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チャイコフスキー|交響曲第6番「悲愴」解説とおすすめの名盤

まずはダイジェストで聴いてみよう!

「嘆き」「慟哭」と言った印象の悲嘆に暮れた旋律が徐々に高まり、やがて激しく高揚していきます。

まずは第4楽章をダイジェストで聴いてみましょう!

マンフレート・ホーネック指揮:ピッツバーグ交響楽団

作曲の背景

交響曲第6番 ロ短調 作品74「悲愴」はロシアの作曲家、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840-1893)が1893年、53歳の時に書き上げた最後の交響曲です。

副題の「悲愴」は従来、弟のモデストの提案によるものとされてきましたが、その後の研究により、今日ではチャイコフスキー自身が付けたものだと考えられています。

自筆の総譜の表紙に書かれたロシア語の副題「патетическая」(パテティーチェスカヤ)=「熱情」「強い感情」、自筆譜の冒頭に書かれ、出版社とのやりとりの中にもみられるフランス語の「Pathétique」(パテティーク)=「悲愴」「悲壮」は、若干言語によるニュアンスの相違があり、日本語訳の「悲愴」が相応しいのかどうか疑問を呈されることもあるようです。

そもそも日本語の「悲壮」ではない「悲愴」も日常あまり使わない言葉ですが、「悲しく痛ましいこと」を指し、この交響曲の醸し出す雰囲気と相まって「チャイコフスキーの悲愴」としてすっかり定着しています。

チャイコフスキー
チャイコフスキー
パブリック・ドメイン:Bain News Service, publisher – http://memory.loc.gov/service/pnp/ggbain/33100/33158v.jpg

チャイコフスキーは1893年10月16日に自ら指揮を行った初演の9日後に急逝しています。

あまりの突然の出来事に一時は自殺説も囁かれましたが、死因はコレラとみられています。

そうした噂もあり、この作品の副題に死との関連性を持たせようとする向きもありますが、この作品に自身の死に対するメッセージ性はなく、単なるイメージととらえた方が良さそうです。

ただ当時の聴衆にしてみれば激情と言っても良いようなオーケストラの旋律、「悲愴」と言う副題、チャイコフスキーの急死、自殺の噂・・・これらのことから、遺作とわかった上でタイトルに込めた想いがあったのではないか?と言う憶測があっても何ら不思議なことではないような気がします。

どんな想像をしながらチャイコフスキーの描いた世界に入り込むのかは聴く人次第なのかもわかりませんね。

チャイコフスキー|交響曲第6番「悲愴」解説

第1楽章:Adagio – Allegro non troppo

導入から第1主題に基づくファゴットによる陰鬱な旋律が奏でられ、これからの悲劇を予感させるような暗い雰囲気に包まれます。

この旋律から発展した第1主題がややテンポを速めて提示されます。(譜例①)

チャイコフスキー交響曲第6番第1楽章
譜例①:演奏動画(02:46)

この第1主題は弦楽器と木管楽器の間で何度もやり取りされながら演奏され、やがて弦楽器によって郷愁を誘うような美しい第2主題が奏でられます。(譜例②)

チャイコフスキー交響曲第6番第1楽章
譜例②:演奏動画(05:24)

この第2主題は木管楽器の音階を上がっては分散和音で下りて来る楽句を挿み、再びよりドラマティックに現れ、昇華し、最後は静かに消え去るように終わります。

チャイコフスキーはこの第2主題が消え去っていく箇所のクラリネットソロに「PPPPP」、さらにこの下降音型を受け継ぐファゴットのソロに「PPPPPP」と言うかなり極端な強弱記号を指示しています。(譜例③)

チャイコフスキー交響曲第6番第1楽章
譜例③:演奏動画(10:00)

この最後の最弱音を受け継ぐファゴットは実際の演奏ではバス・クラリネットが代わりに演奏することも多いようですが、便宜上のことでもちろんチャイコフスキー自身の指示ではありません。

