ベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲」【解説とyoutube動画】
目次
まずはダイジェストで聴いてみよう!
独奏ヴァイオリンが生き生きとした旋律を奏で五線譜の上を躍動します。
まずは第3楽章をダイジェストで聴いてみましょう!
ズービン・メータ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ヴァイオリン:レオニダス・カヴァコス
作曲の背景
ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61はドイツの作曲家、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)が1806年に作曲したヴァイオリン協奏曲です。
ベートーヴェンが完成させた唯一のヴァイオリン協奏曲である本作はメンデルスゾーン、ブラームスの作曲したヴァイオリン協奏曲と並び三大ヴァイオリン協奏曲と称されています。
ベートーヴェンはこの作品の前後にも交響曲第3番「英雄」(1804年)、ピアノ協奏曲第4番(1806年)、交響曲第4番(1807年)などの大作を書き上げていて、ベートーヴェンの創作活動の中でも充実した時期に書かれた作品です。
初演は1806年にアン・デア・ウィーン劇場で、同劇場オーケストラのコンサートマスター、フランツ・クレメント(1780-1842)の独奏により演奏されました。
クレメントはベートーヴェンと親交があったようでこの作品の自筆譜には「クレメントのためにクレメンツァ(慈悲)をもって作曲」と書き込まれているそうです。
クレメントはほぼ初見であったにもかかわらず、この作品を見事に演奏して聴衆の喝采を浴びたそうです。
演奏会としては成功を収めた初演でしたが、この作品に対する世間の評価は厳しいもので、当時の新聞にも酷評されたようです。
協奏曲としてはかなり長大で、協奏曲でありながら交響曲のような雰囲気も併せ持つこの作品は、独奏楽器による華やかな名人芸を楽しめる他の作曲家の協奏曲に比べると難解に感じられたのかも知れませんね。
このような経緯からベートーヴェンが存命中は演奏される機会が少なかった本作品ですが、その後再評価され、特にブラームスの盟友としても有名なヴァイオリン奏者のヨーゼフ・ヨアヒム(1831-1907)が積極的に取りあげたこともあり、現在ではもっとも偉大なヴァイオリン協奏曲との評価を得るようになりました。
ベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲」の解説
第1楽章 Allegro ma non troppo
ティンパニが静かに刻むリズムに乗って穏やかで美しい第1主題をオーボエが奏でます。
この冒頭のティンパニによる5つの音の連打は曲中に様々な楽器で形を変えて現れます。
表情の異なる力強くドラマティックな曲想を挟んで演奏される第2主題もとても美しい旋律です。
長い序奏に続いてカデンツァ風に入ってくる独奏ヴァイオリンがこれらの主題を気高く、そして美しく朗々と奏でます。
独奏ヴァイオリンとオーケストラが絡み合いながらみせる表情は、時に雄弁で時に優しく、あるいは哀愁を帯びていて聴く人を魅了します。
終盤におかれたカデンツァ(オーケストラ伴奏のない独奏箇所)はベートーヴェン自身が書き遺しておらず、後世の作曲家たちやヴァイオリン奏者によるものが演奏されます。
第2楽章 Larghetto
弦楽器が奏でる穏やかな主題が変奏されていきます。
独奏ヴァイオリンはその穏やかな主題を美しく装飾するかのように繊細な調べで絡み合います。
安らかな雰囲気に満ち溢れたこの楽章は短いカデンツァを挟み、切れ目なく第3楽章へと続きます。
第3楽章 Rondo Allegro
独奏ヴァイオリンがロンドの主題を奏でるとオーケストラがこれに続きます。
快活で生き生きとした雰囲気に満ち溢れ、独奏ヴァイオリンも五線譜の上を躍動します。
ある時は主題を変奏し、ある時はオーケストラの奏でる主題を美しく装飾します。
最後はカデンツァを挟み輝かしく華やかに終曲します。
ベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲」のカデンツァ
楽曲解説でも触れたようにベートーヴェンはこの作品のカデンツァ(オーケストラ伴奏のない独奏箇所)を書き遺していません。
そのため後世の著名な作曲家やヴァイオリン奏者の書いたカデンツァや演奏者自身のオリジナルのカデンツァが演奏に使われます。
比較的に演奏される機会の多いヨーゼフ・ヨアヒム(1831-1907)やフリッツ・クライスラー(1875-1962)の書いたオーソドックスなカデンツァから、近代、現代の作曲家やヴァイオリン奏者の書いた斬新なカデンツァまで実に多種多彩です。
今回はそんな数多いこの作品のカデンツァの中からフリッツ・クライスラーによるものと、ちょっと斬新で刺激的なカデンツァを使用した演奏動画をいくつかご紹介しようと思います。
これらはカデンツァの部分だけ聴くと「えっ!?これって本当にベートーヴェン?」と思われる方や、「全体の曲想を損ねる!」と違和感と批判的なご意見を持たれる方も少なからずいらっしゃるのではないかと思います。
これからご紹介するのは管理人の個人的な嗜好もありますが、多くの演奏動画の中から純粋にその音楽に魅了された演奏なのでぜひご紹介したいと思いました。
ぜひ聴き比べてお楽しみください。
クライスラーのカデンツァによる演奏動画
最初にご紹介するのは1979年生まれ、アメリカ出身のヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンさんの演奏です。
10代の頃からソリストとしてメジャー・オーケストラと共演を重ねられている人気のヴァイオリニストです。
この演奏動画は地元アメリカでの演奏だと思うのですが、まだ第1楽章が終わった段階で凄い喝采を浴びています。
カデンツァは比較的演奏されることの多いオーストリア出身の世界的なヴァイオリニストで作曲家でもあったフリッツ・クライスラー(1875-1962)によるものです。
ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61
第1楽章(00:38) カデンツァ(19:44) 第2楽章(25:10) 第3楽章(34:25)
レナード・スラットキン指揮 デトロイト交響楽団
ヴァイオリン:ヒラリー・ハーン
アンコール
バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番 ホ長調 BWV1006より 第7曲 ジーグ(47:00)
こちらの記事でもヒラリー・ハーンさんの演奏をご紹介しています。ぜひ聴いてみてください!
