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カッチーニ「アヴェ・マリア」解説とおすすめの名盤

2023年7月1日

カッチーニ「アヴェ・マリア」解説

今回ご紹介するのは「シューベルトのアヴェ・マリア」「グノーのアヴェ・マリア」と共に三大アヴェ・マリアとも言われる「カッチーニのアヴェ・マリア」です。

ジュリオ・カッチーニ(1545?-1618)はバッハやヘンデル(共に1685生)が活躍するさらに半世紀以上前、イタリア・ルネサンス末期からバロック初期にかけて活躍した作曲家です。

しかし、この「カッチーニのアヴェ・マリア」、作曲の経緯についてはいろいろと曰くがあるようで・・・

こちらは「Renaissance Lute Music」と題された1枚のレコードのジャケットです。

ジャケットに記された演奏者の名前を見ると「ウラディミール・ヴァヴィロフ」、「シャンドル・カロシュ」とあります。

2人とも旧ソ連の作曲家でリュート奏者として演奏活動も行っていました。

このアルバムは旧ソ連の古楽器奏者たちがルネサンス時代の作品や民謡などの伝承曲を演奏した珍しいアルバムで、1970年と1975年に録音されたものが収録されています。

そして、このアルバムの中に「作曲者不詳(16世紀):アヴェ・マリア」として収録されているのが、今回ご紹介する「カッチーニのアヴェ・マリア」として知られる作品です。

作曲者不詳(16世紀):アヴェ・マリア
メゾ・ソプラノ:ナデージダ・ヴァイネル
リュート:ウラディミール・ヴァヴィロフ
オルガン:マルク・シャーヒン

この作品は録音の記録を見る限り、この1970年の録音が最初のようです。

ところがこの作品はその4年後の1974年、ロシアのメゾ・ソプラノ、イレーネ・ボガチョワ(Irene Bogachyova)が録音したアルバムには「ジュリオ・カッチーニ作:アヴェ・マリア」として収録されているのです。

カッチーニ:アヴェ・マリア
メゾ・ソプラノ:イレーネ・ボガチョワ

「作曲者不詳(16世紀)のアヴェ・マリア」とされていた作品は、この後「カッチーニのアヴェ・マリア」として、徐々に世に知られることとなります。

1990年代になるとソプラノのイネッサ・ガランテやカウンターテナーのスラヴァなどの録音が脚光を浴び、さらに知名度を高めていくこととなります。

カッチーニ:アヴェ・マリア
ソプラノ:イネッサ・ガランテ

こうしてこの作品は旧ソ連系のアーティストを中心として世に広まっていくことになりましたが、不思議なことに地元イタリアをはじめとするヨーロッパでは全く知られておらず、楽譜も知られていなかったのです。

今日の研究ではこの作品は先ほどのアルバムを録音したウラディーミル・ヴァヴィロフ(1925-1973)の作品でほぼ間違いないとみなされています。

ヴァヴィロフは他にも自身の作品を古い時代の作曲家の作品として発表していて、この「カッチーニのアヴェ・マリア」もそうした一連の偽名を用いた作品のひとつであると考えられています。

当初「作曲者不詳(16世紀)」とされていたものがどうして「カッチーニ作」となったのかは、本人が1973年に死去しているために不明ですが、歌詞がラテン語の祈祷文を用いず「アヴェ・マリア」をただ繰り返している点、16世紀頃の作曲技法から考えてあまりにも作風の異なる点などから、カッチーニ作ではなくヴァヴィロフ作であるとの説が有力なようです。

ただ一般的には「カッチーニのアヴェ・マリア」としてあまりにも有名なため、今回の記事のタイトルも便宜上「カッチーニのアヴェ・マリア」とさせていただきました。

他人の作品を自作とする偽作については以前の日本でもずいぶんと話題になったところですが、自分の作品を他人の作品として発表するところがユニークと言えばユニークなようにも感じますね。

これは管理人の極めて個人的な憶測ですが、旧ソ連では社会主義リアリズムの名のもとに、音楽だけでなく芸術全般に「形式においては民族的、内容においては社会主義的」なものが求められた時代でした。

表現の自由は実質的に制限され、意に反する作品と作者は容赦ない批判にさらされた厳しい時代でした。

この作品が最初に録音された1970年のソ連と言えば、独裁者であったスターリンが死去して既に20年近くが経ち、ブレジネフ体制の下、芸術表現に対する締め付けや統制も多少は緩くなっていたようですが、まだまだ体制に迎合する作品が望まれるような環境下にあったのではないかと思います。

極めて甘美で西洋的な香りのするこの作品を自身の作として発表することは、自身の批判を免れるためにも避けるべきだと考えたのではないでしょうか?

