ドヴォルザーク「スラヴ舞曲」【解説と名盤】
目次
作曲の背景
スラヴ舞曲集はチェコの作曲家、アントニン・ドヴォルザーク(1841-1904)が作曲した舞曲集です。
元はピアノ連弾のために書かれた曲ですが、ドヴォルザーク自身によって全曲、管弦楽曲に編曲されています。
1878年に作曲された第1集 作品46の8曲と1886年に作曲された第2集 作品72の8曲の計16曲からなり、各曲は各集ごとの番号で呼ばれる場合と、全16曲の通し番号で呼ばれる場合があります。
1873年に結婚し、1874年にプラハの聖ヴォイチェフ教会(聖アダルベルト教会)のオルガニストに就任したドヴォルザークは新たに設けられたオーストリア政府の国家奨学金の審査に合格し、翌1875年から5年間にわたって申請を続け、奨学金を受け取ることになります。
30代半ばのドヴォルザークは既に5曲の交響曲の他に歌劇を含む多数の作品を作曲し、徐々に作曲家として名前を知られるようになった時期でしたが、反面、経済的な安定を求めて職に就いたり、奨学金を受け取っている時期でもありました。
1877年、奨学金審査のために提出したモラヴィア二重唱曲集が審査員を務めていたブラームスの目に留まり、この作品を自身が懇意にしていたドイツの音楽出版社、ジムロックに紹介してもらえることになります。
1878年、ドヴォルザークはウィーンにブラームスを訪ね親しい交際が始まります。
同年、ジムロックは出版したモラヴィア二重唱曲集が好評だったドヴォルザークに対し、1869年に出版され大成功を収めたブラームスの「ハンガリー舞曲集」のような舞曲集の作曲を依頼します。
それに応えて同年3月から5月にかけて作曲されたのが8曲から成る「スラヴ舞曲集」第1集 作品46です。
ピアノ連弾版として出版されたこの舞曲集はたちまち人気を博し、同年中に管弦楽版も出版されました。
第1集の大成功を受けてジムロックは早い時期から続編となる舞曲集をドヴォルザークに要望していました。
しかし第1集が出世作となったドヴォルザークは、作曲家としての国際的な名声を確立し、次々と大作を手掛けつつあり、なかなかこの依頼を承諾しませんでした。
そんなドヴォルザークに対してジムロックは第1集の10倍という破格の条件で第2集の作曲を懇願します。
それが理由かどうかは定かではありませんが、1886年になってドヴォルザークはこの依頼をついに引き受けることになります。
こうして作曲されたのが「スラヴ舞曲集」第2集 作品72です。
第1集同様にピアノ連弾版と管弦楽版を短期間で書き上げたドヴォルザークはこの第2集においても大変な人気を得ることになります。
ドヴォルザーク「スラヴ舞曲」の解説
第1集では主にドヴォルザークの生まれ故郷であるチェコのボヘミア地方の代表的な舞曲が取り上げられています。
「スラヴ舞曲集」第1集 作品46
第1番 ハ長調:ボヘミアの民俗舞曲「フリアント(Furiant)」で、舞曲集の華やかなオープニングにふさわしい1曲になっています。
第2番 ホ短調:スラヴ諸国に広まった民俗舞曲「ドゥムカ(Dumka)」で、ゆっくりとした悲哀を表す部分とテンポの速い舞曲的な部分からなっています。
第3番 変イ長調:有名なチェコの民俗舞曲「ポルカ(Polka)」で、生き生きとした舞踏的な部分もありますが、全体的にはゆっくりと身体を揺らしたくなる穏やかな曲想が印象的です。
第4番 ヘ長調:「隣人の踊り、仲良しの踊り」と言う意味を持つ「ソウセツカー(Sousedská)」はペアで踊るための舞曲です。三拍子のゆるやかな曲想が心を落ち着けます。
第5番 イ長調:ボヘミアの民族舞曲「スコチナー(Skočná)」で、テンポの速い二拍子で躍動感あふれる活発な音楽が展開されていきます。
第6番 ニ長調:第4番と同じ「ソウセツカー(Sousedská)」ですが、ゆるやかな雰囲気の第4番よりは躍動的な感じがします。
第7番 ハ短調:第5番と同じ「スコチナー(Skočná)」ですが、木管楽器の奏でる主題をカノン風に追いかける楽しい雰囲気の1曲です。
第8番 ト短調:締めくくりは第1番と同じ「フリアント(Furiant)」です。様々な曲想のスラヴ舞曲を熱狂的な雰囲気の曲で締めくくっています。
第2集ではチェコのボヘミア地方の舞曲より、他のスラヴ地域の舞曲を多く取り上げているのが特徴です。
「スラヴ舞曲集」第2集 作品72
第1番 ロ長調:スロヴァキアの民族舞曲「オドメゼク(Odzemek)」で、男性がソロで踊る活発な舞曲ですが、個人的には行進曲のような雰囲気も感じます。
第2番 ホ短調:スラヴ舞曲集の中でも特に有名な1曲ですが、舞曲の形式には「ドゥムカ」「ソウセツカー」など諸説あるようで、英語版のWikipediaを見ると「昔の踊り」を意味する「スタロダーヴニ(Starodávný)」となっています。
