スメタナ「わが祖国」【解説と名盤】
目次
まずはダイジェストで聴いてみよう!
弦楽器が紡ぎだす有名な旋律は悠然と流れるモルダウ川を描写しています。
まずは第2曲「モルダウ(ヴルタヴァ)」をダイジェストで聴いてみましょう。
クシシュトフ・ウルバンスキ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
作曲の背景
連作交響詩「わが祖国」はチェコの作曲家、ベドルジハ・スメタナ(1824-1884)が1874年から1879年にかけて書いた6曲からなる交響詩です。
6つの曲にはそれぞれチェコの自然や歴史に因んだ標題が付けられています。
この作品を書き始めた1874年、50歳になるスメタナはプラハで指揮者としても活動をしていましたが、この年の夏に大きく体調を崩し聴覚を失っています。
悪化する健康状態に加え家庭内の不和などもあり精神的にも追い込まれていくスメタナはプラハを離れ静かな環境の中で本作品を書き上げていきます。
当時のチェコはオーストリア帝国の支配下にあり、祖国への愛情と民族主義的な色合いの強いこの作品は国民を大いに勇気づけ、スメタナの代表作となっただけではなくチェコの国を象徴するような作品となりました。
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団創設50周年にあたる1946年から開催されている「プラハの春音楽祭」はスメタナの命日である5月12日にこの「わが祖国」の演奏を皮切りに開幕されることでも有名です。
モルダウ(ヴルタヴァ)
ここでは全6曲の中で最も有名な第2曲「モルダウ(ヴルタヴァ)」を先にご紹介します。
ドイツ語の「モルダウ」として知られていますが、チェコ語の原題は「ヴルタヴァ(Vltava)」となっています。
モルダウ(ヴルタヴァ)はボヘミアの中心を流れていく川の名前です。
スメタナは「2つの源流が合流して流れ出し、川幅を増しながら、森の狩や婚礼の踊りの傍らを通り、夜になると月の光や妖精の舞いを映し、聖ヨハネの急流を通り、やがてプラハへと至り、ヴィシェフラドを経て、遠くへ去っていく」と解説しています。

曲は冒頭、2本のフルートがモルダウの源流を表現し、やがて現れるクラリネットによって奏されるもうひとつの流れと合わさって一つになります。
そしてダイジェスト動画でもご紹介したあの有名な旋律が、悠然と流れるモルダウ川の流れを描写します。
ちなみにこの旋律は、イタリアの歌曲が元になっているとも言われ、現在のイスラエル国歌の元にもなっています。
やがて聴こえてくる勇壮な金管楽器の音は森の狩で使われる角笛です。
楽しそうに踊る田舎の婚礼の踊りを横切ると情景は変わり幻想的な月の光と妖精の舞いが現れます。
再び雄大なモルダウの流れが現れると突然激しい音楽となり聖ヨハネの急流が描写されます。
メインテーマが明るく堂々と奏されプラハに至ったことを告げると最後は遠くへ流れ去っていくかのように終わります。
スメタナ 連作交響詩「わが祖国」より 第2曲「モルダウ(ヴルタヴァ)」
クシシュトフ・ウルバンスキ指揮 オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団
スメタナ「わが祖国」解説
第1曲:ヴィシェフラド
ヴィシェフラドは「高い城」の意味を持ち、モルダウ(ヴルタヴァ)川河畔に立つヴィシェフラド城をモチーフにしています。
かつてはボヘミアの国王の居城でしたが、長い戦乱の歴史の中で破壊され廃墟となりました。
現在は民族墓地が作られスメタナもドヴォルザークもここに眠っています。

曲はチェコの伝説的な吟遊詩人がヴィシェフラドの岩を眺めながらその栄枯盛衰に思い耽る様子を描写しています。
冒頭の2台のハープが吟遊詩人の竪琴を表現しています。曲中ではかつてヴィシェフラド城が栄光を誇ったころの壮麗な雰囲気、その後の戦乱に立ち向かい勇壮に進軍するかのような旋律。やがて戦いに敗れ没落の道を辿る哀歌のような旋律が聴こえてきます。
最後は荒れ果てたヴィシェフラド城を見上げる吟遊詩人が全ては過去の物語とでも言いたげに静かに回想しているかのように終わります。
