ブラームス「ピアノ協奏曲第1番」【解説と名盤】
目次
まずはダイジェストで聴いてみよう!
力強いトリルが印象的なピアノの独奏、オーケストラもそれに応えるようにドラマティックな響きで主題を奏でます。
まずは第1楽章をダイジェストで聴いてみましょう。
サイモン・ラトル指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ピアノ:ダニエル・バレンボイム
ヨーロッパ・コンサート2004より(ヘロディス・アッティコス音楽堂・アテネ)
作曲の背景
ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15はドイツの作曲家、ヨハネス・ブラームス(1833-1897)が1857年に書き上げたピアノ協奏曲です。
1853年9月、20歳の時に出会ったシューマンに認められ、シューマン自身が創刊したドイツの有名な音楽誌「新音楽時報」の評論で熱烈な賞賛を受けたブラームスは、徐々に作曲家としての知名度を上げていきます。
しかし、そのシューマンは既に精神を病んでおり、翌1854年2月にはライン川に身を投じ自殺を図ります。
その翌月の1854年3月、「2台のピアノためのソナタ」に着手したブラームスは、これを交響曲にしようと考えますが、その作業はなかなか進みません。
さらに翌1855年にこれをピアノ協奏曲として改作しようと試みたのが、今回ご紹介するピアノ協奏曲第1番です。
1856年7月、自分を見出してくれた恩人でもあるロベルト・シューマンは自殺未遂以来、療養所から出ることなく46歳でこの世を去ります。
ブラームスはシューマンの妻クララに対し、特別な感情を持っていたと伝えられますが、真偽は別としてシューマンの死後も長く二人の親交は続き、多数の書簡も遺されています。
そしてこの作品の作曲に当たっては高名なピアニストとして世に知られていたクララとブラームスのよき理解者でもあったヴァイオリニストで指揮者・作曲家のヨーゼフ・ヨアヒムの助言が大いにあったそうです。
第2楽章は新たなものに書き換えられ1857年の1月には完成、2年後の1859年1月にヨーゼフ・ヨアヒムの指揮、ブラームス自身のピアノ独奏で初演が行われました。
また、この年には前年に婚約したアガーテ・フォン・ジーボルト(日本でも有名な医師シーボルトの縁戚)と「結婚には踏み切れない」との理由で一方的に破談にしています。
完成当時の評価はあまり芳しいものではなかったようで、聴衆が退屈のあまり野次を飛ばしたと言うエピソードが残っています。
ブラームス24歳の若書きの作品ですが、既にブラームスらしい交響的な要素を多分に含んだ作品で、独奏者の名人芸的な要素を散りばめた他の作曲家の手による当時の協奏曲とは趣も異なり、受け入れられなかったのかも知れませんね。
ブラームス「ピアノ協奏曲第1番」解説
第1楽章:Maestoso
冒頭、ティンパニのトレモロとオーケストラの持続音に乗って弦楽器が劇的な第1主題を力強く奏でます。(譜例①)
楽譜には「Maestoso」(堂々と、威厳をもって)とのみ記されてあり、速度標語はありません。
オーケストラによる壮大な提示部が終わるとようやく独奏ピアノが静かに語りだします。反復されながら上昇していく音型は雄弁で、力強さに満ちています。
やがて潮が引くように徐々に静けさを取り戻し、その中から浮かび上がるように独奏ピアノが美しい第2主題を静かに奏でます。(譜例②)
楽曲はピアノの力強い響きと共に展開部を迎え、ドラマティックに高揚していきます。その後ピアノが力強く第1主題を再現し、クライマックスへと導いていきますが、その前に調を変えて現れる独奏ピアノによる第2主題が緊張を緩和する束の間の時間のようで心地よく響きます。
最後は再び第1主題が現れ、劇的に終曲します。
第2楽章:Adagio
第2楽章はこの作品の原型となった「2台のピアノためのソナタ」から新たなものに書き換えられ、最後に作曲されました。
そのピアノ譜の草稿にはミサで用いられる祈祷文「ベネディクトゥス」の一節がラテン語で記されていて、亡きシューマンへの哀悼の意を表しているとも、夫を失ったクララへの想いが織り込まれているとも語られています。
ファゴットと弦楽器が奏でる祈るような穏やかで美しい旋律は宗教的な清浄さも感じさせます。
オーケストラに続き独奏ピアノがこの主題をなぞるように静かに入ってきます。(譜例③)
中間部では短調に転じ、曲想が変わりますが、再び冒頭の主題に回帰し、短いカデンツァを挿み、オーケストラが静かに主題を奏でて終曲します。
美しさと共に若きブラームスの詩的なロマンティシズムが感じられる楽章です。
第3楽章:Rondo. Allegro non troppo
冒頭のロンド主題は短調で書かれていますが、とても生き生きとした躍動感と力強さに満ちた旋律です。(譜例④)
ロンド主題が繰り返される間に挿入される副主題はそれぞれ違う表情を持ち、バロックの組曲を想わせるようなフーガ風の展開もあり、聴く人を飽きさせません。
曲は幻想曲風にと指示されたカデンツァ(譜例⑤)の後、テンポを落とし、一旦落ち着いた雰囲気になりますが、その後カノン風の楽句が繰り返され徐々に高揚しながら、最後にもう一度短いカデンツァを挿さみ終曲します。
ブラームス「ピアノ協奏曲第1番」youtube動画
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15
第1楽章(00:40)
第2楽章(23:17)
第3楽章(36:32)
アンドレス・オロスコ=エストラーダ指揮:hr交響楽団(フランクフルト放送交響楽団)
ピアノ:リーズ・ドゥ・ラ・サール
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ブラームス「ピアノ協奏曲第1番」名盤
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ブラームス
ピアノ協奏曲 第1番 ニ短調 作品15
カール・ベーム指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ピアノ:マウリツィオ・ポリーニ
録音:1979年
晩年の巨匠カール・ベームはなんと御年85歳、若き日のポリーニは37歳の録音ですが、ベーム&ウィーン・フィルの名コンビは重厚な響きの中にも美しさを忘れない名演です。
老巨匠にありがちな重すぎるテンポや節回しも感じられず、ポリーニのピアノは瑞々しく研ぎ澄まされた美音で聴く人の心を惹きつけます。
最後までお読みいただきありがとうございます。こちらの作品もぜひ聴いてみてください!
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