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バッハ「ゴルトベルク変奏曲」【解説と名盤】

2020年9月14日

まずはダイジェストで聴いてみよう!

静謐で厳かな雰囲気を湛えたピアノの調べが繊細な装飾をまといながら美しく響きます。

まずはこの長大な作品の冒頭に配されたアリアをダイジェストで聴いてみましょう。

ピアノ:ベアトリーチェ・ラナ

ベアトリーチェ・ラナは1993年、イタリアの音楽一家に生まれ、4歳から音楽の勉強を始めます。
9歳の時にバッハのヘ短調協奏曲のソリストとしてオーケストラと共演しデビュー。
2011年のモントリオール国際コンクールに入賞、他にも多くのコンクールで受賞し、2013年にはヴァン・クライバーン国際コンクールで2位と聴衆賞を獲得。
世界中のオーケストラと共演し、数多くのリサイタルを行っています。

バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV 988
ピアノ:ベアトリーチェ・ラナ

録音時期:2016年11月
録音場所:ベルリン、テルデックス・スタジオ

作曲の背景

ゴルトベルク変奏曲 BWV 988はドイツの作曲家、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685-1750)が作曲したチェンバロのための変奏曲です。

ゴルトベルク変奏曲の表題で一般的には知られていますが、1741年の出版に際してバッハ自身が付けた表題は「段鍵盤付きクラヴィチェンバロのためのアリアと種々の変奏」(独:lavier Ubung bestehend in einer ARIA mit verschiedenen Veraenderungen vors Clavicimbal mit 2 Manualen)です。

初版表紙(1741年)

冒頭のダイジェストでご紹介したように、今日ではピアノで演奏されることもありますが、本来は2段鍵盤のチェンバロのために書かれた作品です。

チェンバロはピアノが登場し、18世紀の後半から19世紀にかけて広く普及するまでは代表的な鍵盤楽器としてバッハの活躍したバロック期に興隆した楽器です。

国や時代により微妙に形状や呼称の異なる楽器が複数存在していますが、ピンと張った弦をハンマーで叩いて音を出すピアノとは異なり、爪のようなもので弦をはじいて音を出す撥弦楽器と呼ばれる発音構造において共通しています。

現在広く親しまれているゴルトベルク変奏曲の名称は、ドイツの音楽学者ヨハン・ニコラウス・フォルケル(1749-1818)が1802年に著したバッハの伝記の中に記されたこの作品に関するエピソードに由来しています。そのエピソードとは次のようなものです。

不眠症に悩まされていたカイザーリンク伯爵は、当時伯爵の家に住みバッハに音楽を師事していたお抱えのチェンバロ奏者、ヨハン・ゴットリープ・ゴルトベルク(1727-1756)を控えの間に呼び、チェンバロを演奏させて眠れない夜を過ごすのが常でした。

ある時カイザーリンク伯爵は眠れない夜に気分が晴れるように、穏やかでいくらか快活な曲を、ゴルトベルクのために書いて欲しいとバッハに依頼したそうです。

こうして生まれたのがゴルトベルク変奏曲で、この作品を気に入ったカイザーリンク伯爵はこの曲を「私の変奏曲」と呼ぶようになり、その後長きにわたって「ゴルトベルクよ、私の変奏曲からどれか弾いておくれ。」と言いつけたそうです。

このエピソードがゴルトベルク変奏曲と呼ばれるようになった由来ですが、この作品が出版された1741年にゴルトベルクは14歳の少年であり、この高度な演奏技術を要する作品を弾きこなすほどの技術を持っていたのか疑念が生じる点、出版された楽譜にカイザーリンク伯爵に対する献辞がない点などから真偽については懐疑的とされています。

ただこの伝記を書いたフォルケルがバッハの息子たちと書簡を交わせるような間柄であったこと、作品が出版された1741年当時、ゴルトベルクは実際にカイザーリンク伯爵のもとにあってバッハとも関係性が見いだせること、バッハが「ポーランド国王兼ザクセン選帝侯宮廷作曲家」の称号を得たときにカイザーリンク伯爵の力添えがあったことなどから、まったくのフィクションであるとも言えない節があるようです。

バッハは生涯に幅広いジャンルに渡っておびただしい数の作品を遺していますが、生前に出版された作品は限られています。

この作品はそれまでに3巻を出版していたクラヴィーア練習曲集の第4巻にあたります。

作品はバッハの死後、チェンバロに代わりピアノが台頭していくのと共に徐々に演奏される機会を失っていきますが、20世紀に入り再び脚光を浴びることになります。

それには20世紀後半に起こったバロック音楽を含む古楽の一大ムーヴメントやグレン・グールドの録音も大きく影響しています。

グレン・グールドの「ゴルトベルク変奏曲」 

1956年、カナダのピアニスト、グレン・グールド(1932-1982)はデビュー盤としてプロデューサーなどの反対を押し切り、この「ゴルトベルク変奏曲」を録音し発表します。

このアルバムは大きな反響を呼び、当時のチャートを席巻しました。

異様に低い椅子座り、極端に猫背で前のめりでピアノに向かうその姿と時に大きな手振りでリズムを取り、メロディーの一部を歌いながら演奏するといった特異な奏法と独自の斬新で大胆な解釈の演奏は大いに世間の注目を集ました。

