カッチーニ「アヴェ・マリア」【解説と名盤、youtube動画】

2020年11月3日

カッチーニ「アヴェ・マリア」解説

今回ご紹介するのは「シューベルトのアヴェ・マリア」、「グノーのアヴェ・マリア」と共に三大アヴェ・マリアとも言われる「カッチーニのアヴェ・マリア」です。

ジュリオ・カッチーニ(1545?-1618)はバッハやヘンデル(共に1685生)が活躍するさらに半世紀以上前、イタリア・ルネサンス末期からバロック初期にかけて活躍した作曲家です。

しかし、この「カッチーニのアヴェ・マリア」、作曲の経緯についてはいろいろと曰くがあるようで・・・

こちらは「Renaissance Lute Music」と題された1枚のレコードのジャケットです。

ジャケットに表記された演奏者の名前を見ると「ウラディミール・ヴァヴィロフ」、「シャンドル・カロシュ」とあります。

2人とも旧ソ連の作曲家でリュート奏者として演奏活動も行っていました。

そして、このアルバムの中に「作曲者不詳(16世紀):アヴェ・マリア」として1970年に収録されているのが、今回ご紹介する「カッチーニのアヴェ・マリア」として知られる作品です。

この作品は録音の記録を見る限り、この1970年の録音が最初のようです。

ところがこの作品はその4年後の1974年、ロシアのメゾ・ソプラノ、Irene Bogachyovaが録音したアルバムでは「ジュリオ・カッチーニ作:アヴェ・マリア」として収録されているのです。

当初は「作曲者不詳(16世紀)のアヴェ・マリア」とされていた作品は、この後「カッチーニのアヴェ・マリア」として、徐々に世に知られることとなります。

1990年代になるとソプラノのイネッサ・ガランテやカウンターテナーのスラヴァなどの録音が脚光を浴び、さらに知名度を高めていくこととなります。

イネッサ・ガランテ「カッチーニのアヴェ・マリア」

こうしてこの作品は旧ソ連系のアーティストを中心として世に広まっていくことになりましたが、不思議なことに地元イタリアをはじめとするヨーロッパでは全く知られておらず、楽譜も知られていなかったのです。

今日の研究ではこの作品はほぼウラディーミル・ヴァヴィロフ(1925-1973)の作品であるとみなされています。

ヴァヴィロフは他にも自身の作品を古い時代の作曲家の作品として発表していて、この「カッチーニのアヴェ・マリア」もそうした一連の偽名を用いた作品のひとつであると考えられています。

当初「作曲者不詳(16世紀)」とされていたものがどうして「カッチーニ作」となったのかは、本人が1973年に死去しているために不明ですが、歌詞がラテン語の祈祷文を用いず「アヴェ・マリア」をただ繰り返している点、16世紀頃の作曲技法から考えてあまりにも作風の異なる点などから、ヴァヴィロフ作であるとの説が有力なようです。

ただ一般的には「カッチーニのアヴェ・マリア」としてあまりにも有名なため、今回の記事のタイトルも便宜上「カッチーニのアヴェ・マリア」とさせていただきました。

他人の作品を自作とする偽作については少し前の日本でもずいぶんと話題になったところですが、自分の作品を他人の作品として発表するところがユニークと言えばユニークなようにも感じますね。

これは管理人の極めて個人的な憶測ですが、旧ソ連では社会主義リアリズムの名のもとに、音楽だけでなく芸術全般に「形式においては民族的、内容においては社会主義的」なものが求められた時代でした。

表現の自由は実質的に制限され、意に反する作品と作者は容赦ない批判にさらされた厳しい時代でした。

この作品が最初に録音された1970年のソ連と言えば、独裁者であったスターリンが死去して既に20年近くが経ち、ブレジネフ体制の下、芸術表現に対する締め付けや統制も多少は緩くなっていたようですが、まだまだ体制に迎合する作品が望まれるような環境下にあったのではないかと思います。

極めて甘美で西洋的な香りのするこの作品を自身の作として発表することは、自身の批判を免れるためにも避けるべきだと考えたのではないでしょうか?

