モーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」解説とおすすめの名盤、無料楽譜
目次
まずはダイジェストで聴いてみよう!
颯爽と躍動する弦楽器のいきいきとしたテーマ、それは新緑の季節に駆け抜ける一陣の風のようです。
モーツァルトの作品に限らず、クラシック音楽の全作品の中でも最も有名なものの中の一つです。
まずは第1楽章の冒頭部分をダイジェストで聴いてみましょう。
ドーリック弦楽四重奏団
作曲の背景
アイネ・クライネ・ナハトムジーク(Eine kleine Nachtmusik) ト長調 K.525はオーストリアの作曲家、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)が1787年、31歳の時に作曲したセレナードです。
旧モーツァルト全集では通し番号の13番が充てられたため「セレナード第13番」と表記される場合もあります。
編成は第1、第2ヴァイオリン、ヴィオラに加え、バスパートがチェロ、コントラバスとなっていることから弦楽四重奏にコントラバスを加えた五重奏、もしくは弦楽合奏で演奏されるのが一般的です。
演奏機会は弦楽合奏の方が多いのではないでしょうか?
1787年のはじめ、この年31歳を迎えるモーツァルトはオペラ「フィガロの結婚」が大成功をしたプラハに招かれます。
1787年5月28日、父、レオポルト・モーツァルト(1719-1787)がザルツブルクで亡くなります。
アイネ・クライネ・ナハトムジークの作曲が完成するのはそれから3か月を経ない8月10日のことです。
この頃、モーツァルトはオペラ「ドン・ジョヴァンニ」の作曲に取り掛かっていた時期で、この名作オペラは2か月後の10月29日に初演されています。
作曲のきっかけなどについては不明な点が多く、モーツァルト自身が書き残した自作品目録には現在第2楽章として演奏されている「Romanze」の前に「メヌエットとトリオ」が記載されていることから、本来は5楽章の作品であったと考えられています。
モーツァルトの自筆譜の右上にふられたページ番号も3ページ目が欠落していて、まぼろしの第2楽章が存在したことを裏付けています。
この作品がはじめて出版された1827年には、既に現在の形の4楽章の作品として出版されています。
まぼろしの第2楽章は未発表作品の中にあるのではないか?他の作品のメヌエットとして流用されたのではないか?研究者の間で様々な論議がなされましたが、いずれも推測の域を出ていないのが現状です。
モーツァルト31歳の時の作品で、若々しく瑞々しいエネルギーに満ちた作品ですが、幼くして音楽活動をスタートし、35歳の若さで早世したモーツァルトとしては、晩年に差し掛かる頃の作品と言っても良いでしょう。
モーツァルトの作品の中でも抜群の知名度を誇るこの作品ですが、高い評価と演奏機会に恵まれるのは20世紀に入ってからのことです。
「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の意味
ドイツ語のタイトル「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」(Eine kleine Nachtmusik)はモーツァルト自身が書き残した自作品目録に記載されているタイトルですが、自筆譜にはそのような表記はありません。
日本語にすると「小さな夜の音楽」と言う意味で、「ナハトムジーク(Nacht Musik)」は英語にすると「ナイトミュージック(Nigft Music)」です。
旧モーツァルト全集を参考にした録音等では「セレナード第13番」と表記されているケースもありますが、「セレナード」あるいは「セレナーデ」の邦訳は「小夜曲」です。
タイトルの意味から想像しても、貴族の晩餐会などで演奏されたものと考えられ、祝祭的な雰囲気もそうした推測とマッチするように思います。
おそらくは貴族の依頼によって書かれたものと考えるのが妥当なようです。父を亡くしたばかりのモーツァルトが、その心情と反するような喜びと祝祭的な雰囲気に包まれたこの作品を書き上げたのは、まさに音楽の「職人」として高い意識を持っていたことをうかがわせます。
「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の解説
第1楽章:Allegro
冒頭、分散和音を跳躍するいきいきとした第1主題は躍動感に溢れ、とても有名で広く親しまれています。(譜例①)
8分音符が刻まれる上で演奏される第1ヴァイオリンの旋律はとても流麗で、軽快かつ推進力に満ち溢れています。
続いて聴こえてくる第2主題は対照的に軽やかで愛らしい雰囲気を持っていて、旋律を彩る装飾音符はとても上品で愛らしく印象的です。
第2楽章:Romanze Andante
ロマンツェ(ロマンス)と題された第2楽章はとても美しく甘美な旋律が印象的な楽章です。(譜例③)
中間部は短調になり、少し不安気で緊張した感じの16分音符が刻まれる中を装飾音符が連続して奏されます。(譜例④)
しばら続いた緊張もやがて解かれ、再度冒頭の甘美な旋律が繰り返され第2楽章を終えます。
第3楽章:Menuetto: Allegretto
力強く歯切れのよい旋律が印象的なメヌエット、メヌエットとは3拍子で奏でられる舞曲のひとつです。(譜例⑤)
中間部のトリオでは優雅で流麗なメロディが流れ、美しいコントラストを描きます。楽譜には「sotto voce」(静かな声で、ささやく様に)の指示が見られます。(譜例⑥)
楽曲は再び冒頭のメヌエットに戻って終曲します。
第4楽章:Rondo Allegro
小刻みに躍動する旋律が印象的な軽快な楽章です。冒頭の主題は第4楽章を通し、何度も繰り返し現れます。(譜例⑦)
