ガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」

2020年5月7日

作曲の背景

ラプソディ・イン・ブルーはアメリカの作曲家、ジョージ・ガーシュウィン(1898-1937)が1924年に作曲した独奏ピアノと管弦楽のための作品です。

20代のはじめからポピュラー・ソングの作曲家として活躍していたガーシュウィンは1924年1月3日、自身に関するある新聞記事が掲載されていることを知ります。

記事の内容は「キング・オブ・ジャズ」の異名をとるアメリカのジャズ・バンドリーダー、ポール・ホワイトマン(1890-1967)が開催予定の「An Experiment in Modern Music」(現代音楽の実験)と題されたコンサートに際し、ガーシュウィンもジャズ風の協奏曲を作曲中であると言うようなものでした。

同コンサートは当時の作曲家たちに委嘱した作品を発表し、アメリカ音楽とは何かを審査員たちが判定すると言うようなものでした。

そんな話は寝耳に水で全く身に覚えのないガーシュウィンは翌1月4日にホワイトマンに真偽を確かめるべく電話をかけますが、既に新聞記事になって広く知られてしまったから後戻りはできないと半ば強引にこの依頼を押し切られてしまいます。

全ては最初から巧妙に仕組まれたホワイトマンの戦略だったわけです。

突然の強引な作曲依頼でしたが、予定されていたコンサートが2月12日と目前に迫っていたこともあり、ガーシュウィンはごく短期間でこの作品を書き上げます。

ただそれまでポピュラー・ソングを中心に作曲活動を行っていたガーシュウィンはオーケストレーションに不安があったことと作曲期間が限られていたこともあり、この作品を2台のピアノのための作品として書き上げます。

この作品のオーケストレーションを担当したのは初演をしたポールホワイトマンオーケストラのアレンジャーを担当していたピアニストのファーディ・グローフェ(1892-1972)でした。

この人物は自身も作曲家として活躍し、後年はジュリアード音楽院で教鞭も取っています。

ポール・ホワイトマン・オーケストラとガーシュウィン自身のピアノソロで行われた2月12日の初演の際には、ピアノパートは完成されていなかったそうですが、ガーシュウィンの即興演奏を交えながら演奏され大成功を収めました。

この初演の稿では今日演奏されるピアノ協奏曲風の編成と言うよりは、ヴァイオリンの加わったジャズ・オーケストラと独奏ピアノと言った雰囲気の編成で、ジャンルとしてクラシックかジャズかと問われたら、クラシックの要素を取り入れたジャズ・バンドのための作品と言う趣が強いように思います。

当時この作品を聴いたジャーナリストは「シンフォニックジャズ」と評し、クラシックとジャズを融合させた作品の先駆けとなりました。

1926年、このコンサートの成功を受けてグローフェがオーケストラ用に再編曲します。

この時の改訂によって一般的なクラシックのオーケストラの編成にサクソフォーンやバンジョーが加わるよりクラシックに近い編成が選択されます。

現在演奏される稿の多くはこの1926年の稿を元に、ガーシュウィンの死後の1942年にガーシュインの作品の出版社であるニューワールドミュージック社の編集者、フランク・キャンベル=ワトソン(1898-1980)が改訂したものです。

いずれにしてもオーケストレーションに関しては第3者の手による作品となったわけですが、この作品をきっかけにオーケストレーションを学び、著名な作曲家たちの門戸も叩いたガーシュウィンはその後「パリのアメリカ人」「ポーギーとベス」などの作品を書き上げていくことになります。

「ラプソディ・イン・ブルー」の解説

タイトルの「ラプソディ(狂詩曲)」は叙事的・民族的な性格の自由で幻想的な楽曲のことで、元々は「アメリカン・ラプソディ」という題名だったものを、兄のアイラ・ガーシュウィン(1896-1983)の提案で変更したものです。

兄のアイラは作詞家として弟と組んで多数の楽曲を遺しています。

楽曲はピアノをフィーチャーした協奏曲風の作品ですが、ジャズの要素と奏法をふんだんに取り入れた特徴的な作品です。

冒頭クラリネットが奏でるとても印象的なグリッサンド(2つの音の間を滑るように演奏)のソロは大変有名です。

当初2台のピアノのための作品としてこの曲を書いたガーシュウィンはこの箇所を17連符として書きましたが、初演にあたったポール・ホワイトマン・オーケストラのクラリネット奏者が遊び心からグリッサンドで演奏したのが気に入られ、採用されたそうです。

リング状のキイを指で直接押さえるクラリネットの特性を活かして、指を微妙に滑らせながらアンブシュア(管楽器奏者の口の形)をコントロールすることによってトロンボーンのように半音の間の音も滑るように演奏することを可能にしています。

クラシック音楽においても特にトロンボーンで印象的に用いられる機会は多いかと思いますが、クラリネットで用いられることは現代音楽を除いては稀なのではないでしょうか。

ラプソディ・イン・ブルー クラリネットソロ グリッサンド

クラリネット:アレッサンドロ・カルボナーレ
サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団
 首席奏者

