シベリウス「フィンランディア」解説とおすすめの名盤
目次
作曲の背景
「フィンランディア(Finlandia)」作品26はフィンランドの作曲家、ジャン・シベリウス(1865-1957)が1899年に作曲した交響詩です。
当時のフィンランド大公国は遡れば1809年にスウェーデンからロシア帝国に割譲されることにより誕生しました。
この作品が書かれた19世紀末のフィンランドは帝政ロシアに対する反発が強まり、ナショナリズムが高揚している時期でもありました。
1898年、徐々に作曲家として知られるようになっていたシベリウスは国から助成金を受け取れるようになり、より作曲に専念できる環境を得ることが出来ました。
1899年、高まっていくナショナリズムに神経を尖らせるロシア帝国は言論統制の一環として、フィンランドの新聞社に圧力を加えていきます。
これに抵抗した新聞社は11月にフィンランドの歴史を描写する歴史劇を上演する計画を立てます。
『カレワラ』と呼ばれるフィンランドの民族叙事詩に基づくこの愛国的な歴史劇の楽曲を担当したのが、間もなく34歳を迎えようとしていたシベリウスです。
そしてこの歴史劇のために書いた楽曲の終曲「フィンランドは目覚める」が「フィンランディア」の原曲です。
1900年、この「フィンランドは目覚める」を改訂し単独の交響詩として「フィンランディア」が生まれることとなります。
初演は1899年11月2日、シベリウス自身の指揮するヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で歴史劇の劇音楽として演奏されました。
単独の作品としては1900年7月、ヘルシンキ・フィルのパリ万博遠征公演のプログラムとして取り上げられています。
民族運動が高まる機運の中で作曲されたこの曲は、愛国心を高めるとしてロシア政府により演奏禁止処分にされることになったことでも有名です。
フィンランディア賛歌
フィンランド国内の法律をすべてロシア基本法の制限下に置き、フィンランド語の使用を禁止しロシア語を強要するなど、フィンランドのロシア化を目論むロシア帝国でしたが、日露戦争や第1次世界大戦の混乱の後、1917年ロシア革命が起こり、ついにロシア帝国は崩壊します。
この混乱に乗じフィンランド議会は独立を宣言。共産主義勢力との内戦を挟んで翌1918年12月についにフィンランド共和国として独立を果たすことになります。
永年の悲願であった独立を果たしたフィンランドでしたが、1939年、第2次世界大戦の勃発に伴い今度はロシア帝国に代わってソビエト連邦が軍隊の駐留とフィンランドのカレリア地方の割譲を要求してきました。
これを拒否したフィンランドは11月にソビエト連邦から軍事侵攻を受けることになります。
1940年、ソ連との間でモスクワ講和条約が結ばれます。多くの犠牲を出しながらも独立を守ったフィンランドでしたが、カレリアの割譲を余儀なくされます。
カレリアはフィンランドの国土面積のほぼ10%に相当し、産業も盛んな地域でした。
40万を超える市民はソ連側が示した10日間の期限内に、故郷を離れて移住するか、ソ連市民となるかの選択を迫られることになります。
フィンランドの人たちにとって、この講和条件は過酷すぎるものであり、心に深い傷を刻む出来事となりました。
翌1941年、フィンランドの詩人、ヴェイッコ・アンテロ・コスケンニエミ(1885-1962)によって「フィンランディア」の中間部の旋律に愛国的な歌詞が付けられ、シベリウス自身が合唱用に編曲しました。
これが「フィンランディア賛歌」で、歌詞の内容は侵略や抑圧に決して屈することのない誇り高きフィンランドの人たちの姿が描かれています。
Club For Five
合唱曲としてフィンランドの第2の国歌的な位置付けで歌われる愛国的な作品ですが、原曲の「フィンランディア」の曲中でも合唱付きで歌われる場合があります。
今回の記事ではフィンランドの歴史的な背景の説明が長くなりましたが、われわれ日本人には想像もできない長い間の抑圧と侵攻の歴史の中で、心に熱く秘めてきたフィンランドの人々の愛国の想いがこの作品が広く愛されている理由だとおわかりいただけたかと思います。
シベリウス「フィンランディア」解説
冒頭、金管楽器による低く重々しい序奏が圧政に苦しむフィンランドの人々の苦難を象徴しているようです。(譜例①)