作曲の経緯はともかくとして、短くもとても美しく甘美な香りのする素晴らしい作品です。今回はたくさんの演奏動画をご紹介していますので、ぜひお楽しみいただきたいと思います。

最後に余談ですが、ヴァイオリンの名手として有名なクライスラーも、自身の作品を他の作曲家の作品と偽って発表しています。

カッチーニ「アヴェ・マリア」YouTube動画

カッチーニ(ウラディミール・ヴァヴィロフ):「アヴェ・マリア」

ソプラノ:スミ・ジョー

スミ・ジョー(チョ・スミ)は1962年生まれ、韓国出身のソプラノ歌手です。カラヤンに認められ、世界の主要な歌劇場で活躍する他、母国、韓国では映画やドラマなどの挿入歌を担当するなど幅広い活躍をしています。

ビロードのように艶やかで滑らか、且つ繊細な歌声に魅了されます。

紹介した動画はご自身の公式チャンネルの動画ですが、同チャンネルにはカラヤンのレッスンを受けている様子もアップされています。興味のある方はリンク先で聴いてみて下さい。

Sumi Jo, Cecilia Bartol and Herbert von Karajan. 1987.

カッチーニ「アヴェ・マリア」おすすめの名盤

管理人piccoloがおすすめする名盤はこちら!

エリーナ・ガランチャ:「メディテーション」

【収録曲】
● グノー:聖ツェツィーリアのための荘厳ミサ~サンクトゥス
● グノー:悔悟
● ユージス・プラウリニュシュ:御招霊
● マスカーニ:カヴァレリア・ルスティカーナ~レジーナ・チェリ(復活祭の合唱)とアヴェ・マリア
● ウィリアム・ゴメス:アヴェ・マリア
● モーツァルト:証聖者の荘厳晩課 K.339~ラウダーテ
● ビゼー:アニュス・デイ
● プッチーニ:サルヴェ・レジーナ
● アダン:オー・ホーリー・ナイト(さやかに星はきらめき)
● ヴァスクス:静寂の歌~Dusi dusi, Paldies tev vela saule
● アレグリ:ミゼレーレ
● カッチーニ:アヴェ・マリア

エリーナ・ガランチャ(メゾ・ソプラノ)
ラトヴィア放送合唱団
シグヴァルズ・クラーヴァ(合唱指揮)
ザールブリュッケン・ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団
カレル・マルク・チチョン(指揮)

録音:2013年10月

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エリーナ・ガランチャは1976年、旧ソ連、ラトヴィア出身のメゾソプラノ歌手、このアルバムで指揮をしているカレル・マルク・チチョンは彼女の夫です。

このアルバムには「マスカーニのアヴェ・マリア」「ウィリアム・ゴメスのアヴェ・マリア」なども収録されていて、1枚のアルバムでいろいろな作曲家のアヴェ・マリアを聴き比べて楽しむことが出来ます。

エリーナ・ガランチャの歌う「カッチーニのアヴェ・マリア」はメゾ・ソプラノ特有のしっとりとして落ち着いた表現が魅力的で、心が癒されます。

少しゆっくりとしたテンポ設定で、弱音部の消え入るような静かな歌唱も印象的です。

人気オペラ歌手として活躍するエリーナ・ガランチャがクリスマス向けの美しい作品などをチョイスした、クラシック初心者でも気軽に楽しめるおすすめのアルバムです。

カッチーニ:アヴェ・マリア
メゾ・ソプラノ:エリーナ・ガランチャ

ジャッキー・エヴァンコ:「アウェイクニング~めざめ」

収録曲
01. シンク・オブ・ミー (『オペラ座の怪人』)
02. ユア・ラヴ
03. ジュ・テーム
04. テイク・ミー・ゼア
05. オープン・フィールズ・オブ・グレイス
06. アヴェ・マリア
07. メモリーズ
08. キャスタミアの雨 (『ゲーム・オブ・スローンズ』)
09. 眠れイエスよ
10. ヴォカリーズ
11. ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー
12. メイド・トゥ・ドリーム
13. わたしの永遠 (日本盤ボーナス・トラック)