まるで酔っ払いが眠りから覚めたような気だるい雰囲気がとても印象的です。

金管楽器がこれに柔らかい響きで呼応した後、2回目のクラリネットソロから引き継がれるトランペットのソロも大変印象的です。(01:30)

トランペットのベルに挿入して使われるミュート(弱音器)には様々な種類があり、それぞれの音色を活かしてクラシックの作品でも使われる機会は多いですが、ここで使われるミュートはワウワウミュートと呼ばれるものです。

これはハーマンミュートと言う金属製のミュートにステムと言うベルの付いた管を挿入したもので、演奏しながら左手でベルの開口部を開閉することでとてもユニークで印象的な演奏をすることが可能です。

ワウワウミュート デモンストレーション

トランペット:Ian Chalk

このミュートもクラシックよりはジャズの演奏で使用されることが圧倒的に多く、作品に独特の雰囲気を醸し出しています。

ステムを外したハーマンミュートの演奏も少し聴いてみましょう。

ちなみにハーマンミュートは正確にはミュートの種類ではなく、ミュートを製作しているメーカーの名前です。

ハーマン社のワウワウミュートが大変有名なため、今では一般的な呼称として定着しています。

ハーマンミュート デモンストレーション

トランペット:Josh Lawrence

ぐっと大人っぽくなると言うか、クールでジャズっぽい雰囲気が増しますね?

話が少し横道にそれましたが、冒頭からこれらのジャズの奏法を巧みに取り入れることによって、独奏ピアノが登場する前に一気にガーシュウィンの世界に引き込まれる印象的な導入部分です。

ワウワウミュートを付けたトランペットのソロに続き、独奏ピアノが静かに旋律を奏でると今度はオーケストラがトッティ(総奏)で主題を力強く奏でます。(01:48)

ここでの響きはとてもシンフォニックで先ほどまでのジャズっぽい雰囲気と対照され魅力的です。

独奏ピアノは伝統的なクラシック様式のピアノ協奏曲とは異なり、ジャズっぽい響きと即興的な雰囲気を併せ持ち、聴く人を惹きつけます。

ピアノの独奏が山場を迎えるとオーケストラが幻想的で美しいメロディを奏でます。(11:17)

ドラマティックに高揚したこのメロディを独奏ピアノが引き継ぎ、即興的に発展していくと再びオーケストラが登場し、掛け合いながら冒頭の旋律を壮大に奏でクライマックスを迎えます。

楽曲の中にはジャズっぽい自由な雰囲気と遊び心溢れるユニークな旋律、それと対照的なシンフォニックな響きと時には都会の喧騒を感じさせる混沌とした雰囲気が混在しています。

この曲を聴いていると20世紀初頭のニューヨークの街角をバーボンの瓶を片手に鼻歌を歌いながら歩いているかのような感覚に陥ります。

今回ご紹介する動画ではフランクフルトの野外コンサートで観客たちが肩ひじを張らずに気楽に音楽を楽しむ姿を見ることが出来ます。

たまには好きなお酒を片手にクラシックを楽しむのも粋ではないでしょうか?

「ラプソディ・イン・ブルー」のyoutube動画

ガーシュウィン ラプソディ・イン・ブルー

アンドレス・オロスコ=エストラーダ指揮 hr交響楽団(フランクフルト放送交響楽団)
ピアノ:ミシェル・カミロ

いかがでしたか?こちらの作品もぜひ聴いてみてください!

「ラプソディ・イン・ブルー」の名盤

管理人おすすめの名盤はこちら!

ガーシュウィン
ラプソディ・イン・ブルー
パリのアメリカ人
ピアノ協奏曲ヘ調

アンドレ・プレヴィン指揮、ピアノ
ピッツバーグ交響楽団

録音時期:1984年

アンドレ・プレヴィン(1929-2019)は10代の頃からジャズ・ピアニストとして活躍し、後にクラシックに転向したドイツ出身の指揮者でピアニストです。

後にアメリカに渡り著名なオーケストラの指揮者として活躍する傍ら、純音楽や映画音楽の作曲もするなど幅広い分野で活躍しました。

プレヴィンは音楽監督を務めたロンドン交響楽団ともこの作品を録音していますが、今回ご紹介するのはその後に音楽監督を務めたピッツバーグ交響楽団と共演した作品です。

youtube参考音源はこちら⇒ラプソディ・イン・ブルー

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参考資料:大辞林 第三版 株式会社 三省堂
「2014年9月20日(土)の放送 アメリカに愛されたメロディー」『ららら♪クラシック』
URL:https://www.nhk.or.jp/lalala/archive140920.html
レポート/直江慶子『《ラプソディー・イン・ブルー》その解釈をめぐる一考察』『PTNA ピティナ』
URL:http://www.piano.or.jp/report/04ess/ronbunreport/2008/04/01_8990.html#02
「ラプソディ・イン・ブルー」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』2020年4月11日 (土) 22:57
URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/ラプソディ・イン・ブルー