コレッリ「クリスマス協奏曲」【解説と名盤、無料楽譜】
目次
まずはダイジェストで聴いてみよう!
弦楽器が奏でるとても優しく温かい響きが、クリスマスの厳かな夜にピッタリの曲想です。
まずは第3曲をダイジェストで聴いてみましょう。
Voices of Music
作曲の背景
「クリスマス協奏曲」の愛称で知られるこの作品はイタリアの作曲家、アルカンジェロ・コレッリ(1653-1713)が作曲した全12曲からなる「合奏協奏曲集 作品6」の第8番にあたる作品です。
この作品はコレッリが死去した翌年の1714年に出版されています。
コレッリはバロック音楽の最盛期に活躍したヴィヴァルディ(1678-1741)、ヘンデル(1685-1759)、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685-1750)よりも四半世紀早く生まれた、バロック中期に活躍した作曲家です。
合奏協奏曲(コンチェルト・グロッソ)は、バロック時代に流行した音楽の形式でコンチェルティーノと呼ばれる独奏楽器群とリピエーノと呼ばれるオーケストラの総奏が2群に分かれ交代しながら演奏する楽曲です。
コンチェルティーノとして演奏される独奏楽器群は、楽曲によりその組み合わせは様々ですが、この作品では2つのヴァイオリンとチェロが独奏楽器として選ばれています。
次に示す【譜例①】の上三段がコンチェルティーノ、その下がリピエーノの楽譜になっています。
今日、「協奏曲」と言えば独奏楽器とオーケストラのための作品のイメージがありますが、コレッリが活躍したバロック音楽の時代には「協奏曲」の言葉が意味する音楽の形式は多種多様で、やがてそれが今日の「協奏曲」へと発展していきます。
コレッリが作曲した合奏協奏曲集は当時のヨーロッパで流行し、後のヴィヴァルディなどにも大きな影響を与えました。
「クリスマス協奏曲」の愛称はこの作品がクリスマスの夜に行われるミサのために作曲されたことに由来しています。
その楽譜には「Fatto per la notte di natale(クリスマスの夜のために)」とイタリア語で書かれています。(譜例①)
キリスト教で用いられる教会暦では、日没をもって日付の変わり目とするため、ここで言う「クリスマスの夜」とは実際にはいわゆる「クリスマス・イヴ」の夜を指します。
そのためCD等のタイトルの中には「クリスマス・イヴのために」と言う和訳表記もみられます。
終曲に配置された「パストラーレ(pastorale)」は、牧歌的な性格を持つ楽曲のことですが、この楽曲が終曲に置かれているのは、イエスの生誕に際し、それを最初に伝え聞いたのが、夜通し羊の群れの番をしながら野宿をしていた羊飼い達であることに由来しています。
そのため他のバロックの作曲家たちもクリスマスに因んだ作品の中に「パストラーレ」を組み入れている例がみられます。
コレッリの生まれたイタリアでは、「ピッフェラーリ」と呼ばれる羊飼いたちがクリスマスの時期になるとローマにやってきて、「ピッフェロ」と呼ばれる楽器を聖母マリア像の前で演奏する習慣がありました。
「羊飼い」と「クリスマス」は伝統的に関連付けられるキーワードで、「羊飼い」を音楽として象徴した楽曲が「パストラーレ」と言う訳なのですね。
コレッリ「クリスマス協奏曲」解説
Ⅰ.Vivace-Grave
6小節の短い「vivace(活発に、速く)」に続き、「Grave(荘重に)」と指示された厳粛な音楽が奏でられます。
「クリスマス」(Christ=キリスト、mas=ミサ)とは文字通り「キリストのミサ」であり、「キリストの降誕をお祝いする日」のことですが、ここでは祝祭的な雰囲気は感じられず、むしろこれからイエスが経験する数々の受難を予兆するかのような、暗く重々しい旋律が奏でられます。
「Grave」の箇所には「Arcate sostenuto e come sta」の表記があり、「(装飾を付けずに)ソステヌートで弾くように」と指示されています。(譜例①)
バロック時代のイタリアでは、現在とは異なり演奏者の判断で、任意で自由な装飾を施して演奏するのが通例でした。そのためここではあえて「装飾を付けないように」指示することにより、よりシンプルで厳粛な雰囲気を醸し出しています。
「Grave」は長い音符で書かれていますが、最後に現れる全音符の両サイドにバーがある音符は「二全音符」=「全音符2つ分」を表す音符です。(譜例②)
私自身も趣味で楽器を演奏しますが、あまり見る機会のない音符ですね?以前、この作品を演奏した時に初めて見て、戸惑ったのを覚えています。
Ⅱ.Allegro
チェロが奏でる推進力を感じる八分音符に乗って、2つの独奏ヴァイオリンが掛け合いながら颯爽とした旋律を奏でます。(譜例③)
Ⅲ.Adagio-Allegro-Adagio
