番「新世界より」はドヴォルザークの代表作としてだけではなく、交響曲の歴史に名を留める傑作として世に知られることになりました。

尚、この作品はかつては出版順に番号が付され「交響曲第5番」と呼ばれていた時期がありました。20世紀中盤の録音では「交響曲第5番」と表記されている場合もありますのでご注意ください。

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ドヴォルザーク|交響曲第9番「新世界より」解説

第1楽章:Adagio – Allegro molto

冒頭、弦楽器が奏でる漂うような調べを打ち破るように、突如力強い信号音が発せられます。これが繰り返された後、ティンパニのロールによって序奏は終わり、アレグロの主部が始まります。

ホルンが奏でる第1主題に木管楽器が軽快に応えますが、この第1主題は後の楽章にも現れ、作品に統一感を出しています。(譜例①)

譜例①:演奏動画(03:04)

第1主題が発展した後、フルートとオーボエによって奏でられる第2主題はどこか郷愁を感じさせる旋律です。(譜例②)

譜例②:演奏動画(04:10)

第2主題が高揚した後にフルートによって奏でられる旋律も、第1主題前半のリズムを踏襲しながら、より民族的な雰囲気を感じる魅力的な主題です。(譜例③)

譜例③:演奏動画(05:15)

第1楽章はこれらの魅力的な主題が絡み合いながら反復され、高揚していきながらクライマックスを迎えます。

第2楽章:Largo

冒頭のダイジェスト動画でも紹介した有名な第2楽章は「家路」「遠き山に日は落ちて」などのタイトルで様々な訳詞や日本語歌詞が付けられています。

最もポピュラーな「家路」のタイトルはドヴォルザークの弟子であったウィリアム・アームズ・フィッシャーが1922年に作詞、編曲した歌曲「Goin’ Home」(家路)に由来しています。

「Goin’ Home」(家路)

モルモンタバナクル合唱団管弦楽団
歌唱:アレックス・ボエ(Alex Boyé)

4小節の短い導入に続きイングリッシュホルン(コール・アングレ)が郷愁に満ち溢れた有名な主題を静かに奏でます。(譜例④)

譜例④:演奏動画(11:35)

イングリッシュホルンはオーボエより少し音域が低く、楽器の先端が洋梨型なのが特徴で、オーボエ奏者が楽器を持ち替えて演奏されます。

「家路」「遠き山に日は落ちて」などのタイトルは実に曲想にマッチしていて、落日を背景とした美しい風景が目に浮かぶようです。

管理人がとても不思議に感じるのは、聴いた人それぞれが思い浮かべる風景がアメリカのものであっても、ドヴォルザークの故郷、ボヘミアのものであっても、そして日本の片田舎の風景であっても何ら違和感なく、郷愁を誘う点です。

中間部では転調し木管楽器が新たな動きを加えた後、さらに哀愁を帯びた旋律を奏でます。そしてこの旋律が静かに消えていくと、木管楽器が軽快に踊るような楽句を奏でます。(譜例⑤)

譜例⑤:演奏動画(18:42)

やがて第1楽章の第1主題の動機が加わった後、再び第2楽章冒頭の主題がイングリッシュホルンによって奏でられ、美しい余韻を残したまま第2楽章を終えます。

第3楽章:Scherzo. Molto vivace

民族舞曲的な魅力に溢れたスケルツォです。スケルツォ(scherzo)は楽曲の性格を現す音楽用語で、イタリア語の「冗談」が語源ですが、この頃にはかなり拡大されてさらに自由な表現がされています

冒頭は生き生きとした短い序奏に続き、木管楽器が軽快な旋律をカノン風に奏でます。(譜例⑥)

譜例⑥:演奏動画(23:06)

テンポが少し緩むと民族的とも牧歌的とも感じられる主題が木管楽器によって奏でられます。(譜例⑦)

譜例⑦:演奏動画(24:28)

映画でしか見たことがありませんが、開拓期のアメリカ西部の風景の中を馬の背に揺られながら歩いているような情景が私には想起されます。

曲は第3楽章冒頭の舞曲的な主題と穏やかな民族的な主題を繰り返しながら、最後には第1楽章の主題が現れ、力強い響きの一音で終結します。

第4楽章:Allegro con fuoco

反復される半音の音型が、音程を広げながら緊迫感を高めていくと、金管楽器によって第1主題が高らかに奏されます。(譜例⑧)