歌唱:ジャッキー・エヴァンコ

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ジャッキー・エヴァンコは2000年生まれ、アメリカ出身の歌手です。

透き通るような彼女の美しい声はこの作品と絶妙にマッチしていて、心が洗われるような美しさを感じずにはいられません。

幼い頃から歌に親しんだジャッキー・エヴァンコは10歳の時に出演したNBCのバラエティー・ショー「アメリカズ・ゴット・タレント」での歌唱が圧倒的な視聴者の支持を得て、その後、メジャーデビューを果たすことになります。

その時の映像は「グノーのアヴェ・マリア」の記事でご紹介していますので、あわせてご覧いただければと思います。

おすすめするこちらのアルバムは彼女が14歳の時の録音で、クラシックだけでなくトラディショナル、ミュージカルからロック・カヴァーまでバラエティに富んだ楽曲をジャッキー・エヴァンコならではの透き通った声で歌い上げたおすすめのアルバムです。

カッチーニアヴェ・マリア
歌唱:ジャッキー・エヴァンコ
アウェイクニング~ロングウッド・ガーデン・ライヴより

Dimaio(ディマイオ):「Debut」

【収録曲】
1.ヘンデル:私を泣かせてください(歌劇「リナルド」)
2.カッチーニ:アヴェ・マリア
3.ヘンデル:オン・ブラ・マイ・フ(歌劇「セルセ」)
4.ジャコメッリ:妻よ、私が分からぬか(歌劇「メローペ」)
5.ジョルダーニ:カーロ・ミオ・ベン
6.ヴィヴァルディ:喜びと共に合わん(歌劇「ジュスティーノ」)
7.カッチーニ:アヴェ・マリア
8.ヘンデル:オン・ブラ・マイ・フ(歌劇「セルセ」)

カウンターテナー:Dimaio(ディマイオ)

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こちらはイタリアのカウンターテナーDimaio(ディマイオ)のアルバム『Debut』に収録されたものですが、エレクトロサウンドと共にモダンにアレンジされていて、ちょっとおしゃれで違う味わいのアヴェ・マリアが楽しめます。

現在CDは入手困難なようですが、ダウンロード購入は可能なようです。

Dimaioの声は絹糸のように美しく繊細で、クラシックとポップスを融合させたクロスオーヴァー作品ですが、メロディラインはシンプルな歌唱でリズムフェイクもなく、バックのモダンなサウンドやリズムと見事に調和しています。

「アヴェ・マリア」「オン・ブラ・マイ・フ」は7.8曲目にも再度ありますが、こちらはストリングスをベースにした、よりシンプルなアレンジでの歌唱も楽しめるようになっています。

カッチーニ:アヴェ・マリア
カウンターテナー:Dimaio(ディマイオ)

「Amazon Music Unlimited」で「カッチーニのアヴェ・マリア」を聴き比べ!

★「Amazon Music Unlimited」では次のようなアーティストの「カッチーニのアヴェ・マリア」を聴き放題で楽しむことが出来ます。

※下記の検索結果は本記事の投稿日現在、「Amazon Music Unlimited」で「カッチーニ」「Caccini Ave Maria」などのキーワードで検索した例です。すべての録音を表示しているわけではありませんのでご了承ください。

カッチーニ「アヴェ・マリア」

女声:「中丸三千繪(ソプラノ)」「森麻季(ソプラノ)」「幸田浩子(ソプラノ)」「小林沙羅(ソプラノ)」「辰巳真理恵(ソプラノ)」「鈴木慶江(ソプラノ)」「田村麻子(ソプラノ)」「小松原利枝(ソプラノ)」「Maria Bieșu(ソプラノ)」「エリーナ・ガランチャ(メゾ・ソプラノ)」「キャサリン・ジェンキンス(メゾ・ソプラノ)」「Irene Bogachyova(メゾ・ソプラノ)」「ジャッキー・エヴァンコ」「ヘイリー・ウェステンラ」「安田祥子」「アンサンブル・プラネタ(ア・カペラ・コーラス)」

