パガニーニ「24の奇想曲」【解説と無料楽譜】
目次
作曲の背景
「24の奇想曲(カプリース)」作品1はイタリアの作曲家、ニコロ・パガニーニ(1782-1840)が作曲した無伴奏ヴァイオリンのための作品です。
奇想曲(仏:caprice、伊:capriccio)は特定の形式に縛られない気まぐれな性格を表す楽曲です。
イタリア語のカプリッチョ(capriccio)はそのまま「気まぐれ」を意味しています。
作曲年代は1800年から1810年頃にかけてとされていますが、作曲のきっかけなど詳しいことはわかっていません。
それから10年を経て1820年にパガニーニの最初の作品として出版されました。
パガニーニは作曲家としてだけではなく、幼い頃からヴァイオリンの超絶技巧奏者として有名で、そのあまりの腕前に「悪魔に魂を売り渡してその演奏技術を得た。」と言われるほどでした。
そんなヴァイオリンの名手が書いた作品らしく、24からなる楽曲の中には多彩なヴァイオリンの奏法が用いられ、演奏難易度の非常に高い作品としても知られています。
また高い演奏技術を必要とするだけでなく、音楽的にも充実していて、24の楽曲には様々な音楽からの影響が見られる魅力あふれる作品になっています。
そのため同時代、あるいは後世の作曲家がこぞってこの作品のモチーフを用いて楽曲を書いています。
リストの「パガニーニによる大練習曲」、シューマンの「パガニーニの奇想曲による練習曲」などの他にも、特に第24番はブラームスの「パガニーニの主題による変奏曲」、ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」など著名な作曲家が取り上げていることで有名です。
次の楽曲解説では演奏動画と共に全24曲を簡単に解説してみたいと思います。ヴァイオリンに関心をお持ちの方は、その演奏技法にも注目して聴いてみるとさらに楽しめるかも知れませんね。
パガニーニ「24の奇想曲」解説とyoutube動画
第1番 ホ長調 Andante
弓を跳ねさせながら演奏するスピッカート(spiccato)と呼ばれる奏法で幅広い音域のアルペジオ(分散和音)を鮮やかに奏でます。(譜例①)
メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲の第1楽章に影響を与えたとも言われています。確かにオーケストラの裏で奏でられる独奏ヴァイオリンのアルペジオはこの第1番とよく似ていますね。
ヴァイオリン:コ・ソヒョン
動画は2018年のものですが、鮮やかに演奏をするコ・ソヒョンさんはこの時、わずか12歳!将来が楽しみなヴァイオリニストですね。
ブラヴォー!
第2番 ロ短調 Moderato
大きく離れた音程を跳躍しながら奏でられる音楽はどこかバロックの香りも漂います。(譜例②)
ヴァイオリン:Antal Zalai
第3番 ホ短調 Sostenuto-Presto
前半はオクターヴ離れた2つの音を同時に弾く重音奏法と2つの音を同時にトリルするダブルトリルが連続します。(譜例③)
後半のプレストでは生き生きとした流れるような旋律が速い16分音符で奏でられますが、最後は再び冒頭の重音の旋律に回帰し終曲します。
ヴァイオリン:オーガスティン・ハーデリッヒ
第4番 ハ短調 Maestoso
重音奏法を駆使しながら、もの悲しくドラマティックな旋律が奏でられる部分と、32分音符の速いパッセージで華やかに奏でられる部分が交互に現れます。
ヴァイオリン:オーガスティン・ハーデリッヒ
第5番 イ短調 Agitato
最低音域から最高音域まで4オクターブを一弓で奏でるカデンツァ風のアルペジオ(分散和音)で始まります。(譜例④)
Agitato(興奮して、激しく)と指示された主部では弓を跳ねさせながら音を短くつなげて弾くサルタート奏法で16分音符を快速なテンポで疾駆しますが、最後は再び冒頭のアルペジオが現れドラマティックに終曲します。
ヴァイオリン:スミナ・シュトゥーダー
第6番 ト短調 (Adagio)
2つの音を小刻みに反復するトレモロが常に流れる上で、息の長い旋律が奏でられます。(譜例⑤)
ヴァイオリン:シャノン・リー
※演奏は(01:28)より
第7番 イ短調
冒頭はオクターヴの重音でしっとりと始まりますが、途中からは速いテンポで下行音階と上行音階、アルペジオ(分散和音)が挿まれながら展開していきます。
ヴァイオリン:Sophie Wang
第8番 変ホ長調 Maestoso
オクターヴの重音で奏でられる重厚な旋律に続き音階を駆け上がる部分と、16分音符の細かい動きで音階を行き来する部分が交互に現れます。
ヴァイオリン:Hildegarde Fesneau
第9番 ホ長調 Allegretto
重音で奏でられる冒頭の旋律には「Sulla tastiera imitand il Flauto」とあり、つまり「フルートの模倣をして指板の近くで弾くように」指示されています。
この旋律にこだまするように低音で奏でられる次の旋律には「imitand il Corno」、すなわち「ホルンの模倣をして」と指示され、これらが森の中でエコーするかのようにフォルテとピアノで交互に奏でられます。(譜例⑥)
後半は曲想が変わり、音域の離れた2つの音階やアルペジオが鮮やかなコントラストで描かれます。
この第9番はリストの「パガニーニによる大練習曲第5番」の原曲ですが、リストは編曲に当たって『狩(La caccia)』のタイトルを付けました。
