ストラヴィンスキー「火の鳥」あらすじと解説、おすすめの名盤
目次
まずはダイジェストで聴いてみよう!
弦楽器が紡ぐ美しい調べが徐々に高揚すると、やがて金管楽器がドラマティックにクライマックスへと導いていきます。
まずは終曲をダイジェストで聴いてみましょう。
グスターボ・ドゥダメル指揮 ロサンゼルス・フィルハーモニック
作曲の背景
バレエ音楽「火の鳥」はロシアの作曲家、イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882-1971)が1910年に書き上げたバレエのための音楽です。
作品はロシアの芸術プロデューサーでこの翌年に高名なバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)を創設するセルゲイ・ディアギレフ(1872-1929)の依頼によるものです。
物語の台本はロシアの民話を組み合わせたもので、振付師のミハイル・フォーキン(1880-1942)が担当しています。
この年28歳になるストラヴィンスキーはまだまだ駆け出しの作曲家で、この作品も幾人かの作曲家への作曲依頼がうまくいかず、最終的に新進のストラヴィンスキーに白羽の矢が立ったという経緯があります。
当時のストラヴィンスキーとしてはかなりの大役と言わざるを得ませんが、結局この作品を大成功に導いたストラヴィンスキーはこれをきっかけとして「ペトルーシュカ」「春の祭典」と言う大作をディアギレフとそのバレエ団のために作曲していくことになります。
バレエ「火の鳥」あらすじ
イワン王子は、火の鳥を追っているうちに魔王カスチェイの魔法の庭園に迷いこみます。
魔法の庭園にある黄金の林檎を食べに来た火の鳥を木陰に身を潜めたイワン王子が捕らえます。
哀願する火の鳥を逃がしてやるイワン王子は、代わりに火の鳥から魔法の羽根を手に入れます。
そこに現れたのは魔法にかけられた13人の王女たち。黄金の林檎を手に戯れ踊りだします。
物陰からその様子を見ていたイワン王子はその中でもひときわ美しいツァレヴナ王女に魅かれて姿を現します。
しかし彼女たちは魔王カスチェイの魔法によって囚われの身となっていた王女たちだったのです。
夜が明けるとともに再び13人の王女たちは魔王カスチェイの城へと閉じ込められます。
王女たちを助けようと魔王カスチェイの城に乗り込むイワン王子でしたが、結局はカスチェイの手下に捕らえられ、魔法で石に変えられてしまいそうになります。
絶体絶命の王子が火の鳥からもらった魔法の羽根を振ると、そこへ再び火の鳥が現れます。
火の鳥に魔法をかけられた魔王カスチェイと手下たちは倒れるまで踊り狂います。
火の鳥は今度は子守唄を歌い、踊り疲れてその場に倒れこんでいた魔王カスチェイと手下たちを眠らせてしまいます。
そのすきに火の鳥はイワン王子に魔王カスチェイの命が林檎の樹の根元にある卵の中にあることを告げます。
やがて目を覚まし襲い掛かってくる魔王カスチェイですが、イワン王子は卵を地面に叩きつけ割ってしまいます。
これによって魔王カスチェイは滅び、石にされていた騎士たちは元に戻り、ツァレヴナ王女をはじめとする13人の王女たちも自由の身となります。
最後はイワン王子とツァレヴナ王女が結ばれ大団円となります。
バレエ版と組曲版
オリジナルのバレエ版(1910年版)は次の22の曲から構成されています。
01.導入部
02.カスチェイの魔法の庭園
03.火の鳥の出現、イワン王子の登場
04.火の鳥の踊り
05.イワン王子に捕らえられた火の鳥
06.火の鳥の哀願
07.魔法にかけられた13人の王女たち
08.黄金の林檎と戯れる王女たち
09.イワン王子の突然の登場
10.王女たちのロンド
