ピアソラ「ブエノスアイレスの四季」【解説とyoutube動画】
目次
ブエノスアイレスの夏
独奏ヴァイオリンが奏でる印象的な重音のポルタメント(2つの音の間を滑るように移行する奏法)に、ブエノスアイレスの夏の気怠い空気を感じるような気がします。
まずは4曲の中からブエノスアイレスの夏を聴いてみましょう!
ピアソラ:ブエノスアイレスの夏(編曲:デシャトニコフ)
Trondheim Soloists
ヴァイオリン:ユン・ソヨン
ロシアの作曲家、レオニード・デシャトニコフ(1955-)によって独奏ヴァイオリンと弦楽合奏用にアレンジされたこのヴァージョンにはヴィヴァルディの「四季」から「冬」の一節が引用され織り込まれています。
南半球にあるブエノスアイレスは北半球にあるヨーロッパとは季節が逆になり、1年を通して最も暑いのは1月でブエノスアイレスの夏はヨーロッパでは冬にあたります。
これがブエノスアイレスの夏にヴィヴァルディの「冬」を挿入している由来だそうです。
細部までこだわったアレンジなのですね?(笑)
この曲に織り込まれているヴィヴァルディの「冬」も少し聴いてみましょうか?
ヴィヴァルディ 四季より「 冬 」第1楽章
Voices of Music
ヴァイオリン:Cynthia Miller Freivogel
「ブエノスアイレスの四季」の解説
ブエノスアイレスの四季はアルゼンチンの作曲家でバンドネオン奏者のアストル・ピアソラ(1921-1992)が作曲した楽曲です。
ヴィヴァルディの四季と同じく「春」「夏」「秋」「冬」の4曲からなっていますが、当初から4部作にする構想はなかったようで、元々は1965年に劇作家アルベルト・ロドリゲス・ムニョスの舞台のために書かれたのが冒頭にご紹介したブエノスアイレスの夏です。
その後1969年に残りの3曲が発表され、結果ブエノスアイレスの四季として4部作となりました。
これらの作品はピアソラ率いる五重奏団で演奏され、その編成はバンドネオン、ヴァイオリン、ピアノ、コントラバス、エレキギターから成っていました。
ピアソラはその後も新たなスタイルを模索し、何度も違う編成の楽団を結成、解体することを繰り返しました。
ピアソラ自身は若い頃からバンドネオン奏者として活動する傍ら、クラシックの音楽理論を学びパリにも留学しました。
帰国後はタンゴを原点としながらもクラシックやジャズのエッセンスも取り入れ、音楽のジャンルの垣根を越えた新しい音楽を生み続けました。
ピアソラが生涯をかけて新しいスタイルを模索し続けたように、その作品も様々な編成やアレンジでジャンルを超えた音楽家たちに演奏され、多くの人々を魅了しています。
クラシックの世界では1990年代後半に現代を代表するヴァイオリニストのギドン・クレーメル(1947-)が「ピアソラへのオマージュ」と題されたアルバムを発表したのを皮切りに次々とピアソラ作品をアレンジしたアルバムをリリースしたり、現代最高のチェリストとの呼び声もあるヨーヨー・マ(1955-)もアルバム「ヨーヨー・マ プレイズ・ピアソラ」を発表、日本のテレビCMにも登場し「リベルタンゴ」を演奏して一躍脚光を浴びました。
ピアソラ リベルタンゴ
チェロ:ヨーヨー・マ
アルバム「Soul of the Tango」より
今回は様々なスタイルと編成にアレンジされたこの作品の中から、オリジナルの編成の五重奏版と先ほどお聴きいただいた弦楽合奏版をご紹介しようと思いますので、ぜひお楽しみください!
