サラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」解説とおすすめの名盤、無料楽譜
目次
作曲の背景
ツィゴイネルワイゼン(独:Zigeunerweisen)作品20はスペイン出身のヴァイオリン奏者で作曲家のパブロ・デ・サラサーテ(1844-1908)が1878年、34歳の時に書き上げた管弦楽伴奏付きのヴァイオリン独奏曲です。
スペインに生まれたサラサーテは8歳の時に初めての公演を行い、10歳の時にはスペイン女王、イサベル2世の前で演奏を披露し、名器ストラディバリウスを与えられます。
早くからその才能を開花させ、天才ヴァイオリニストとしての名声を得たサラサーテはサン=サーンス、ブルッフ、ラロと言った著名な作曲家から作品を献呈され、その初演にもあたりました。
作曲家としても独奏ヴァイオリンのための作品を中心に数多くの作品を残していて、今回ご紹介するツィゴイネルワイゼンはその代表作です。
タイトルの「ツィゴイネルワイゼン」はかつては「ジプシー」と呼ばれてきた移動民族「ロマの旋律」を意味しています。
「Zigeuner(ツィゴイナー)」はドイツ語で「ロマ」を意味しています。
移動民族であるロマの音楽はその地域によっても特徴が異なりますが、特にハンガリーにおいてはその影響が顕著です。
ハンガリーの音楽、ハンガリーの民族舞曲は時としてロマの音楽と混同されやすく、ブラームスの「ハンガリー舞曲」、リストの「ハンガリー狂詩曲」などはそうした音楽の影響を受けた作品です。
ハンガリーのロマを代表する音楽として「チャールダーシュ(チャルダッシュ)」と言う舞曲があります。
「Lassan(ラッサン)、Lassú(ラッシュ)」と呼ばれるゆっくりした部分と、「Friska(フリシュカ)、Friss(フリッシュ)」と呼ばれる速い部分からなるその音楽の特徴は、この作品の中にも色濃く反映されています。
この作品はヴァイオリンの名手として名を馳せたサラサーテが、ロマの音楽を題材として、あらゆるヴァイオリンの技巧を駆使して書き上げた名曲です。
そんなヴァイオリンの名手サラサーテが唯一演奏することがなかったのが、サラサーテより半世紀ほど前に生まれた天才ヴァイオリニスト、ニコロ・パガニーニ(1782-1840)の作品です。
一説には手指が大きく長いことを活かしたパガニーニの作品を、手の小さかったサラサーテが避けたためとも言われています。
サラサーテがいかに優れたヴァイオリニストであったのかは、1904年にサラサーテ自身が遺した録音からうかがうことが出来ます。
録音の途中にはサラサーテ自身の肉声と思われる呟きもそのまま残っています。
ピアニストへ語り掛けたものなのか、何を言っているのかは確かではありませんが、現在のように編集などない時代の録音を味わうことが出来ます。
最後にこの演奏をご紹介して、楽曲解説にうつりたいと思います。
サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン
ヴァイオリン:パブロ・デ・サラサーテ
ピアノ:フアン・マネン
サラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」解説
曲は3部からなり、冒頭オーケストラに続いて独奏ヴァイオリンが奏でる劇的な主題は大変有名で、テレビやCM等のBGMとして頻繁に使われるので、曲名は知らずとも誰もが知っていることでしょう。(譜例①)
※参考譜はピアノ伴奏譜です。
独特の哀愁を感じさせるその旋律はロマの音楽で用いられる「ロマ音階」によって書かれています。
これは短音階とよく似ていますが、構成音が異なり、哀愁を帯びた独特の雰囲気を感じさせます。
曲は「Lento(ゆるやかに、遅く)」となり、さらに深い哀調を帯び、独奏ヴァイオリンの即興的な楽句を交えながら進んでいきます。
中間部ではハンガリーの民謡が引用され、抒情的な美しい旋律がゆったりと奏でられます。
第3部は急速なテンポとなり、一気にクライマックスへと向かいます。
チャールダーシュ(チャルダッシュ)と同じように、第1部は「Lassan(ラッサン)、Lassú(ラッシュ)」と呼ばれるゆっくりした部分、第2部ではハンガリー民謡を題材とした優美な旋律が奏でられ、ここからの第3部は「Friska(フリシュカ)、Friss(フリッシュ)」と呼ばれる速い部分でクライマックスを迎えると言う構成になっています。
短いオーケストラの序奏に続き、独奏ヴァイオリンが生き生きとした旋律を刻みます。
その旋律の中にはヴァイオリンの名手サラサーテらしい、ヴァイオリンの技巧が巧みに散りばめてあります。
パガニーニもよく用いた左手のピチカートもそんな技巧の一つです。
これは通常、弓を持つ右手で行うピチカート奏法(指で弦をはじく)を、弦を抑えている左手で行うものです。(譜例③)
※「+」の表記が左手のピチカートを意味しています。
曲の最終部分では高い音域の反復音型が高速で続き、華やかに終曲します。それは手の小さかったサラサーテがその弱点を見事に強みとして昇華させた結果のようにも思えます。(譜例④)
サラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」YouTube動画
サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン 作品20
Berislav Skenderovic指揮:Vojvodina Symphony Orchestra
ヴァイオリン:Stefan Milenkovich
サラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」おすすめの名盤
管理人piccoloおすすめの名盤はこちら!