11.夜明け
12.カスチェイの番兵の怪物たちに捕らえられる王子
13.不死の魔王カスチェイの登場
14.イワン王子とカスチェイの対決
15.王女たちの哀願
16.火の鳥の出現
17.火の鳥の魔法にかかったカスチェイの手下たちの踊り
18.魔王カスチェイの凶悪な踊り
19.火の鳥の子守歌
20.カスチェイの目覚め
21.カスチェイの死、深い闇
22.カスチェイの城と魔法の消滅、石にされていた騎士たちの復活、大団円
ストラヴィンスキーはこのバレエの全曲版から幾つかの曲をピックアップして、さらに編成とオーケストレーションに一部変更を加えた管弦楽組曲版を3度に渡って出版しています。
組曲(1911年版)は最初に出版された管弦楽用の組曲でオリジナルと同じく大きな編成で「魔王カスチェイの凶悪な踊り」で終わるのが特徴です。
組曲(1919年版)は演奏機会の最も多い版で、編成がオリジナルのバレエ全曲版より若干縮小されています。
組曲(1945年版)はオーケストレーションが複数箇所に渡って変更されていて、特に終曲での変更が特徴的です。
バレエ組曲「火の鳥」解説
※ここでは今回ご紹介する演奏動画の1919年版の組曲での曲目を解説しています。
1.序奏
三連符で上昇下降を繰り返す低弦の響きが、不気味な森の中を彷徨うような雰囲気を醸し出しています。
2.火の鳥の踊り
駆け回る弦楽器と木管楽器が魔法の庭園に現れた火の鳥を描写したような、わずか十数小節の短いパートです。
3.火の鳥のヴァリアシオン
木管楽器が忙しく駆け巡り魔法の庭園を飛び回る火の鳥を表現します。
ヴァリアシオンは英語読みのヴァリエーションですが、ここではソロの踊りを表すバレエ用語としてフランス語読みが使われています。
4.王女たちのロンド
王子が美しい王女たちと出会い、その輪舞に加わるよう様子を描いています。フルートの導入に続き、オーボエがとても幻想的で美しい旋律を奏でます。これははロシアの民謡が元になっています。(譜例①)
ストラヴィンスキー初期の作品らしい親しみやすく、そして美しく幻想的な曲想に満ち溢れています。
5.魔王カスチェイの凶悪な踊り
短い前打音を伴った強烈な和音の一撃で前曲とはがらりと雰囲気を変えて緊張感の溢れる音楽が展開されます。
金管楽器が荒々しい響きで魔王カスチェイたちの凶悪な踊りを表現します。(譜例②)
魔王カスチェイと手下たちが狂ったように踊り狂う様がストラヴィンスキーの巧みな管弦楽法で描き出されます。
6.子守歌
踊り疲れた魔王たちを眠りに誘う火の鳥が歌う子守唄です。ファゴットの奏でる独特の雰囲気を持つ子守唄が印象的です。(譜例③)
そしてその子守唄を装飾するように奏でられる弦楽器の旋律の繊細な響きの美しさが心に残ります。
7.終曲
ホルンのソロがゆったりと奏でる優しさに満ち溢れた旋律は、魔法から解き放たれた朝を迎えたような晴れやかさを感じます。(譜例④)
このロシア民謡から取られた旋律は弦楽器からオーケストラ全体へと引き継がれゆっくりと高揚していきます。
最後は金管楽器が力強い堂々とした旋律を奏で、ドラマティックに輝かしく終曲します。
バレエ組曲「火の鳥」YouTube動画
ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)
1.序奏(00:14)
2.火の鳥の踊り(03:23)
3.火の鳥のヴァリアシオン(03:40)
4.王女たちのロンド(05:00)
5.魔王カスチェイの凶悪な踊り(10:25)
6.子守歌(15:23)
7.終曲(19:18)
ミッコ・フランク指揮:フランス放送フィルハーモニー管弦楽団
ストラヴィンスキー「火の鳥」おすすめの名盤
管理人piccoloおすすめの名盤はこちら!
