ショパン「雨だれ」

作曲の背景

「雨だれの前奏曲」のタイトルで親しまれている「24の前奏曲 作品28 第15番 変ニ長調」はポーランドの作曲家、フレデリック・ショパン(1810-1849)が1839年に完成させた独奏ピアノのための「24の前奏曲 作品28」の中の1曲です。

この作品28の前奏曲は24ある長短全ての調性で書かれていて、これはヨハン・セバスティアン・バッハが作曲した「平均律クラヴィーア曲集」に倣ったものだと言われています。

「前奏曲」とはより規模の大きい楽曲の前に演奏される曲のことでバッハの「平均律クラヴィーア曲集」の場合は「前奏曲とフーガ」としてフーガの前に置かれています。

しかし、ショパンの場合は前奏曲と言うタイトルを付けていますが、それに続く主体となる楽曲は存在せず、前奏曲そのものが独立した作品として扱われています。

この作品に含まれる24の楽曲は演奏時間にすると短いもので1分、今回ご紹介する第15番「雨だれ」が最も長く5分程度と小規模な楽曲で構成されていて、その中に様々な性格と曲想を持つ楽曲を配置し、独創的な全体を形作っています。

楽曲の配列にも工夫を凝らした跡があり、バッハの「平均律クラヴィーア曲集」が「1.ハ長調⇒2.ハ短調⇒3.嬰ハ長調⇒4.嬰ハ短調・・・」とハ長調を起点に主音を半音ずつ上げた長短調の順番を採っているのに対し、ショパンの「24の前奏曲 作品28」では「1.ハ長調⇒2.イ短調⇒3.ト長調⇒4.ホ短調・・・」と言う順番を採っています。

この配列は楽器を演奏されない方にはご理解いただきにくいかも知れませんが、ハ長調を起点に平行調と呼ばれる同じ調号で示される調(例:ハ長調、イ短調は共に♯♭なし、ト長調、ホ短調は共に♯が1つ)へ移行し、次に5度上へ上がって同じように長調から平行短調へと移行していくと言う順番です。

ショパンがこれらの作品に着手した時期ははっきりとわかっていませんが、作品が完成したのは1839年1月のことです。

ショパンはこの前年の1838年11月から、恋愛関係にあった作家のジョルジュ・サンド(1804-1876)と彼女の2人の子供と共に地中海に浮かぶマヨルカ島に滞在しています。

この旅行は2人のスキャンダルを騒ぎ立てるパリから逃れる逃避行的な意味合いと肺結核を患っていたと言われるショパンの静養のためと言う2つの意味合いを持っていたようです。

ショパンの滞在したマヨルカ島のバルデモーサ

滞在は1839年2月までの3か月余りに及びますが、ショパンの体調は思わしくなく、12月には3人の医師から見放されたような言葉をかけられたとショパン自身が語っているほどです。

おまけに自身のピアノをパリから運び込むのに際してもトラブルがあり、かつては修道院だった建物に宿泊し、そのピアノで作曲に取り組んだそうです。

バルデモーサ・カルトゥジオ会修道院にあるショパンのピアノ

ショパンが待ちわびたプレイエルのピアノは1839年1月5日にようやく到着し、ようやく自身の楽器で創作活動に励めるようになりました。

この作品は丁度この時期に完成されたものですが、ショパンが大きく体調を崩していたことと、この時期には他の複数の作品も作曲していることを考えると24曲の内、いくつかは既に作曲されていたと考えるのが妥当なようです。

出版は1839年の9月にされています。

ショパンジョルジュ・サンドの関係についてはこちらの記事でも触れていますので、あわせてお読みください。

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ショパン「雨だれ」の解説

ショパンの他の作品同様に「雨だれ」のタイトルは作曲者自身によるものではありませんが、マヨルカ島で降る雨音にインスピレーションを得て作曲されたと言われています。

その所以は断続的に連打されるA♭音(変イ音)が降りしきる雨音を表現しているように感じられることから付いたタイトルです。(譜例①)

譜例①

曲想から感じる雨音は嵐のように激しいものではなく、美しいマヨルカ島の景色の中に静かに絶え間なく降りしきる雨の様に私には感じられます。

その雨だれに乗って奏でられる旋律はとても落ち着いていて、優しさと美しさを感じさせる旋律です。

中間部で短調に転調すると急に暗い雲に覆われたかのように重苦しい雰囲気が支配します。

ここでも絶え間なくG♯音(嬰ト音)が連打されますが、これはA♭音(変イ音)と表記は異なりますが同じ音です。(異名同音)

低く重苦しい和音の響きが前半部分とは異なり病に苦しむショパンの不安な心理を表現しているようで、同じ音の連打にもかかわらず、ここでは迫りくる不安と高鳴る鼓動の様にも感じられます。(譜例②)

譜例②

最後は苦しみから解放されたかのように元の調性に戻り、穏やかな表情を見せた後、雨だれの音だけを残して静かに終曲します。(譜例③)

譜例③

ショパン「雨だれ」のyoutube動画

ショパン:24の前奏曲 作品28』より第15番 変ニ長調「雨だれ」

ピアノ:ラン・ラン

ラン・ランは1982年生まれ、中国出身のピアニストで現在は世界を舞台に活躍されています。

ラン・ランさんの演奏動画はこちらの記事でもご紹介しています。ぜひこちらもご覧ください。

ショパン:24の前奏曲作品28より第15番変ニ長調「雨だれ」

ピアノ:アリス=紗良・オット

アリス=紗良・オットは1988年生まれ、ドイツ・ミュンヘン出身のピアノ奏者です。
ドイツ人の父親と日本人の母親を持つ彼女は数々の国際コンクールでの優勝を経て、世界の主要なオーケストラとも共演を重ねる人気のピアニストです。

アリス=紗良・オットさんの演奏動画はこちらの記事でもご紹介しています。ぜひこちらもご覧ください。

ショパン「雨だれ」の無料楽譜

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いかがでしたか?こちらの作品もぜひ聴いてみてください!

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参考資料:前田拓郎「F.ショパンのピアノ演奏におけるアゴーギクの効果 -24の前奏曲 作品28を例として-」尚美学園大学芸術情報研究第27号論文