【ツィゴイネルワイゼン~ヴィルトゥオーゾ・ヴァイオリン】
ヴァイオリン:ヤッシャ・ハイフェッツ
【収録曲】
1.サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン 作品20
2.サン=サーンス:ハバネラ 作品83
3.サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ 作品28
4.ショーソン:詩曲 作品25
5.ベートーヴェン:ロマンス第1番ト長調 作品40
6.ベートーヴェン:ロマンス第2番ヘ長調 作品50
7.ブラームス:ハンガリー舞曲第7番
8.ワックスマン:「カルメン」幻想曲
録音:1946年-1953年(モノラル)
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ヤッシャ・ハイフェッツ(1901-1987)はロシア出身の20世紀を代表するヴァイオリニストです。
今回ご紹介するアルバムはハイフェッツの数ある録音の中から8曲をピックアップしたもので、共演しているオーケストラも様々です。
ご紹介するツィゴイネルワイゼンはウィリアム・スタインバーグ指揮、RCAビクター交響楽団との共演で1951年のモノラル録音です。
個人的な趣向として古い録音はあまりご紹介していないのですが、概して私には甘美で抒情的過ぎると感じる録音が多い中で、ハイフェッツの少し冷たくも感じる音色に強い魅力を感じます。
第1部では即興的な楽句は本当にアドリブで弾いているかのように自由で即興的で、中間部では独特の小刻みに震えるようなヴィブラートがすすり泣いているかのように美しく、第3部ではやや技巧的に荒く感じる箇所もありますが、近年の録音のように標準化されていない個性を味わえる録音です。
余談ですがハイフェッツがこの録音の前年の1950年に入手した名器ストラディヴァリウス「ドルフィン」(1714年製)はその後、日本音楽財団の所有となり、現在は諏訪内晶子さんに貸与されています。
生涯手放さなかったグァルネリ・デル・ジェズを含め、複数の名器を所有していたハイフェッツがどのヴァイオリンを用いてこの録音を行ったのかは、聴き分け名人のGACKT(ガクト)さんに聞いてみないとわかりません。(笑)
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「ヤッシャ・ハイフェッツ」「アンネ=ゾフィー・ムター」「諏訪内晶子」「ジャン=ジャック・カントロフ」「イツァーク・パールマン」「ギル・シャハム」「ルッジェーロ・リッチ」「アイザック・スターン」「アナスタシア・チェボタリョーワ」「アルフレード・カンポリ」「ジョシュア・ベル」「※ユリア・フィッシャー」「※アルテュール・グリュミオー」「※イヴリー・ギトリス」「※五嶋龍」他
※印の付いたものはピアノ伴奏版です。
太く豊かな音色が魅力の「アンネ=ゾフィー・ムター」盤、柔らかで繊細な音色を感じる「諏訪内晶子」盤はクライマックスもとても軽快です。
「ユリア・フィッシャー」盤はピアノ伴奏版ですが、とてもクリアな演奏で美しい弱音も魅力です。
演奏の完成度と録音状態と言う点ではこうした近年の録音の方が良いかも知れませんが、概して標準化された演奏様式を感じるのは否めません。(個人的な感想ですのでご容赦ください。)
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まとめ
サラサーテ作曲の「ツィゴイネルワイゼン」、いかがでしたでしょうか?
冒頭部分はとても有名で多くのシーンに印象的に使われるので、誰もが聴いたことがあると思います。
関西出身の方には「吉本新喜劇」の1シーンとしておなじみですね。(笑)
冒頭部分以外の箇所も親しみやすく、どこかで聴いた覚えのある方も多いと思います。
ヴァイオリンの名手らしくパガニーニ同様その作品の中には、様々なヴァイオリンの技巧が散りばめられてあります。
そんなヴァイオリンの奏法に注目して聴くのも面白いかも知れません。
しかし歴史に名を残すヴァイオリンのヴィルトゥオーゾ(名手)として知られるサラサーテも、偉大なる先人であるパガニーニと常に比べられる天才ならではの葛藤もあったのかも知れませんね。
この作品と同じくロマの音楽の影響を受けて作曲されたブラームスの「ハンガリー舞曲」、リストの「ハンガリー狂詩曲」、そしてサラサーテと常に比較されるパガニーニの「24の奇想曲」の記事のリンクを下記に貼っておきます。
ぜひ一度聴き比べてみてください!
最後までお読みいただきありがとうございます。こちらの作品もぜひ聴いてみてください!
ブラームスがロマの音楽を題材に書いたピアノ曲集!
ピアノの魔術師と呼ばれたリストが書いた19曲のハンガリー狂詩曲の中の代表作!
悪魔に魂を売り渡してテクニックを手にしたと言われるパガニーニが書いたヴァイオリン独奏曲!
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