生涯をかけてバッハの作品に傾倒したグールドの録音は1977年、未知の地球外知的生命体への、人類の文化的傑作として宇宙船ボイジャーに搭載されたゴールデン・レコードに収録されたことでも有名です。(※このレコードに収録された曲はゴルトベルク変奏曲ではありません)

当時のグールドの貴重な演奏が遺されていますので、少し聴いてみたいと思います。

バッハ「ゴルトベルク変奏曲」より(1964)

ピアノ:グレン・グールド

J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV988
ピアノ:グレン・グールド

録音:1955年6月 ニューヨーク(モノラル録音)

グールドはこの作品を1981年にも再録音しています。

その翌1982年、脳卒中により50歳で急逝したグールドの墓石にはゴルトベルク変奏曲の楽譜の一節が刻まれているそうです。

バッハ「ゴルトベルク変奏曲」の解説

作品は32小節から成るアリアを最初と最後に配置し、その間にアリアの32音の低音主題に基づく30の変奏が展開され、全部でアリアの小節数と同じ32曲となっています。

3の倍数の変奏はカノンで、第3変奏の同度のカノンから第27変奏の9度のカノンまで順次音程が広がっていきますが、第30変奏は10度のカノンではなく、当時よく知られた2つの旋律を組み合わせて作った「クオドリベット」という曲が置かれています。

調性は第15、21、25変奏のみがト短調で他は主題と同じくト長調、第16変奏は「序曲」と題され、後半の始まりを告げています。

アリア 3/4拍子(0:07) 、変奏曲の32音の低音主題を持つ32小節のアリア
第1変奏 3/4拍子(4:39)
第2変奏 2/4拍子(6:56)
第3変奏 12/8拍子(8:29)、同度のカノン
第4変奏 3/8拍子(10:33)
第5変奏 3/4拍子(11:59)
第6変奏 3/8拍子(13:59)、2度のカノン
第7変奏 6/8拍子(15:34)
第8変奏 3/4拍子(17:28)
第9変奏 4/4拍子(20:48)、3度のカノン
第10変奏 2/2拍子(23:02)
第11変奏 12/16拍子(25:13)
第12変奏 3/4拍子(27:52)、4度の反行カノン
第13変奏 3/4拍子(31:39)
第14変奏 3/4拍子(37:54)
第15変奏 2/4拍子(40:21)、ト短調、5度の反行カノン
第16変奏 2/2拍子 – 3/8拍子(45:49)、序曲 前半部が荘重な付点リズムで、後半部でテンポを上げるフランス風序曲
第17変奏 3/4拍子(49:06)
第18変奏 2/2拍子(52:21)、6度のカノン
第19変奏 3/8拍子(53:41)
第20変奏 3/4拍子(54:53)
第21変奏 4/4拍子(57:35)、ト短調、7度のカノン
第22変奏 Alla Breve(2/2拍子)(1:00:13)
第23変奏 3/4拍子(1:02:00)
第24変奏 9/8拍子(1:05:06)、8度のカノン
第25変奏 3/4拍子(1:08:17)、ト短調
第26変奏 3/4(18/16)拍子(1:16:28)
第27変奏 6/8拍子(1:19:01)、9度のカノン
第28変奏 3/4拍子(1:22:04)
第29変奏 3/4拍子(1:24:08)
第30変奏 4/4拍子(1:26:29) クオドリベット
アリア 3/4拍子(1:29:27)

バッハ「ゴルトベルク変奏曲」のyoutube動画

バッハ ゴルトベルク変奏曲 BWV988

チェンバロ:ジャン・ロンドー

ジャン・ロンドーは1991年、フランスはパリ生まれのチェンバロ奏者です。

2012年、21歳の若さでブルージュ国際古楽コンクール、チェンバロ部門で1位を獲得、同年プラハの春国際音楽コンクールのチェンバロ部門でも2位に入賞するなどの経歴を持つチェンバロ奏者です。

バッハ「ゴルトベルク変奏曲」の名盤

管理人おすすめの名盤はこちら!

バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV988
チェンバロ:アンドレアス・シュタイアー

録音時期:2009年7月

アンドレアス・シュタイアーは1955年、ドイツのゲッティンゲン生まれのチェンバロ奏者です。

ハノーファー音楽大学でピアノとチェンバロを学び、卒業後アムステルダムでトン・コープマンに師事しています。

その後、ムジカ・アンティクヮ・ケルンのチェンバロ奏者に加入、1986年に脱退した後はソリストとしても活躍しています。

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いかがでしたか?こちらの作品もぜひ聴いてみてください!

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参考資料:「ゴルトベルク変奏曲」『フリー百科事典 ウィキペディア(Wikipedia)』2019年12月11日 (水) 19:58 URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/ゴルトベルク変奏曲
「ヨハン・ゴットリープ・ゴルトベルク」『フリー百科事典 ウィキペディア(Wikipedia)』2016年7月10日 (日) 01:13 URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/ヨハン・ゴットリープ・ゴルトベルク
「J.S.バッハ ゴルトベルク変奏曲」『鈴木雅明氏のCD(KICC-204/5)のライナー・ノート』
富田庸著「《ゴルトベルク変奏曲》の成立をめぐって 現代におけるピアニストへの一提言」『国立音楽大学音楽研究所年報 第23集 (2011年3月) 第91-115頁』