第1楽章と同じように、ここでも旋律の裏で刻まれる8分音符が音楽に前へ前へと進む推進力を与えています。
全体的には跳ねるように躍動する曲想ですが、柔らかい音階で演奏される流麗な部分が挿入されていたり、同じリズムが力強く繰り返されたり、様々な魅力を詰め込んだ終曲にふさわしい楽章です。
「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」YouTube動画
モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトムジーク ト長調 K.525
第1楽章(00:00)
第2楽章(04:20)
第3楽章(10:25)
第4楽章(12:35)
ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズ
「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」おすすめの名盤
ボスコフスキー指揮:ウィーン・モーツァルト合奏団
【収録曲】
モーツァルト
セレナード 第13番ト長調 K.525≪アイネ・クライネ・ナハトムジーク≫
ディヴェルティメント 第1番 ニ長調 K.136
ディヴェルティメント 第2番 変ロ長調 K.137
ディヴェルティメント 第3番 ヘ長調 K.138
セレナード 第6番 ニ長調 K.239≪セレナータ・ノットゥルナ≫
ヴィリー・ボスコフスキー指揮
ウィーン・モーツァルト合奏団
録音:1968年、1978年
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ヴィリー・ボスコフスキー(1909-1991)はウィーン・フィルのコンサート・マスターとして活躍したヴァイオリニストですが、指揮者としても活躍しました。
ウィーン・フィルのメンバーで構成されたウィーン・モーツァルト合奏団との録音は奇をてらったところのない、オーソドックスなアプローチをしているように感じました。
透明感のある弦楽器の響きが印象的で、美しく流麗、かつ上品な演奏です。
トン・コープマン指揮:アムステルダム・バロック管弦楽団
【収録曲】
モーツァルト
アイネ・クライネ・ナハトムジーク K.525
ディヴェルティメントK.136-138
トン・コープマン指揮
アムステルダム・バロック管弦楽団
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「アイネク」=「華やかで勢いのある・・・」そういった先入観を持たれている方には少々違和感を感じるかも知れませんが、おそらくモーツァルトが生きた時代には現在、広く親しまれているような演奏スタイルは華美に過ぎるような気もします。
特に第2楽章は落ち着いたテンポ設定で、静けさの中に美しさを感じる素敵な録音になっています。
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【弦楽合奏版】
「カール・ベーム&ウィーン・フィル」「カラヤン&ウィーン・フィル」「レヴァイン&ウィーン・フィル」「ボスコフスキー&ウィーン・モーツァルト合奏団」「ウィーン・カンマー・フィル」「カラヤン&ベルリン・フィル」「フェレンツ・フリッチャイ&ベルリン・フィル」「カール・ミュンヒンガー&シュトゥットガルト室内管」「ネヴィル・マリナー&アカデミー室内管」「オルフェウス室内管」「トン・コープマン&アムステルダム・バロック管」「ザルツブルク・カメラータ・アカデミカ」「オイゲン・ヨッフム&バイエルン放送室内管」「イ・ムジチ合奏団」「コンチェルト・ケルン」「リュボムドロフ&メタモルフォーゼ弦楽オーケストラ」「オットー・クレンペラー&フィルハーモニア管」「ブルーノ・ワルター&コロンビア響」「オットー・クレンペラー&ニューヨーク・フィル」「バーンスタイン&ニューヨーク・フィル」「小澤征爾&サイトウ・キネン」他
【弦楽五重奏版】
「ザルツブルク・モーツァルテウム弦楽四重奏団」「ブランディス弦楽四重奏団」「アマデウス弦楽四重奏団」「ハーゲン弦楽四重奏団」他
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「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」無料楽譜
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まとめ
モーツァルト作曲のアイネ・クライネ・ナハトムジーク、いかがでしたでしょうか?
クラシック・ファンならずとも広く親しまれるこの作品ですが、意外なことに頻繁に演奏されるようになったのは、20世紀に入ってからのこと、SPレコードが広く普及するようになってからのことです。
曲想からは「喜び」「楽しみ」「軽快」「躍動」などのキーワードが連想される「音楽のおもちゃ箱」のような作品ですが、モーツァルト自身は父を亡くし、また親しかった複数の知人たちを亡くし、悲しみに暮れていたであろう時期の作品でもあります。
モーツァルトは13曲のセレナードを書いていますが、この作品を最後にセレナードを書いていません。
いつの日か失われた第2楽章、3枚目の自筆譜が発見され、モーツァルトが書いた当時の全曲が聴けることを待ちわびているクラシック・ファンは私だけではないでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございます。こちらの作品もぜひ聴いてみてください!
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