曲は甘く郷愁を誘う旋律が魅力的で、ここでは舞曲的な要素は抑えられているように感じますが、中間部では愛らしい雰囲気の穏やかでゆっくりとした舞曲風の曲想も感じられます。
第3番 ヘ長調:ボヘミアの民族舞曲「スコチナー(Skočná)」などを織り交ぜた1曲で、シンプルな親しみやすい曲想の中にも活発で生き生きとした舞曲風のリズムが息づいている1曲です。
第4番 変ニ長調:スラヴ諸国に広まった民俗舞曲「ドゥムカ(Dumka)」で、付点のリズムが印象的な穏やかな冒頭に始まり、中間部では愛らしく美しい旋律も楽しむことが出来ます。
第5番 変ロ短調:ボヘミア地方の「シュパツィールカ(Špacírka)」と言う舞曲で「歩く」と言う語源を持っているようです。
堂々とした雰囲気の冒頭に続き、テンポを速めた舞曲的な部分とゆったりとした雰囲気の部分が交互に現れます。
第6番 変ロ長調:ポーランドのポロネーズに似た「スタロダーヴニ(Starodávný)」という舞曲で、木管楽器が奏でる優しい牧歌的な冒頭に始まり、木管楽器が旋律を装飾的に彩る中間部へと続きます。
第7番 ハ長調:旧ユーゴスラビア圏で広まった「コロ(Kolo)」と言う「車輪」を語源に持つ舞曲です。
急速なテンポで演奏される華やかな雰囲気に包まれたスピード感あふれる1曲です。
第8番 変イ長調:第1集でも取り上げられたチェコの舞曲「ソウセツカー(Sousedská)」で、美しく優雅な冒頭部分に始まり、3拍子のより舞曲的な雰囲気の曲想に続きます。
ドヴォルザーク「スラヴ舞曲」のyoutube動画
ここではスラブ舞曲集、全16曲の中からピアノ連弾版ではなく管弦楽版の動画を何曲かご紹介したいと思います。
「スラヴ舞曲集」第1集 作品46より第1番
ホセ・セレブリエール指揮 ボーンマス交響楽団
「スラヴ舞曲集」第1集 作品46より第8番
サイモン・ラトル指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
「スラヴ舞曲集」第2集 作品72より第2番
ホセ・セレブリエール指揮 ボーンマス交響楽団
「スラヴ舞曲集」第2集 作品72より第5番
サイモン・ラトル指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
「スラヴ舞曲集」第2集 作品72より第7番
サイモン・ラトル指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ドヴォルザーク「スラヴ舞曲」の名盤
管理人おすすめの名盤はこちら!
ドヴォルザーク
スラヴ舞曲集 op.46(全8曲)
スラヴ舞曲集 op.72(全8曲)
ラファエル・クーベリック指揮 バイエルン放送交響楽団
録音時期:1973年12月、1974年6月
録音場所:ミュンヘン、ヘルクレスザール
ラファエル・クーベリックは1914年チェコに生まれた指揮者です。
1948年にチェコの共産化を嫌って亡命したクーベリックは、1961年にバイエルン放送交響楽団の首席指揮者に就任します。
今回ご紹介する1枚はクーベリックが手兵バイエルン放送交響楽団と全盛期を迎えた時期の録音で、チェコを離れたクーベリックの祖国に対する深い愛情と熱い想いを強く感じさせる熱演です。
レーベルがyoutubeにアップしたこの録音のリンクを貼っておきますので参考にしてください。
【第1集:第1番】【第1集:第8番】【第2集:第2番】【第2集:第7番】
いかがでしたか?こちらの作品もぜひ聴いてみてください!
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「スラヴ舞曲」『フリー百科事典 ウィキペディア(Wikipedia)』2019年5月30日 (木) 10:53 URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/スラヴ舞曲
「Slavonic Dances」『From Wikipedia, the free encyclopedia』11 April 2020, at 14:05 URL:https://en.wikipedia.org/wiki/Slavonic_Dances
「ドヴォルザーク :スラヴ舞曲集 第1集 Op.46」『ピティナ・ピアノ曲辞典』URL:https://enc.piano.or.jp/musics/99
「ドヴォルザーク :スラヴ舞曲集 第2集 Op.72」『ピティナ・ピアノ曲辞典』URL:https://enc.piano.or.jp/musics/100