ラヴェル「鏡」【解説と無料楽譜】

2020年9月13日

作曲の背景

組曲「鏡」(仏:Miroirs)はフランスの作曲家、モーリス・ラヴェル(1875-1937)が1905年に作曲した5曲から成るピアノのための組曲です。

前回の記事ではこの中から第4曲「道化師の朝の歌」をご紹介しました。

今回の記事では他の曲も聴いてみたいと言う方のために全5曲を簡単にご紹介したいと思います。

ラヴェルは当時パリの芸術家たちで作った芸術集団「アパッシュ」(仏:La Société des Apaches)の中心的なメンバーで、組曲「鏡」の各曲はそれぞれ「アパッシュ」のメンバーに献呈しています。

「アパッシュ」とは当時のパリの路地裏で犯罪を働いていた若者たちの総称で、日本で言うところの「チンピラ」「ごろつき」と言ったニュアンスで、あまり良い言葉ではありませんが、芸術の新しい潮流を支持する若い芸術家たちのグループとしてネーミングされたようです。

各曲の献呈者については次の解説で触れたいと思います。

作曲に至る背景については前回の記事にも書いていますので、あわせてお読みください。

ラヴェル「鏡」の解説

1.蛾(Noctuelles)

フランスの詩人、レオン=ポール・ファルグに献呈されています。楽曲はフォルグの詩の一節にインスピレーションを得て書かれたそうで、タイトルの「蛾」は娼婦を暗示していると言われています。

細かい音型で描かれるピアノの響きが不規則に舞う夜の蛾の羽ばたきのようで印象的です。(譜例①)

譜例①:冒頭部分

中間部へ移行する前の連符はまるで蛾が羽ばたきながらひらひらと舞い降りてくるかのようです。(譜例②)

譜例②:演奏動画00:58

それに続く中間部ではテンポを落とし、シンコペーションのリズムに乗りながら幻想的な響きで不思議な空間を作り出しますが、ここでも時折、蛾の羽ばたきを思わせる細かい音型が挿入されます。

それはまるで飛ぶのに疲れて舞い降りてきた蛾が、時折、思い出したかのように羽をばたつかせているかのようです。

曲は再び蛾が飛び立つかのように前半部のパターンに戻り、最後はどこかへ飛び去るかのように終曲します。

2.悲しげな鳥たち(Oiseaux tristes)

1906年にこの組曲「鏡」の初演を務めたスペイン出身のピアニスト、リカルド・ビニェスに献呈されています。

少し不安定とも感じられる不思議な響きの中で物憂い旋律が奏でられます。時折挿まれる細かい音型の即興的な楽句は鳥たちの鳴き声や羽ばたきなのでしょうか。(譜例③)

譜例③:演奏動画06:13

よく似た音型はラヴェルの「マ・メール・ロワ」「ダフニスとクロエ」など他の作品にもよく現れるので、聴き比べてみるのも面白いかも知れませんね。

全曲を通してタイトルには何か別の意味を暗示しているようでもあり、聴き手に考えさせる時間を与えてくれます。

3.海原の小舟(Une barque sur l’océan)

画家のポール・ソルドに献呈されています。

左手で奏でられる美しいアルペジオ(分散和音)は海原のきらめく波を、右手の漂うような旋律は波間に浮かぶ小舟を表現しているのでしょうか。(譜例④)

譜例④:冒頭部分

波を表現しているような細かい音型は形を変えながら終始紡ぎ出されていきます。それは時の経過と共に徐々に姿を変えていく海原のようです。

耳を澄まして聴くと波と波がぶつかって波しぶきが弾け飛んでいるようにも聴こえます。(譜例⑤)

譜例⑤:演奏動画10:09

激しく飛び散った波は表情を刻一刻と変えながら移り変わっていきます。ラヴェルによって細密画のように描かれる繊細な表現が大変魅力的な楽曲です。

最後は静けさを取り戻し、冒頭の漂うような旋律を残しながら、波しぶきが遠く消え入るように終曲します。

ラヴェルはこの楽曲を1906年に管弦楽用に編曲しますが、あまり評判が芳しくなかったためにその後封印しています。そのためこの管弦楽版が出版されたのはラヴェルの死後1950年になってからのことでした。

ダイジェスト動画で少しだけ管弦楽版の演奏を聴いてみましょう。

ラヴェル:海原の小舟(管弦楽版)

アントニオパッパーノ指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

4.道化師の朝の歌(Alborada del gracioso)

音楽評論家のミシェル・ディミトリー・カルヴォコレッシに献呈されています。

楽曲の解説については前回の記事をご覧ください。

5.鐘の谷(La vallée des cloches)

ラヴェルに作曲を学んだ作曲家のモーリス・ドラージュに献呈されています。

美しくさざめく細かい音型に乗って、遠くで鐘の音がこだまするかのように静かに響き渡ります。

その鐘の音は1つではなく、どこで鳴っているのかもはっきりとしないような幻想的な響きを醸し出しています。(譜例⑥)

譜例⑥:冒頭部分

中間部で奏でられる旋律はとても美しく、そこでも遠くに鐘の音が鳴り響いています。

最後は再び冒頭の細かい音型に乗って鐘の音がこだまする中を静かに終曲します。

ラヴェル「鏡」のyoutube動画

ラヴェル:組曲「鏡」
1.蛾(00:00)
2.悲しげな鳥たち(04:55)
3.海原の小舟(08:35)
4.道化師の朝の歌(14:57)
5.鐘の谷(21:20)

ピアノ:アレクセイ・タルタコフスキー(Alexei Tartakovsky)
クリーヴランド国際ピアノコンクール(2016)

ラヴェル「鏡」の無料楽譜

ラヴェル:組曲「鏡」の無料楽譜(IMSLP)

上記のリンク先から無料楽譜をダウンロード出来ます。ご利用方法がわからない方は下記の記事を参考にしてください。

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