コンチェルティーノが奏でるとても穏やかで温かい「Adagio(ゆっくりと)」が厳かなクリスマスの夜にぴったりの曲想です。
個人的には途中の和声進行に、少し「パッヘルベルのカノン」を想い起こします。
勢いよく刻まれる8分音符と16分音符が印象的な、短い「Allegro(快活に、速く)」を挿んだ後、再び「Adagio」に戻り、美しく静かに終曲します。
最後に現れる16分音符の繰り返しが、頬を伝う感動の涙の様に感じられ、個人的に大好きな部分です。(譜例④)
Ⅳ.Vivace
3拍子で描かれる「Vivace(活発に、速く)」は舞曲風の曲想です。厳かな雰囲気の中にも活気の感じる短い楽曲です。
Ⅴ.Allegro
2つの独奏ヴァイオリンの掛け合いで始まる快活な「Allegro」です。この楽曲も舞曲風で前へ前へと進む推進力を感じる曲想です。
最後は切れ目なく次の曲へと続いていきます。
Ⅵ.Largo pastorale ad libitum
終曲の「Largo(ゆるやかに)」には「pastorale(パストラーレ)」のタイトルと共に「ad libitum(自由に、随意に)」の表記が見られます。(譜例⑤)
即興的に演奏されるカデンツァ風の楽句などに使われることの多い表記ですが、ここではタイトルそのものに付け加えられています。
一般的にはこの終曲を「省略しても良い」と言う意味で解釈されているようですが、別の解釈もあるようです。
「作曲の背景」で触れたようにこの「pastorale(パストラーレ)」は「クリスマス」を象徴する楽曲でもあります。
この「クリスマス協奏曲」が含まれる「合奏協奏曲集 作品6」の中で「Largo(ゆるやかに)」と言う遅いテンポの楽曲で終曲しているのはこの第8番「クリスマス協奏曲」のみです。
他の11曲はすべて「Allegro」、「Vivace」と言う速いテンポの楽曲で終曲しています。
「クリスマス」の時期以外に演奏する際には、この「pastorale(パストラーレ)」を省略し、第5曲の「Allegro」で終曲すると言うのが自然な解釈のような気がします。
曲はコンチェルティーノが奏でる牧歌的でシチリアーナ風の旋律が印象的です。ゆったりと静かに揺れる美しい舟歌のようで心が癒されます。
最後は静かに消え入るように終曲します。
コレッリ「クリスマス協奏曲」youtube動画
コレッリ:『合奏協奏曲集作品6』より第8番「クリスマス協奏曲」
Ⅰ.Vivace-Grave(0:00)
Ⅱ.Allegro(01:43)
Ⅲ.Adagio-Allegro-Adagio(04:15)
Ⅳ.Vivace(08:20)
Ⅴ.Allegro(09:32)
Ⅵ.Largo pastorale ad libitum(11:32)
リナルド・アレッサンドリーニ指揮:フランス放送フィルハーモニー管弦楽団
コレッリ「クリスマス協奏曲」無料楽譜
難易度はそんなに高くないと思います。アマチュアオーケストラや音楽教室の仲間などで演奏するのも楽しいのではないでしょうか?
コンチェルティーノの2つのヴァイオリンは、フルートやオーボエで代用するのもありかも知れませんね。
コレッリ『合奏協奏曲集作品6』より第8番「クリスマス協奏曲」無料楽譜(IMSLP)
上記のタイトルをクリックして、リンク先から無料楽譜をダウンロード出来ます。ご利用方法がわからない方は下記の記事を参考にしてください。
コレッリ「クリスマス協奏曲」名盤
管理人おすすめの名盤はこちら!
コレッリ:合奏協奏曲集Op.6
チェンバロ、指揮:トレヴァー・ピノック
イングリッシュ・コンサート
1987、88年録音(デジタル)
個人的にこういった作品はあまり大きな編成で大仰な演奏は好みではないので、清楚でスッキリとした響きで、颯爽とした演奏のトレヴァー・ピノック&イングリッシュ・コンサート盤をオススメしたいと思います。
トレヴァー・ピノック(1946-)はイギリス出身のチェンバロ奏者で指揮者です。1973年に古楽器による楽団、イングリッシュ・コンサートを創設、以後2003年に退団するまで30年に渡って、同楽団と名演奏を繰り広げてきました。
ご紹介したアルバムでは今回の記事でご紹介した第8番「クリスマス協奏曲」を含む全12曲を楽しむことが出来ます。
※こちらのアルバムは「Amazon Music Unlimited」でもお楽しみいただけます!
まとめ
コレッリ作曲の「クリスマス協奏曲」、いかがでしたでしょうか?
このブログでご紹介してきた作品の中でも、最も古い時代に活躍した作曲家の作品です。
清楚な響きの中に厳かな雰囲気と美しさを感じる作品ですね。
真っ白な雪が静かに降るクリスマスの夜に、心穏やかに聴いてみたい1曲です。
最後までお読みいただきありがとうございます。こちらの作品もぜひ聴いてみてください!
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