男声「アンドレア・ボチェッリ(テノール)」「ヴィットリオ・グリゴーロ(テノール)」「ジョン・健・ヌッツォ(テノール)」「今井俊輔(バリトン)」「キュウ・ウォン・ハン(バリトン)」「岡元敦司(バリトン)」「Dimaio(カウンターテナー)」「SLAVA(カウンターテナー)」「岡本知高(ソプラニスタ)」「イム・ヒョンジュ」「フォルテ・ディ・クアトロ」「ハンガリー放送合唱団」

その他:「リチャード・クレイダーマン(ピアノ)」「福島道子(ピアノ)」「蔵島由貴(ピアノ)」「石丸由佳(オルガン)」「千住真理子(ヴァイオリン)」「寺井尚子(ヴァイオリン)」「川畠成道(ヴァイオリン)」「松井利世子(ヴァイオリン)」「奥村愛(ヴァイオリン)」「岡田鉄平(ヴァイオリン)」「千葉純子(ヴァイオリン)」「淑野裕香子(ヴァイオリン)」「寺下真理子(ヴァイオリン)」「長谷川陽子(チェロ)」「水野由紀(チェロ)」「舟木真菜(チェロ)」「Iolanda Zignani(フルート)」「池田昭子(オーボエ)」「田端直美(サックス)」「東儀秀樹(篳篥)」「横田明紀男(ジャズギター)」

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「Amazon Music Unlimited」ではいろんな声域の歌唱や、様々な楽器にアレンジされた「カッチーニのアヴェ・マリア」を聴き比べて楽しむことが出来ます。

個人的にはやはりオーソドックスな女声での歌唱がおすすめです。特におすすめの名盤のコーナーでご紹介した「エリーナ・ガランチャ」「ジャッキー・エヴァンコ」はぜひ聴いていただきたいと思います。

日本のソプラノ歌手の歌唱もいろいろと聴けるので楽しいですよ。

男声では有名な「アンドレア・ボチェッリ」の歌唱も楽しめます。おすすめの「Dimaio」を聴いたら、ぜひ日本のソプラニスタ「岡本知高」さんや同じカウンターテナーの「SLAVA」の録音と聴き比べてみて下さい。

「アンサンブル・プラネタ」は日本の女声ア・カペラ・コーラスですが、とても素敵なアレンジで幻想的な歌唱を聴くことができます。

カッチーニ:アヴェ・マリア
アンサンブル・プラネタ

「フォルテ・ディ・クアトロ」は韓国のオーディション番組から生まれた男声実力派4人組ヴォーカル・ユニットですが、とても柔らかい導入に続き力強くドラマティックなアレンジが印象的です。

カッチーニ:アヴェ・マリア
フォルテ・ディ・クアトロ

楽器による演奏ではヴァイオリンでの演奏が多いですが、日本を代表する雅楽師「東儀秀樹」さんの篳篥(ひちりき)による演奏なども独特の世界観を楽しめるのでぜひ聴いてみて下さい。

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まとめ

今回は「カッチーニのアヴェ・マリア」をご紹介させていただきました。いかがでしたでしょうか?

おそらくは旧ソ連の作曲家、ウラディーミル・ヴァヴィロフの作であろうこの作品は、奇しくもシューベルト、グノー(バッハ)と言う著名な作曲家の作品と並んで「三大アヴェ・マリア」として広く親しまれ愛されるようになりました。

ヴァヴィロフがこれを知ったら、さぞ驚いたことでしょうね?

でも「誰の作品か?」などというはさておき、一度聴いただけでも心に残る素晴らしい作品であることには間違いないと思います。

音楽に限らず「どんな作品か?」ということよりも「誰の作品か?」ということが重要視されがちな社会にあって、著名な作曲家の作品であっても、無名の音楽家の作品であっても、その音楽の美しさや感動に違いはないのだと改めて痛感させられる素晴らしい作品です。

ぜひ他の作曲家の「アヴェ・マリア」とも聴き比べてお楽しみいただければと思います。

最後までお読みいただきありがとうございます。こちらの作品もぜひ聴いてみてください!

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