ウェーバー「魔弾の射手」【あらすじと解説】
目次
まずはダイジェストで聴いてみよう!
クラリネットで始まる緊張感のある旋律は暗い力に絡めとられる主人公の心情を暗示しています。その旋律がクライマックスを迎えるとクラリネットのソロをブリッジとして爽やかな美しい旋律が奏でられます。物語のヒロインの愛情を描いた旋律です。
まずはこの部分をダイジェストで聴いてみましょう。
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
作曲の背景
「魔弾の射手」作品77はドイツの作曲家、カール・マリア・フォン・ウェーバー(1786-1826)が1821年に発表したオペラです。
1817年、31歳のウェーバーはドレスデンを首都とするザクセン王国の宮廷楽長に就任します。
モーツァルトは当時主流であったイタリア語のオペラと共に「魔笛」「後宮からの逃走」などのドイツ語のオペラも作曲しましたし、ベートーヴェンも度重なる改訂の末に唯一のオペラ作品となる「フィデリオ」の最終稿を1814年に完成させています。
しかし、それらのドイツ語のオペラ作品は舞台も題材もドイツ以外の国のもので、依然として劇場のプログラムの中心を成すのはイタリアもののオペラ作品でした。
そんな中にあってドイツを舞台にし、ドイツの民話を題材にした、ドイツ語のオペラ「魔弾の射手」は大きな成功を収め、ドイツオペラの代表作となりました。
初演はウェーバー自身の指揮によって行われました。
台本はドイツの作家、ヨハン・アウグスト・アーペル、フリードリヒ・ラウンの共著「怪談集」を原作に、ヨハン・フリードリヒ・キーントが執筆しています。
ドイツの人たちにとって深い森は心の故郷ともいえる大変身近なもので、それにまつわる民話や伝説の類も多数存在します。そして、そこは神や悪魔、精霊たちが集う神秘的な場所なのです。
この作品の中で、森の悪魔に魂を売って得られる「魔弾」は7発中6発は射手の望むところに必ず命中するが、残りの1発は悪魔の望む箇所へ命中するとされ、原題の「Der Freischütz」を「魔弾の射手」と邦訳したのは名訳と言わざるを得ないでしょう。
「魔弾の射手」あらすじ
第1幕
舞台はボヘミアの森に近い酒場の前。
狩人のマックスは翌日の射撃大会に備えて練習をしていますが、どうも調子がよくありません。
明日の射撃大会で勝ち、恋人のアガーテとの結婚をアガーテの父・クーノーに認めてもらうつもりのマックスは絶望と不安に駆られます。
そこへ狩人仲間のカスパールが現れ、撃てば必ず命中する魔弾の1発をマックスに撃たせます。
それが最後の1発だったと告げるカスパールでしたが、今夜12時に深い森の奥にある狼谷に来たら、新しい魔弾を得ることが出来るとマックスを誘い出します。
マックスは一度は拒みますが、カスパールの口車に載せられ、ついには狼谷へ行くことを決めます。
既に悪魔に魂を売り渡し、マックスを恨んでいるカスパールは「勝利だ!復讐を果たせるぞ!」と歌い第1幕は幕を閉じます。
第2幕
舞台はクーノーの館
アガーテはいとこのエンヒェンと一緒にマックスを待ち焦がれますが、壁にかかった先祖の肖像画が落ちたことに不吉な予感を感じます。
そこへ待ち焦がれたマックスが帰ってきますが、マックスは仕留めた鹿を獲りに狼谷へ行かなければならないと告げます。
不安に駆られ引き留めるアガーテでしたが、マックスはアガーテが止めるのも聞かず、狼谷へと向かいます。
舞台は森の奥深い狼谷、夜の12時
カスパールは悪魔ザミエルを呼び出し、新しい生贄を捧げるので明日に迫った自分の命の期限を3年の間、引き延ばしてほしいと持ち掛けます。
カスパールは悪魔ザミエルに、6発目までは命中し7発目は悪魔ザミエルの意のままになる魔弾を造り、それを花嫁(アガーテ)に向けるようにそそのかします。
そうすれば花嫁だけでなく、マックスも花嫁の父も絶望の淵に落とし入れることが出来ると言います。
これに対し悪魔ザミエルは「そいつかお前のどっちかだ!」と言い放ち姿を消します。