それに続く木管楽器の悲嘆にくれたような旋律がやがて弦楽器へと受け継がれていきます。
この旋律が徐々に高揚していくと、急にテンポが速くなり金管楽器による力強く印象的なリズムが刻まれ、曲を支配していきます。(譜例②)
冒頭の重苦しい主題に立ち向かうかのように、この力強いリズムが反復されながら勝利へ向かうかのようにテンポを上げて高揚していきます。
高揚した音楽が落ち着きを取り戻すと「フィンランディア賛歌」として知られる讃美歌風の美しい旋律が奏でられます。(譜例③)
それはまるで森と湖に囲まれた美しく平和なフィンランドの風景を思い起こさせるかのようです。
この美しい賛歌が終わると再び速いテンポに戻り、最後は勝利の凱歌のように「フィンランディア賛歌」の一節が高らかに歌われ終曲します。
シベリウス「フィンランディア」youtube動画
シベリウス:「フィンランディア」作品26
サカリ・オラモ指揮:BBC交響楽団、合唱団
(BBC Promsより)
日本国内の一般的なコンサートでは合唱が付けられることは少ないと思いますが、紹介した動画はイギリスの音楽祭「BBC Proms」での演奏で合唱付きの動画です。
シベリウス「フィンランディア」おすすめの名盤
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【収録曲】
シベリウス
1. 交響詩『フィンランディア』 Op.26
2. カレリア組曲 Op.11
3. 交響曲第2番ニ長調 Op.43
マリス・ヤンソンス指揮
バイエルン放送交響楽団
録音:2015年(ライヴ収録)
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程よく引き締まった筋肉質な金管楽器の響き、柔らかく美しい表情をみせるフィンランディア賛歌、多少あっさりとした感がなくもありませんが、デフォルメされたような大仰なスタジオ録音も多い中、ライヴ収録ならではの自然な音楽の流れが個人的には好みです。
カップリングもシベリウスの代表的な管弦楽曲と交響曲を1枚で楽しめるアルバムとなっています。
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「カラヤン&ベルリン・フィル」「ネーメ・ヤルヴィ&エーテボリ響」「マリス・ヤンソンス&バイエルン放送響」「アシュケナージ&フィルハーモニア管」「アシュケナージ&ボストン響」「アラン・ギルバート&ニューヨーク・フィル」「オーマンディ&フィラデルフィア管」「リコ・サッカーニ&ブダペスト・フィル」「アレクサンダー・ギブソン&ロイヤル・フィル」「ペトリ・サカリ&アイスランド響」「トスカニーニ&NBC響」「ズービン・メータ&ウィーン・フィル」「マルコム・サージェント&ウィーン・フィル」「マルコム・サージェント&BBC響」「ヨエル・レヴィ&クリーヴランド管」「パーヴォ・ベルグルンド&ボーンマス響」「パーヴォ・ベルグルンド&ヘルシンキ・フィル」「サカリ・オラモ&バーミング市響」「クルト・ザンデルリング&ベルリン響」他
おすすめした「マリス・ヤンソンス&バイエルン放送響」以外では、重厚で重々しい響きが印象的な「ネーメ・ヤルヴィ&エーテボリ響」、本場フィンランドの指揮者「パーヴォ・ベルグルンド&ヘルシンキ・フィル」では速めのテンポ設定で、颯爽とした「フィンランディア」を楽しむことが出来ます。
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まとめ
シベリウス作曲の「フィンランディア」、いかがでしたでしょうか?
重々しく暗澹たる雰囲気に包まれた序奏、決然と立ち向かうかのような力強い金管楽器のリズム、フィンランドの美しい自然を彷彿とさせるようなフィンランディア賛歌、勝利の凱歌を高らかに歌うかのような終結部。
こうした印象的な楽想には長い間圧政に苦しんできたフィンランドの人々の想い、そしてシベリウスの祖国に対する愛国の情が込められていたのですね。
作品は10分もない短い作品です。クラシック初心者の方も気軽に楽しんでいただけると思いますので、ぜひ聴いてみて下さい。
最後までお読みいただきありがとうございます。こちらの作品もぜひ聴いてみてください!
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