作曲の経緯はともかくとして、短くもとても美しく甘美な香りのする素晴らしい作品です。次の項ではyoutube動画の中から特に感銘を受けた演奏動画をいくつかご紹介していますので、ぜひお楽しみいただきたいと思います。

余談ですが、ヴァイオリンの名手として有名なクライスラーも自身の作品を他の作曲家の作品と偽って発表しています。

カッチーニ「アヴェ・マリア」youtube動画

スミ・ジョー(ソプラノ)

カッチーニ(ウラディミール・ヴァヴィロフ):「アヴェ・マリア」

ソプラノ:スミ・ジョー

スミ・ジョー(チョ・スミ)は1962年生まれ、韓国出身のソプラノ歌手です。カラヤンに認められ、世界の主要な歌劇場で活躍する他、母国、韓国では映画やドラマなどの挿入歌を担当するなど幅広い活躍をしています。

ビロードのように艶やかで滑らか、且つ繊細な歌声に魅了されます。

ご紹介した動画はご自身の公式チャンネルの動画ですが、同チャンネルにはカラヤンのレッスンを受けている様子もアップされています。興味のある方はリンク先で聴いてみて下さい。

Sumi Jo, Cecilia Bartol and Herbert von Karajan. 1987.

ジャッキー・エヴァンコ

歌唱:ジャッキー・エヴァンコ
アウェイクニング~ロングウッド・ガーデン・ライヴより

ジャッキー・エヴァンコは2000年生まれ、アメリカの歌手です。前回の記事で詳しいプロフィールと共に歌唱動画をご紹介していますので、こちらもぜひ聴いてみて下さい。

「アウェイクニング~めざめ」:ジャッキー・エヴァンコ
収録曲
シンク・オブ・ミー(オペラ座の怪人)
カッチーニのアヴェ・マリア

Dimaio(カウンターテナー)

カウンターテナー:Dimaio(ディマイオ)

こちらの動画はイタリアのカウンターテナー、Dimaio(ディマイオ)のアルバム『Debut』に収録された曲ですが、エレクトロサウンドと共にモダンにアレンジされていて、また違う味わいが楽しめます。

現在CDは入手困難なようですが、ダウンロードは可能なようです。

Dimaio『Debut』

※こちらのアルバムは「Amazon Music Unlimited」でもお楽しみいただけます!

カッチーニ「アヴェ・マリア」名盤

管理人おすすめの名盤はこちら!

エリーナ・ガランチャ「メディテーション」

【収録曲】
カッチーニ:アヴェ・マリア

ウィリアム・ゴメス:アヴェ・マリア
マスカーニ:アヴェ・マリア
ビゼー:アニュス・デイ
他、全14曲

エリーナ・ガランチャ(メゾ・ソプラノ)
ラトヴィア放送合唱団
シグヴァルズ・クラーヴァ(合唱指揮)
ザールブリュッケン・ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団
カレル・マーク・チチョン(指揮)

録音:2013年10月

※こちらのアルバムは「Amazon Music Unlimited」でもお楽しみいただけます!

アルバム「メディテーション」より

エリーナ・ガランチャは1976年、旧ソ連、ラトヴィア出身のメゾソプラノ歌手です。このアルバムで指揮をしているカレル・マーク・チチョンは彼女の夫です。

このアルバムには「マスカーニのアヴェ・マリア」「ウィリアム・ゴメスのアヴェ・マリア」なども収録されていて、1枚のアルバムでいろいろな作曲家のアヴェ・マリアを聴き比べて楽しむことが出来ます。

エリーナ・ガランチャの豊かで美しい歌声が存分に楽しめるおすすめの1枚です。

まとめ

「カッチーニのアヴェ・マリア」いかがでしたでしょうか?

おそらくは旧ソ連の作曲家、ウラディーミル・ヴァヴィロフの作であろうこの作品は、奇しくもシューベルト、グノー(バッハ)と言う著名な作曲家の作品と並んで「三大アヴェ・マリア」として広く親しまれ愛されるようになりました。

ヴァヴィロフがこれを知ったら、さぞ驚いたことでしょうね?

他の作曲家の「アヴェ・マリア」と聴き比べるのも楽しいと思いますよ!

最後までお読みいただきありがとうございます。こちらの作品もぜひ聴いてみてください!

「シューベルトのアヴェ・マリア」は替え歌だった?

「ヘンデルのラルゴ」としても有名な癒しのアリア!

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