そこへようやくマックスが姿を現すと、カスパールは不思議な呪文を唱えながら魔弾の鋳造を始め、再び悪魔ザミエルを召喚し、ついに7発の魔弾を造り上げます。
第3幕
舞台は射撃大会。
マックスは魔弾をカスパールと分け合い、3発全てを命中させます。
残す1発は悪魔の意のままになる魔弾のみですが、マックスは知る由もありません。
一方、花嫁衣裳を身にまといマックスの勝利を待つアガーテですが、「私は白い鳩に変身し、マックスがそれに狙いをつけて撃ち落とした。」と言う不吉な夢を見たと言います。
アガーテは花嫁用に編まれた花冠を付けようとしますが、エンヒェンが運んで来た箱を開けるとそこに入っていたのは、なんと死者のための冠でした。
アガーテはこれは天の導きかも知れないと、森の隠者からもらった白いバラで花冠を編んでもらい、それを被ることにします。
射撃大会の優秀な成績に満足した領主とアガーテの父、クーノーですが、最後にもう1発その腕を試したいと木の枝にとまる白い鳩を撃つように命じます。
狙いを定め最後の1発を放ったマックスでしたが、それは白い鳩ではなく白いバラの花冠を付けたアガーテでした。
「花嫁を撃ち殺した!」誰もがそう思った次の瞬間、倒れ込んでいたアガーテは目を覚ましました。
魔弾は間一髪アガーテをそれ、全てを企んだカスパールに命中します。カスパールは天を呪いながらついに息絶えてしまいます。
魔弾を造り射撃大会に臨んだことを正直に話したマックスに、激怒した領主は追放を命じます。
そこへ森の隠者が現れ、「一度の過ちにそれほどの贖罪がふさわしいだろうか?」と1年間の猶予を与えてはどうかと領主を諭します。
隠者の言葉に応じ、1年間の猶予の後に二人の結婚を許すことにした領主に、二人の感謝と一同の歓喜の歌声の中、舞台は幕を下ろします。
「魔弾の射手」序曲の解説
「魔弾の射手」序曲にはオペラ本編の主なエッセンスが凝縮されていて、さしずめ映画の予告編のようなダイジェスト的な要素を含んでいます。
冒頭、霧に包まれたような鬱蒼とした弦楽器の響きが晴れると、4本のホルンがゆったりとボヘミアの幻想的な森の情景を描写します。
ホルンは狩りに使われる角笛の象徴であり、これから舞台となる深い森の中へ聴衆を誘います。
ウェーバーが活躍した当時のホルンは、現在の様にバルブシステムと呼ばれる指によって音を変えるための装置が付いていないナチュラルホルンで、限られた音しか出すことが出来ませんでした。
そこでウェーバーはヘ長調(F)とハ長調(C)の2種類のホルンを2本ずつ使うことによって、音の組み合わせを増やし、より豊かな響きを作り出しています。(譜例①)
ホルンのソリが終わるとチェロ(赤囲)が不安に満ちた旋律を奏で、心の焦燥を表すかのように他の弦楽器はトレモロ(青線)を刻みます。(譜例②)
このモチーフはオペラ本編では射撃大会を前に不調のマックスが「天は私を見捨ててしまったのか?」と思い悩む場面で使われています。
この旋律が消え入るように終わると急にテンポが上がり、クラリネットから始まるドラマティックな旋律を奏でます。この旋律は暗い力に絡めとられ、絶望がマックスを襲う場面で使われています。(譜例③)
この旋律がクライマックスを作る場面は第2幕で7発の魔弾がまさに完成しようと言う場面で使われています。(譜例④)
楽曲はドラマティックな音楽がしばらく展開されますが、やがてクラリネットのソロを挿み、美しく爽やかな旋律が姿を現します。
これはマックスを恋焦がれるアガーテの心情を歌った場面で使われるモチーフです。(譜例⑥)
これらのオペラ本編で使われる様々なモチーフが絡み合いながら序曲は展開され、最後は愛の力が暗い力を払しょくするように、華やかな旋律に包まれ終曲します。
「魔弾の射手」序曲のyoutube動画
ウェーバー「魔弾の射手」序曲
クリストフ・エッシェンバッハ指揮:南西ドイツ放送交響楽団(SWR Symphonieorchester)
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