バンドネオンとアコーディオン
若い頃からバンドネオン奏者として活動していたピアソラですが、この一見アコーディオンに似たバンドネオンと言う楽器は一般的にはあまり知られていないようにも思います。
バンドネオンは元々1829年にオーストリアで誕生した(異説あり)アコーディオンを参考にして開発されたコンサーティーナという楽器が、さらにドイツの楽器製作家のハインリヒ・バンド(1821-1860)によって改良が加えられて1847年に誕生したと言われてます。
これらの蛇腹楽器と呼ばれる楽器に共通する事としては、音を出す仕組みが同じであると言うことがあげられます。
蛇腹を押したり引いたりすることによって起こる空気の流れが、リードと呼ばれる薄い金属の板を振動させて音を鳴らしています。
乱暴に言えば大きなハーモニカを付けた2つの箱を、息を吹いたり吸ったりする代わりに、蛇腹を伸縮させることによって空気を送り込んで音を出していると言った感じでしょうか。
外観はアコーディオンは長方形型の楽器に付いたベルトに両腕を通して、ランドセルを反対に背負うようなスタイルで演奏するのに対し、バンドネオンは正方形に近い左右の筐体に、小さなベルトがついていてそこに手を通して演奏します。
バンドネオンの場合、楽器の重さを手だけで支えながら演奏する事は困難な為、膝に乗せて演奏するのが一般的です。
アコーディオンは右手側がピアノの鍵盤のようになっているイメージがありますが、楽器によってはバンドネオンのようなボタン型のものもあります。
アコーディオンもバンドネオンも構造の異なる様々なモデルの楽器があるようで、構造上の説明はここでは割愛させていただきます。
ここで実際の違いを音楽と映像でご覧いただくために日本を代表するバンドネオン奏者の小松亮太さんとアコーディオン奏者のcobaさんのPV動画をご紹介したいと思います。
ピアソラ ブエノスアイレスの夏
バンドネオン:小松亮太
ピアソラ リベルタンゴ
アコーディオン:coba
※記事の内容とは何の関係もありませんが「このPVに出ている男性?・・・どこかで見たような???」とお考えの方のために・・・この方は松重豊さん主演の人気ドラマ「孤独のグルメ」の原作者、久住昌之さんでした。
「ブエノスアイレスの四季(五重奏版) 」youtube動画
まず最初にピアソラ自身がこれらの作品を演奏した五重奏(Quinteto=キンテート)の編成で聴いてみましょう。
ピアソラのキンテートの編成はバンドネオン、ヴァイオリン、ピアノ、コントラバス、エレキギターですが、次にご紹介する動画ではバンドネオンに代わりアコーディオンで演奏されています。
ブエノスアイレスの春(Primavera Porteña)
Fugata Quintet
ブエノスアイレスの夏(Verano Porteño)
Fugata Quintet
ブエノスアイレスの秋(Otoño Porteño)
Nuevo Tango Quintet
ブエノスアイレスの冬(Invierno Porteño)
Fugata Quintet
「ブエノスアイレスの四季(弦楽合奏版) 」youtube動画
最後にご紹介するのは冒頭にお聴きいただいたデシャトニコフのアレンジによる全曲版です。
冒頭にご紹介したようにこのアレンジでは「夏」だけではなく全曲を通じてヴィヴァルディの四季からの引用が見られます。
また「冬」にはパッヘルベルのカノンを想わせるコード進行が聴き取れますが、これはピアソラのオリジナルの楽曲に既に書かれています。
個人的にも大好きな編曲で、ソリストのユン・ソヨンさんも素晴らしいパフォーマンスを披露されています。
ユン・ソヨンさんは1984年生まれ、韓国出身のヴァイオリニストです。
メニューイン国際コンクール、ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクールなど数々のコンクールで優勝された後、世界的な活躍をされています。
ピアソラ ブエノスアイレスの四季(編曲:デシャトニコフ)
1.「秋」(00:40)2.「冬」(07:20) 3.「春」(14:50) 4.「夏」(20:30)
Korean Chamber Orchestra
ヴァイオリン:ユン・ソヨン
こちらの記事でもユン・ソヨンさんの演奏をご紹介しています。ぜひ聴いてみてください!
ヴィヴァルディの四季と聴き比べてみるのも楽しいかもしれませんね?
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