シュニトケのカデンツァによる演奏動画
次にご紹介するのは1984年生まれ、韓国出身のヴァイオリニスト、ユン・ソヨンさんの演奏です。
この動画は2016年に開催された第15回ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリン・コンクールのオープニングコンサートでの演奏の様子です。
ソリストのユン・ソヨンさんは2011年に開催された前回大会の第1位受賞者です。
カデンツァは旧ソ連の作曲家、アルフレート・シュニトケ(1934-1998)によるもので、ベートーヴェン以外の作曲家の作品の素材を引用していたり、その響きも技巧も現代的でベートーヴェンの作品に挿入するものとしてはかなり斬新です。
指揮を務めるペンデレツキさんは現代を代表する作曲家としても有名です。
ヴァイオリン協奏曲に先立って演奏された曲目もご紹介しておきます。
ポーランド国歌 「ドンブロフスキのマズルカ」(00:40)
ペンデレツキ 弦楽のためのアダージョ(交響曲第3番より)(06:30)
ベートーヴェン ヴァイオリン 協奏曲ニ長調作品61
第1楽章(20:00) カデンツァ(41:45) 第2楽章(48:00) 第3楽章(57:16)
クシシュトフ・ペンデレツキ指揮 ブレーメン・ドイツ室内フィルハーモニー管弦楽団
ヴァイオリン:ユン・ソヨン
アンコールに応えてユン・ソヨンさんが演奏したのはロシアのヴァイオリニストで作曲家のアレクセイ・イグデスマン(1973-)が書いた小品です。
とても楽しい作品なのでこちらもぜひ聴いてみてください!
アンコール
イグデスマン Applemania(1:08:50)
こちらの記事でもユン・ソヨンさんの演奏をご紹介しています。ぜひ聴いてみてください!
コパチンスカヤのカデンツァによる演奏動画
最後にご紹介するのは1977年生まれ、モルドヴァ生まれのヴァイオリニスト、パトリシア・コパチンスカヤさんの演奏です。
ベートーヴェンはこの作品をイタリアの音楽家、ムツィオ・クレメンティ(1752-1832)の勧めでピアノ協奏曲に編曲しています。
この作品は演奏される機会も少なく、ベートーヴェンのピアノ協奏曲としての番号も一般的には付されていませんが、原曲のヴァイオリン協奏曲では書いていない第1楽章のカデンツァを入念に書いています。
それは長大な上にカデンツァにティンパニが加わるという独創的なものでした。
このピアノ協奏曲用のカデンツァをヴァイオリン協奏曲用に編曲して演奏される例はこれまでにもありましたが、コパチンスカヤさんはこれをベースにさらに独自のアレンジを加えて大胆な演奏をされています。
ティンパニだけでなくヴァイオリンやチェロをも巻き込んで展開されるカデンツァは斬新とか独創的と言った言葉を飛び越えて、あたかも強烈な個性が爆発しているかのような感じを受けます。
さらにコパチンスカヤさんは第2楽章、第3楽章の終盤に現れるカデンツァもアレンジを加えて演奏されています。
自由奔放とも言えるそのスタイルには賛否の声があるようですが、個人的にはその独特の世界観に惹き込まれてしまいました。
これからご覧になるあなたはどのように感じるでしょうか?
ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61
第1楽章(01:20) カデンツァ(19:48) 第2楽章(25:00) 第3楽章(34:30)
フィリッペ・ヘレヴェーゲ指揮 hr交響楽団(フランクフルト放送交響楽団)
ヴァイオリン:パトリシア・ コパチンスカヤ
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いかがでしたか?こちらの作品もぜひ聴いてみてください!
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