次にご紹介する動画の中でもファゴットに代えて、バス・クラリネットが用いられています。

音楽は打って変って、突然激しい嵐が訪れたかのようにオーケストラが雄たけびを上げ、展開部に突入します。第1主題が姿を変え、同じ主題とは思えない、まるで何かと戦っているような激しい音楽が展開されます。

チャイコフスキーの人生を振り返ると、戦っている相手は人や獣の類ではなく、彼自身の人生そのものであるかのような雰囲気も感じます。

嵐が過ぎ去り美しい朝がやってきたように、第2主題が再びドラマティックに演奏された後、金管楽器が静かに讃美歌風の旋律を奏で第1楽章を終えます。

第2楽章:Allegro con grazia

とても優雅で流麗なワルツですが一般的なワルツが3拍子であるのに対し、この作品では5拍子で書かれています。(譜例④)

チャイコフスキー交響曲第6番第2楽章
譜例④:演奏動画(21:00)

クラシックに馴染みのない方は5拍子と言われてもピンと来ないかもしれませんが、「1、2、3、4、5」ではなく「1、2、1、2、3」と拍子を取りながら聴いてみると雰囲気が掴めるかも知れませんね。

個人的な感想ですが、この楽章を聴くとチャイコフスキーの「弦楽セレナード」第2楽章のワルツが頭をよぎります。

美しく優雅な調べが流れますが、その下で延々と同じリズムを繰り返すティンパニと低音楽器が、どこかほの暗いものを予兆します。

第3楽章:Allegro molto vivace

スケルツォ風に弦楽器が目まぐるしく駆け回る中、オーボエが躍動的な行進曲の旋律の断片を奏でます。(譜例⑤)

チャイコフスキー交響曲第6番第3楽章
譜例⑤:演奏動画(29:28)

2つの動きが交差しながらまるでパズルが徐々に出来上がるようにして、やがてオーケストラ全体で力強く勇壮に行進曲を奏でます。

第4楽章:Adagio lamentoso – Andante

第2楽章の優美さや、第3楽章の躍動的で勇壮な雰囲気が夢か幻であったかのように、一転して冒頭から陰鬱な空気が支配します。終楽章の楽譜には「Adagio lamentoso」つまり「緩やかに、死者を悼むように悲哀を込めて」と指示されています。(譜例⑥)

チャイコフスキー交響曲第6番第4楽章
譜例⑥:演奏動画(38:20)

チャイコフスキーはこの第4楽章冒頭の第1主題で、旋律を第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンで交互に縫うように奏でると言う独創的なオーケストレーションを試みています。

上記の譜例の赤点を繋げば一つの旋律になると言う仕組みです。

その調べは「嘆き」「悲しみ」「慟哭」と言うべきでしょうか、いや、やはり「悲愴」の二文字が最も適していると言わざるを得ないでしょう。

ファゴットが音階をどこまでも下へ下へとゆっくり降りていく様は、地下深い暗闇へと歩みを進めていくようにも感じられ、必然的に死を予感せずにはいられません。(譜例⑦)

チャイコフスキー交響曲第6番第4楽章
譜例⑦:演奏動画(39:58)

弦楽器が奏でる慟哭の旋律は激しく燃え上がった後、やがて息も絶え絶えになり、ドラの静かな響きの中で金管楽器が讃美歌風の響きを奏でます。(譜例⑧)

チャイコフスキー交響曲第6番第4楽章
譜例⑧:演奏動画(46:45)

ドラの音は命の火を灯し続けてきた最後の鼓動の響きなのでしょうか、弦楽器が葬送の音楽ともとれる終結部を奏で消え入るように終曲します。

チャイコフスキー|交響曲第6番「悲愴」YouTube動画

チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」ロ短調 作品74
第1楽章(00:40)
第2楽章(21:00)
第3楽章(29:00)
第4楽章(38:20)

リオネル・ブランギエ指揮:hr交響楽団(フランクフルト放送交響楽団)

