モーツァルト「クラリネット協奏曲」【解説と名盤】
目次
まずはダイジェストで聴いてみよう!
クラリネットが奏でる柔らかく伸びやかな旋律をオーケストラが優しく寄り添うように支えます。
まずは第2楽章をダイジェストで聴いてみましょう。
Tomàs Grau指揮 Orquestra Simfònica Camera Musicae
クラリネット:ザビーネ・マイヤー
作曲の背景
クラリネット協奏曲イ長調K.622はオーストリアの作曲家、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)が最晩年の1791年に作曲した協奏曲です。
この作品は当時のウィーン宮廷楽団で活躍したクラリネット奏者のアントン・シュタードラー(1753-1812)の為に書かれています。
モーツァルトはシュタードラーの為にクラリネット五重奏曲も作曲していて、いかに彼の演奏に触発されたかがわかります。
クラリネットの歴史は比較的新しく、元となったシャリュモーと呼ばれる古楽器に改良を加え、18世紀の始めごろにその原型が発明されたと言われています。
モーツァルトは1756年に生まれていますので、当時はまだまだ新しい楽器だったわけですね。
モーツァルトが活躍する頃にはクラリネットとよく似た構造を持ち、音色がやや落ち着いていて音域も低いバセットホルンと言う楽器も発明されます。
ホルンと言う名前が付いていますがクラリネットの仲間で、シュタードラーは両方の楽器を見事に演奏したそうです。
モーツァルトの作品の中にはクラリネットを編成に加えているものとバセットホルンを編成に加えているものの両方があります。
今回ご紹介するクラリネット協奏曲は当初バセットホルンの為に書きかけた作品を後に手直しして完成された作品だと考えられていて、バセットホルンの為に書かれた協奏曲は第一楽章の半ばまでの自筆の草稿が遺されています。
モーツァルトのクラリネット協奏曲はバセットホルンではなく、クラリネットの為に書かれたと言うことになるわけですが、シュタードラーが使用したクラリネットはさらに独自の改良が加えられたもので通常の音域よりも低い音域を出すことが出来ました。
これはバセットクラリネットと呼ばれる楽器で、モーツァルトもこの楽器が演奏可能な音域を駆使してこの協奏曲を書いています。
モーツァルトの死後、1801年に出版されるに際して通常のクラリネットで演奏できるように独奏パートに一部手が加えられたと考えられています。
クラリネット、バセットクラリネット、バセットホルン、いずれもクラリネットの仲間ですが、少し話が複雑になってしまいましたね。
この3つのクラリネット属の楽器を紹介している動画がありましたのでちょっと見てみましょうか。
(動画では変ロ長調のクラリネット、イ長調のクラリネット、バセットクラリネット、バセットホルンの順で紹介されています。)
クラリネット:Anthony Taylor
最も短いものが通常のクラリネット、それよりも長いものがバセットクラリネット、管の先端が曲がっているものがバセットホルンです。
モダンの楽器では外観も非常によく似ていますが、モーツァルトの時代に使用されていた楽器はもっとシンプルで特徴的な外観をしていました。
今日ではバセットクラリネットやバセットホルンが使用されることは少なくなりましたが、華やかな中にもやや落ち着いた音色を響かせる楽器なので機会があれば聴いてみるのも面白いかも知れませんね。
クラリネットの説明が長くなってしまいましたが、この楽器の持つ魅力を存分に引き出した素晴らしい作品です。
モーツァルトはこの作品を作曲したとされる1791年10月頃から2か月も経たない12月5日、35歳の若さでこの世を旅立つことになります。
モーツァルト「クラリネット協奏曲」の解説
第1楽章:Allegro
オーケストラが奏でる前奏は明るく清涼で瑞々しい雰囲気に包まれています。
それに続くクラリネットの独奏は柔らかい音色が印象的で華やかな楽句の中にも優しさを秘めています。
クラリネット特有の男性の声を思わせるような低音域から柔らかく優しい中音域、明るさと高貴さを兼ね備えた高音域まで幅広い音域を自在に駆け回りながら音楽が展開されていきます。
第2楽章:Adagio
クラリネットとオーケストラが紡ぎ出す静かで穏やかな曲想はまるでゆっくりと雲が流れていくようで心が落ち着きます。
技巧を凝らした華やかな楽章も印象的ですが、こういう緩徐楽章の美しさこそモーツァルトの音楽の素晴らしいところだと思います。
その美しさは天上の音楽と言った雰囲気で俗っぽさが全く見当たりません。
第3楽章:Rondo-Allegro
独奏クラリネットが自在に軽妙に踊るかのように駆け回ります。
モーツァルトはこの作品を書いた2か月後に若くして亡くなります。最晩年の作品のために何かしら作品中に憂いを感じると言うような感想もあるようですが、個人的にはあまりそのような雰囲気は感じません。
むしろモーツァルトの純真無垢な少年のような心が純粋な音楽として昇華したような気さえもします。
モーツァルト「クラリネット協奏曲」のyoutube動画
モーツァルト クラリネット協奏曲イ長調K.622
第1楽章(0:27) 第2楽章(12:58) 第3楽章(20:07)
Cornelius Meister指揮 アイスランド交響楽団
クラリネット:Arngunnur Árnadóttir
モーツァルト「クラリネット協奏曲」の名盤
管理人おすすめの名盤はこちら!
【収録曲】
モーツァルト:クラリネット協奏曲イ長調 K.622
ドビュッシー:クラリネットのための第1狂詩曲
武満 徹:ファンタズマ/カントス
クラウディオ・アバド指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
クラリネット:ザビーネ・マイヤー
録音:1998年12月
21世紀も四半世紀になろうかと言う今日においても、いまだに20世紀の半ばに活躍したレオポルト・ウラッハ(1902-1956)やアルフレート・プリンツ(1930-2014)と言った往年の名手たちの録音が名盤として紹介されることの多い本作品ですが、ここではあえてザビーネ・マイヤーの新盤をおすすめの名盤としてご紹介したいと思います。
快適なテンポで伸びやかに奏でられるクラリネットソロの音色は明るく瑞々しさに溢れていますが、演奏するマイヤーもベルリン・フィル入団を巡りカラヤンとオーケストラが対立する騒動に発展したことなど、もうずいぶん昔のことになった感があります。
関心のある方はこちらの記事で詳しく書いていますのでご覧ください。
「Amazon Music Unlimited」でいろんなアーティストの録音を聴き比べてみませんか?まずは無料体験から!
いかがでしたか?こちらの作品もぜひ聴いてみてください!
お役に立ちましたらクリックをお願いします。