譜例⑧:演奏動画(31:09)

この曲のエピソードとして話題となるのが、全曲を通して1回だけ登場するシンバル。第1主題がひと通り高揚すると次にクラリネットが奏でる牧歌的な第2主題が登場する前に1度だけ打たれます。(譜例⑨)

譜例⑨:演奏動画(32:46)

以前、音楽番組で打楽器奏者がいかにこのひと打ちを工夫しているかを取り上げられているのを見たことがありますが、そんな点を注目して聴くのも面白いかも知れませんね。

第2主題が躍動的な合いの手を入れながら高揚すると第1主題の断片や第2楽章の主題を織り交ぜながら、クライマックスへと導いていきます。

かのブラームスは「ドヴォルザークの家のゴミ箱を漁れば、交響曲の一曲は出来るだろう」と評したと言われています。

それほどドヴォルザークの描く旋律は魅力に満ち溢れ、それらが様々に回想され壮大なエンディングを形成した後、最後は寂寥とした情景を挿み、余韻を残すように終曲します。

ドヴォルザーク|交響曲第9番「新世界より」youtube動画

ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調 作品95「新世界より」
第1楽章(01:00)
第2楽章(10:50)
第3楽章(22:50)
第4楽章(30:50)

マリス・ヤンソンス指揮:バイエルン放送交響楽団

ドヴォルザーク|交響曲第9番「新世界より」おすすめの名盤

カラヤン指揮:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ドヴォルザーク
1. 交響曲第8番ト長調 op.88
2. 交響曲第9番ホ短調 op.95『新世界より』

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1985年

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カラヤンは手兵ベルリン・フィルとも複数回、この作品を録音していますが、今回ご紹介するのは晩年の1985年にウィーン・フィルと録音した盤です。

ザビーネ・マイヤー事件以来ベルリン・フィルとの関係が悪化していたカラヤンはこの当時ベルリン・フィルではなくウィーン・フィルとの仕事が増えています。

この辺の経緯に関心のある方はこちらの記事にまとめていますのでお読みいただければと思います。

ヘルベルト・フォン・カラヤン【経歴と名盤、youtube動画】

晩年と言って良いカラヤンは、それ以前の録音に比べるとテンポ設定も落ち着いた感じで、オーケストラの響きもベルリン・フィルほど華やかで威圧的過ぎず、程よく引き締まった感じで、美しく上品な演奏を楽しむことが出来ます。

ラファエル・クーベリック指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

ドヴォルザーク
交響曲 第8番 ト長調 作品88
交響曲 第9番 ホ短調 作品95《新世界より》

ラファエル・クーベリック指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1966年(1)、1972年(2)

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この第9番が録音された1972年当時、祖国チェコを亡命してから既に20年以上経ったクーベリックはバイエルン放送交響楽団の首席指揮者として活躍し、一番脂がのっていた時期です。

ベルリン・フィルもカラヤンとのコンビで見せる程の大仰な雰囲気もなく、とても柔らかく美しい響きを引き出していますし、それでいてベルリン・フィルならではの重厚で骨太な響きも味わうことも出来ます。

ところどころ主旋律以外の部分や内声が強調されて聴こえる部分もありますが、それも味があって個人的にはお気に入りです。

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まとめ

ドヴォルザーク作曲の交響曲第9番 「新世界より」、いかがでしたでしょうか。

ドヴォルザークが新世界「アメリカ」で作曲したこの作品はドヴォルザークの最も有名な作品であるばかりでなく、交響曲の歴史の中でも最も有名な作品の一つになりました。

日本ではベートーヴェンの「運命」シューベルトの「未完成」と合わせて「三大交響曲」として演奏会が行われることもしばしばです。

1895年アメリカを去ったドヴォルザークはその後オペラの作曲に傾倒し、結局この作品がドヴォルザーク最後の交響曲となりました。

作品に散りばめられた主題はどれもとても親しみやすく、どこか郷愁を誘う魅力に溢れています。

「交響曲はどうも難しい」そんな先入観を持たれているクラシック初心者の方はまずこの作品を聴いてみると良いでしょう。

奥深い交響曲の世界の入り口になるといいですね。

最後までお読みいただきありがとうございます。こちらの作品もぜひ聴いてみてください!

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