第2曲:モルダウ(ヴルタヴァ)(16:11)
第3曲:シャールカ(29:30)
「シャールカ」はチェコの伝説に登場する勇女の名前で、プラハ北東の地名にもなっています。
敵対するツチラトに復讐を誓うシャールカは、自らを木に縛り付けて苦しむ芝居をします。
それを見つけたツチラトは彼女の美しさに魅せられ縛を解いてやります。
シャールカはお礼にとツチラトたちに酒を振る舞い酔わせて眠らせます。
やがて角笛を合図に、隠れていた女戦士たちが襲いかかり、彼らを皆殺しにします。
冒頭から嵐のような激しい音楽が展開されこれからの戦いを予兆させます。
やがて行進曲風の旋律が奏でられツチラトの部隊が現れたことを告げます。
クラリネットの音は助けを求めるシャールカの声、応えるチェロの音はシャールカに魅かれるツチラトを表現しています。
やがて賑やかな酒宴がはじまり兵たちは酔いつぶれいくとファゴットの長い音が兵たちのいびきを表現します。
するとホルンによる攻撃の合図が聴こえクラリネットによって忍び寄るシャールカたちが表現されるといよいよ一斉に攻撃に移り男たちは皆殺しにされ幕を閉じます。
第4曲:ボヘミアの森と草原から(41:15)
タイトルの通りボヘミアの美しい森や草原といった風景が描写されています。
草原を流れる風のような美しく牧歌的な調べ、フーガによって描かれる鬱蒼とした森の情景がやがて壮大に展開されると今度は収穫や婚礼を思わせる陽気なポルカの踊りが描写されます。
最後はテンポを速め勇壮に終わります。
第5曲:ターボル(54:28)
ターボルはボヘミア南部の町の名で、15世紀に起こったキリスト教改革派のフス派の拠点でした。
フス派を異端とみなした当時のカトリック、神聖ローマ帝国との間で壮絶な戦いが繰り広げられます。
18年にも及んだこの戦いはフス派が敗れ終わりを迎えますが、このことがきっかけとなってチェコの人々は民族としての連帯を一層深めることになります。
曲はフス派の讃美歌『汝らは神の戦士たれ』がモチーフとなっています。
第6曲:ブラニーク(01:08:03)
ブラニークはボヘミア中南部にある山の名で、ここには愛国の戦士たちが眠り、祖国が危機の際には目を覚まして国を救うとの言い伝えがあります。
そしてフス派の戦士たちもここに眠っています。
第5曲「ターボル」と同じく曲はフス派の讃美歌『汝らは神の戦士たれ』がモチーフとなっています。
激しい戦乱の合間に聴こえてくるのどかで牧歌的な調べと再び訪れる激しい戦いの音楽が長い間戦乱の続いたチェコの歴史を髣髴とさせるようです。
最後はこの長い戦いの終わりを告げる勝利の凱歌が壮大に奏でられフィナーレを迎えます。
スメタナ「わが祖国」youtube動画
スメタナ 連作交響詩「わが祖国」
セミヨン・ビシュコフ指揮 ケルンWDR交響楽団(ケルン放送交響楽団)
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スメタナ「わが祖国」名盤
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※今回ご紹介するのはDVDです。
【収録曲】
スメタナ:連作交響詩「わが祖国」
クーベリック/祖国との再会~リハーサルとインタビュー
ラファエル・クーベリック指揮
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
収録:1990年5月12日
プラハ、スメタナホール(ライヴ)
チェコ音楽界のサラブレット的な存在であったラファエル・クーベリックは、第二次世界大戦後に社会主義化した政治体制に反発し、チェコ・フィル首席指揮者の地位を投げうって西側へ亡命します。
しかし、1989年にチェコの民主化(ビロード革命)が成功し、42年ぶりに祖国の地を踏んだクーベリックは、すでに指揮活動から引退していたのにもかかわらず、かつての手兵チェコ・フィルとともに「プラハの春」オープニング・コンサートに登場。第2の国歌とも見なされるスメタナの「わが祖国」を万感の思いを込めて演奏しました。
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