チャイコフスキー|交響曲第6番「悲愴」おすすめの名盤

ムラヴィンスキー指揮:レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

【収録曲】
チャイコフスキー:交響曲第6番ロ短調 Op.74『悲愴』

エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮
レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1960年

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エフゲニー・ムラヴィンスキーは20世紀の旧ソ連を代表する名指揮者です。今回ご紹介するこの録音は1960年のヨーロッパ公演の折にウィーンのムジークフェラインで録音されたもので、非常に評価の高い録音です。

半世紀以上前の録音ですが音質も良く細部まで鮮明に聴こえます。音質はどちらかと言えばドライで、誇張された残響等もなく比較的生々しいオケの響きを楽しめます。

ムラヴィンスキーの演奏はロシアのオケとは思えないように洗練されていて繊細などと言われますが、特に第1楽章などにおいてはむき出しの生々しい響き、特に金管楽器の響きなどにロシアのオケ特有の野趣のようなものが私には感じられました。

反面、終楽章などは比較的粘りはなくあっさりとして、デフォルメされていない自然な音楽の流れを感じる演奏です。

チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」より第1楽章
ムラヴィンスキー指揮:レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

カラヤン指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

【収録曲】
チャイコフスキー
交響曲第6番ロ短調作品74《悲愴》
幻想序曲《ロメオとジュリエット》

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1976年、1966年

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カラヤンは生涯に7度もこの「悲愴」を録音していますが、ご紹介するこの1976年の録音は6回目の録音です。

先ほど紹介したレニングラード・フィルの演奏とは対極にあるような演奏で、カラヤン節とも言える滑らかなレガートとベルリン・フィルの豊潤な響きが一体となったドラマティックで幻想的な演奏です。

シーンによっては響きが華美に過ぎるように感じなくもありませんが、第1楽章、第2主題のこの上ない美しさなど、カラヤン&ベルリン・フィルならではの味わいを楽しめます。

第2楽章のワルツはこの上なくエレガントで、終楽章でも弦楽器の豊かな音の波に包まれるような演奏が印象的です。

チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」より第1楽章
カラヤン指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

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おすすめの名盤のコーナーでご紹介した以外では、同じカラヤンで1984年にウィーン・フィルと録音した音源と聞き比べるのも楽しいのではないでしょうか。

こちらはカラヤン7回目の録音で晩年、ベルリン・フィルとの関係が悪化してから度々コンビを組んだウィーン・フィルとの録音です。

ゲルギエフのウィーン・フィルと手兵マリインスキー劇場管の録音を聴き比べるのも楽しいですね。

チェリビダッケ&ミュンヘン・フィルは他のオケが概ね10分前後で演奏する終楽章を13分かけてしっとりと歌い上げています。

バーンスタイン&ニューヨーク・フィルはさらに上を行って、実に17分もの時間をかけて演奏しています。演奏時間がどうのと言う訳ではありませんが、名匠たちの音楽へのこだわりを聴き比べて楽しむのも良いかと思います。

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まとめ

チャイコフスキーが自信を持って世に送り出したこの傑作交響曲は、奇しくもチャイコフスキー最後の作品となりました。

チャイコフスキーの旺盛な創作意欲は、恐らくこの時突如として世を去らなければもっと多くの名曲を後世の私たちに遺したことでしょう。

反面、この作品から感じる溢れ出すかのような感情のほとばしりは、限りある時間を生きる人間ならではの感情の表出のようにも感じます。

それはチャイコフスキーの波乱に満ちた生涯と、いかにも意味ありげなこの作品の副題から後世の私たちが勝手にイメージしているだけなのかも知れません。

しかし、作曲家がイマジネーションを膨らませるように、聴き手の私たちがいろんな妄想の世界に入り込みながら、その音楽の世界に浸るのもクラシック音楽の醍醐味であるような気もします。

最後までお読みいただきありがとうございます。こちらの作品もぜひ聴いてみてください!

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