1.ストラヴィンスキー:バレエ音楽『火の鳥』(1910年版)
2.スクリャービン:プロメテウス-火の詩(交響曲 第5番)
ワレリー・ゲルギエフ指揮
マリインスキー劇場管弦楽団
録音:1995年(1)1997年(2)
ワレリー・ゲルギエフは1953年生まれ、ロシア出身の指揮者です。1988年、35歳の若さでキーロフ劇場(現マリインスキー劇場)芸術監督に就任し、その後この劇場を世界的な地位へと引き上げた手腕が評価され、世界的に活躍する人気の指揮者です。
とても短いタクトを使うか、もしくはタクトなしで小刻みに動かす独特の指揮ぶりも印象的です。冒頭のダイジェスト動画でご紹介していますので、まだご覧になっていない方はぜひご覧になってください。
この作品ではストラヴィンスキー独特の粗野な響きだけでなく、とても美しく精緻な演奏に仕上げているように感じます。
個人的には「魔王カスチェイの凶悪な踊り」や「終曲」などもう少しゲルギエフらしくやらかしてくれても良いかも?と思ったりもします(笑)
そんなにアクの強い演奏でもないので、クラシック初心者の方も楽しんでいただけるのではないでしょうか。
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【組曲版】「ストコフスキー&ベルリン・フィル」「マリス・ヤンソンス&バイエルン放送響」「ロリン・マゼール&ベルリン放送響」「リッカルド・シャイー&コンセルトヘボウ管」「ピエール・モントゥー&コンセルトヘボウ管」「チョン・ミュンフン&パリ・バスティーユ管」「エルネスト・アンセルメ&スイス・ロマンド管」「トゥガン・ソヒエフ&トゥールーズ・キャピトル国立管」「クラウス・テンシュテット&ロンドンフィル」「小林研一郎&ロンドンフィル」「ストコフスキー&ロンドン響」「ゲルギエフ&ロンドン響」「アバド&ロンドン響」「サイモン・ラトル&バーミンガム市響」「アシュケナージ&アイスランド響」「バーンスタイン&ニューヨーク・フィル」「ストラヴィンスキー&ニューヨーク・フィル」「大植英次&ミネソタ管」「ムラヴィンスキー&レニングラード・フィル」他
【全曲版】「コリン・デイヴィス&コンセルトヘボウ管」「アンドレス・オロスコ=エストラーダ&hr響」「小澤征爾&パリ管」「アンタル・ドラティ&ロンドン響」「ケント・ナガノ&ロンドン響」「アンドリス・ネルソンス&バーミンガム市響」「ロバート・クラフト&フィルハーモニア管」「ブーレーズ&シカゴ響」「ブーレーズ&ニューヨーク・フィル」「小澤征爾&ボストン響」「エサ=ペッカ・サロネン&ロサンゼルスフィル」「アンタル・ドラティ&デトロイト響」「デュトワ&モントリオール響」「ゲルギエフ&マリインスキー劇場管」他
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まとめ
ストラヴィンスキー作曲、バレエ音楽「火の鳥」いかがでしたでしょうか?
クラシック初心者の方には「ストラヴィンスキー」と言う作曲家の名前は「近代的」「前衛的」と言った印象があり、少し敷居が高いように感じるかも知れませんね。
しかしこのバレエ音楽「火の鳥」はストラヴィンスキーの名前を一躍有名にした初期の作品で、バレエのストーリーそのものも「白鳥の湖」のようなわかりやすい物語になっています。
そしてストラヴィンスキーがこの物語に付けた音楽も決して難解なものではなく、美しくドラマティックな作品になっています。
ストラヴィンスキー入門、近代作品入門の音楽としても良いのではないでしょうか。
ぜひ物語のあらすじをお読みいただいた上で気軽にお楽しみいただければと思います。
最後までお読みいただきありがとうございます。こちらの作品もぜひ聴いてみてください!
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