ヴァイオリン:ジェイムズ・エーネス
第10番 ト短調 Vivace
速いテンポの16分音符で描かれる流麗な旋律をトリルが美しく装飾します。(譜例⑦)
ヴァイオリン:Kunwha Lee
第11番 ハ長調 Andante-Presto
バロック音楽の舞曲を彷彿とさせるようなアンダンテに始まり、速いテンポで躍動的な付点のリズムを奏でるプレストを挿み、最後は再び冒頭のアンダンテの主題が回帰し、終曲します。
ヴァイオリン:オーガスティン・ハーデリッヒ
第12番 変イ長調 Allegro
幅広い音程を跳躍しながら流麗な旋律が滑らかに紡ぎ出されます。
ヴァイオリン:Antal Zalai
第13番 変ロ長調 Allegro
冒頭、3度の重音で音階を滑るように降りてくる音型が印象的な旋律が奏でられ、中間部では16分音符で躍動的に跳躍する旋律が奏でられますが、最後は再び冒頭部分が回帰し、終曲します。
この楽曲は冒頭部分の響きの印象から「悪魔の微笑み(La risata del diavolo)」という愛称で呼ばれることもあります。(譜例⑧)
ヴァイオリン:Antal Zalai
第14番 変ホ長調 Moderato
3つの音、4つの音を同時に弾く重音奏法で、行進曲風の旋律が奏でられる短い作品です。
ヴァイオリン:Niklas Liepe
第15番 ホ短調 Posato
Posato(落ち着いて)と指示されたもの悲しい主題が重音で奏でられた後、上昇するアルペジオ(分散和音)で鮮やかに変奏されます。
中間部では幅広い音域を駆け巡りますが、再び冒頭の主題に回帰して終曲します。
ヴァイオリン:Choi So Young
第16番 ト短調 Presto
急速なテンポの16分音符で次から次へと旋律が紡ぎ出されます。疾走感あふれる短い作品です。
ヴァイオリン:オーガスティン・ハーデリッヒ
第17番 変ホ長調 Sostenuto-Andante
ソステヌート(音を保って)と指示されたカデンツァ風の導入に続き、急速な音階と重音で刻まれる8分音符が対話をしているようなアンダンテが奏でられます。
ヴァイオリン:Tianyu Liu
第18番 ハ長調 Corrente-Allegro
4弦=G線で演奏するように指示された、バロック時代の舞曲コッレンテ(伊:Corrente)に始まり、3度の重音で奏でられるアレグロへと続きます。(譜例⑨)
ヴァイオリン:Antal Zalai
第19番 変ホ長調 Lento-Allegro assai
オクターヴの重音による短い序奏に続き、軽快なテンポで幅広い音程を跳躍した後、ここでも4弦=G線で演奏するように指示された速いパッセージ部分が奏でられます。
ヴァイオリン:Antal Zalai
第20番 ニ長調 Allegretto
低音の持続音が流れる上で優美な主題が奏でられた後、トリルで華やかに装飾された速いパッセージの旋律が続きます。
ヴァイオリン:Antal Zalai
第21番 イ長調 Amoroso-Presto
短い序奏に続き、アモローソ(愛らしい、やさしい)と指示された甘美な旋律が重音で奏でられます。
その後のプレスト(きわめて速く)では一変して幅広い音階を鮮やかに駆け巡ります。
ヴァイオリン:オーガスティン・ハーデリッヒ
第22番 ヘ長調 Marcato
重音で奏でられる冒頭の主題にはマルカート(はっきりと)と指示されています。
それに続く急速な音階とアルペジオ(分散和音)と跳躍をみせる部分ではトリルが彩りを加え華やかな旋律が展開されます。
ヴァイオリン:Antal Zalai
第23番 変ホ長調 Posato
Posato(落ち着いて)と指示された堂々とした導入に続いて、半音階で下降する滑らかな旋律が描かれます。
中間部では緊張感を増し、速いパッセージの下行音型と跳躍して刻まれる短い音が交互に現れます。
ヴァイオリン:Anna Savkina
第24番 イ短調 Quasi Presto
作曲の背景でもふれたように全24曲の終曲を飾るのにふさわしい大変有名な作品で、後世の多くの著名な作曲家たちがこの作品の主題をモチーフとした楽曲を遺しています。
楽曲は16小節からなる主題と様々なヴァイオリンの奏法を駆使した11の変奏にフィナーレが付いています。(譜例⑩)
第1変奏はアルペジオ(分散和音)、第2変奏は半音階風、第3変奏は重音で第4変奏は高音域での半音階と様々な奏法で工夫を凝らしています。
第9変奏ではパガニーニが始めたと言われる左手のピチカート(指で弦をはじく)が用いられています。
本来、弦を押さえるために使われる左手でピチカートするだけでも難易度が高いのに、さらにパガニーニは右手の弓での奏法を織り交ぜながら高速で演奏すると言う超絶技巧を要求しています。(譜例⑪)
「pizz.」の音符の上に「+」が書き込まれている部分が左手のピチカートを示しています。「arco」は弓で弾くようにと言う意味で、「simile」はそれ以後は表記していませんが、同じように弾くようにとの意味です。
演奏動画を見ていると聴いているこちらが混乱するくらい難しそうですが、弓で弾く箇所は奏者によっては右手のピチカートで省略している場合もあるようですね。
楽曲はその後、繊細で美しい第10変奏、重音と上昇アルペジオが力強い第11変奏を挿み、フィナーレでは幅広い音域の華やかなアルペジオを展開し、終曲します。
ヴァイオリン:シン・ヒョンス
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